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84歳、現役舞台装置家のすごみ 生涯現役を貫く竹内志朗さん

7/27(木) 10:00配信

デイリースポーツ

 「新婚さんいらっしゃい!」「探偵!ナイトスクープ」のタイトル文字をはじめとする手書き文字職人としても知られる竹内志朗さんは、84歳になる今も舞台装置家として年間30本を超す舞台の図案を手描きで仕上げている。大好きな舞台の世界にかかわり続けて約70年。「一度も仕事をいややと思ったことはありません。むしろ年齢を重ねるごとに仕事が楽しくなってきました」と話す。2年後の舞台装置画の依頼も舞い込んでおり「まだまだしつこく生きていこうと思てます」と生涯現役を貫く。

 舞台装置家の仕事は、脚本をもとにストーリーのイメージを膨らませ、役者が演じやすいように舞台上の住居や店、背景となる風景を50分の1の縮尺にして立面図として描き上げるいわば舞台の設計士だ。その図案をもとに大道具スタッフらが舞台装置を完成させていく。

 今年は前半だけで20本の舞台の図案を手がけた。机に向かい筆を持った途端ものの数分で作業に没入する。「ついこの間も気がついたら22時間起きっぱなしでした」と飄々と話す。妻・方乃さんを3年前に亡くし、現在は大阪市内で一人で暮らし。土釜でご飯を炊く時間が息抜きだ。

 中学生の時、母親に大阪歌舞伎座に連れられ、舞台のとりこになった。高校生の時には劇場へ出入りするうち、舞台関係者に可愛がられるようになり、当時の市川海老蔵(後の十一代目市川團十郎、現・市川海老蔵の祖父)の舞台づくりを手伝ったこともある。「僕は体が弱いから團十郎の名跡を継ぎたくない、と海老蔵さんが話す声が聞こえてきて、えらいこと聞いてしもたと思いました」。

 その後、1956年の大阪テレビ放送(現・朝日放送)開局とともにニュースの画面に映す文字を書く仕事に携わり、番組のタイトル文字も手がけるようになった。池波正太郎さん直筆の斜め右に挙がったクセのある字をもとに書いた「剣客商売」のタイトルは、600枚書き上げてようやく納得いくものができたという。

 舞台装置の絵を描くようになってからも多くの出会いがあった。20年1日も休むことなく舞台に立ち続けた藤山寛美さんとの思い出は尽きない。「20の演目の中からお客さんにその場で選んでもらうリクエスト狂言という出し物がありまして。そのすべての舞台装置を1カ月ですべてを仕上げるんです。選ばれる演目は偏るので15ほどの演目の舞台装置は結局使われないままお蔵入りになりました」。

 竹内さんにはずっと貫いている仕事のルールがある。一つは、どんなに忙しくても締め切りの数日前にはいったん完成させ、1日置いてから見直すことだ。「時間をおいて冷静に見るとあらが見えてくるものです。気付いたところを修正してから納めるようにしています」。そしてもう一つは毎日欠かさず文字を書き続けることだ。「1日休むだけで勘が鈍ります。皆さんも字が上手になりたければ毎日書き続けること。ただし書き順だけは間違えないように」。より納得のいく作品を生み出すために、よりうまく描くために、今日も筆を握り続ける。(デイリースポーツ特約記者・山口裕史)