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クラウド導入で電話営業をやめた不動産ベンチャーの話

7/27(木) 10:53配信

ITmedia エンタープライズ

 「もしもし、突然ですがマンションの経営などに興味はございませんか?」「いえ、特にないです」――ガチャ。

【新規営業電話を廃止してからの営業方法】

 読者の皆さんは、不動産投資の営業電話を受けたことがあるだろうか。このように電話を突然切られてしまうことを業界用語で「ガチャ切り」と言うそうだ。トラブルにも発展しやすい電話営業だが、思い切って新規獲得のための電話営業を全廃した不動産会社がある。2010年に創業したベンチャー企業「Fan's」だ。

 「別に電話がなくても、十分な営業活動はできていますよ」――そう語るのは、同社代表取締役の國師康平さん。投資用ワンルームマンションの開発、販売をメインに幅広く事業を展開しているとのことだが、同社ではどのような営業を行っているのだろうか。

●IT化が遅れている不動産業界

 Fan'sはもともと、ITで不動産業界にイノベーションを起こすことを目的に設立した企業だ。対面での接客対応や物件情報のやりとりがFAXであるなど、不動産業界は“アナログ”な業務が非常に多い。電話による営業もその1つだと國師さんは話す。

 「不動産業界では、飛び込みや電話といった営業手法が一般的です。私たちはこの慣習を変えるため、不動産の仕入れから販売まで、全てWebで完結できるようにすることを目指しました」(國師さん)

 同社では、AIがワンルームマンションを自動で査定してくれる、買い取りサービスの「HAYAGAI」を展開しているが、査定や商談をオンラインで行えるため、一般的な不動産仲介業者と比べて、プレイヤーの数やかかる労力が少ない。そのため「高く買い取り、安く売れる」というのが特徴だという。

●新規獲得の電話営業をやめた2つの理由

 そんな同社が、新規獲得の電話営業を廃止したのは2つの理由がある。1つは個人情報に対する規制の強化だ。昨今は個人情報保護法など、プライバシーに対する意識が高まっている。そのため、電話営業を行うために必要な情報が手に入りにくくなっている。

 もう1つは電話営業における商談化率の低さだ。國師さんによると、電話営業は9割以上断られるのが普通だが、一方でそれを止められない事情もあるという。

 「いわゆる“ガチャ切り”が多いのも事実ですが、詳細を説明すると興味を持ってもらえるお客さまもいます。会社に対する悪評が立つなどのリスクもありますが、運が良ければ、1日で数千万円が動くケースもあるため、電話営業を続けているのだと思います」(國師さん)

 できるだけ断られないようにするためにはどうすればいいか……。そのためにFan'sは「集客」と「営業」を完全に切り分けた。

●クラウドアプリケーションで集客を自動化

 同社は不動産事業のほかに、女性向けの資産管理セミナーを行ったり、不動産投資に関するWebメディアも展開したりしている。このほか、出稿しているWeb広告なども合わせ、その顧客リストをクラウド上で統合。顧客の属性に応じてメールなどで情報発信を行い、アポイント獲得を目指すデジタルマーケティングを始めたのだ。

 こうしたデジタルマーケティングによる集客は営業部門ではなく、企画部門が行っている。アポイントを取得した後は、契約までのプロセス管理や購入後の関係構築を、トップ営業のノウハウを基にシステム化。業務の効率化とスキルアップを視野に入れている。

 新たなプロモーションの構築には、「Oracle Social Cloud」や「Oracle Eloqua」、そして「Oracle Sales Cloud」といったマーケティング支援のクラウドアプリケーションを利用している。Web上の活動だけで“見込み客”を生み出せるようになり、1人あたり1日約500人にかけていた新規の営業電話がゼロになったのだ。

 電話営業をやめた効果はさまざまだ。風評が減ったほか、早期離職者が目に見えて減り、求人も増えたという。

 「およそ9割断られる電話営業は、精神的につらいという人も多いです。これをなくすことで、早期離職者は20人に1人か2人くらいにまで減りました。新規の電話営業がないということで、就活生にも人気が出ています」(國師さん)

 また営業プロセスをシステム化したことで、営業全体のレベルを底上げできたのも大きな効果という。これまでは各営業の力量によって、商談を行える案件数に差ができてしまい、優秀な人はますます伸びる一方、そうでない人は伸び悩む原因になっていた。営業全体でスキルの差が開きやすかったのだ。

 「システム化をしたことで、各営業の接客機会を均等にすることができました。やはり営業が育つのに必要なのは現場での商談経験です。ノウハウを共有できるようになったことで、これまでより新人のレベルアップがとても早くなったように感じます」(國師さん)

 土地に限りがあることから、首都圏では新築よりも中古物件の流通が増えており、「将来性のあるマーケットだ」と國師さんは胸を張る。自動化できるところはSaaSやAIを使い、本当に人間が必要な業務にリソースを集中していく。不動産業界でなくとも、Fan'sのIT戦略が参考になる企業は多いだろう。