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一流の研究機関で行われたモチベーションに関する実験結果

7/27(木) 19:34配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 私たちには意思があり、意思があって動いている。でも、意思じゃないものも私たちを動かしている。私たちを動かしている「モチベーション」とは一体なにか? ここでは、スタンフォード大学やハーバード大学をはじめとする、各研究機関で解明された「人の心理と行動」のパターンを紹介する。

●なぜ私たちは、「やりたいこと」を選べないのか?(機会費用)

 まず、このような実験があります。

 被験者をAチーム、Bチームに分けます。そして、こんなイメージをしてもらいます。あなたは、アルバイトでためたお金で何か買い物をしようと街を歩いています。すると、ずっと買いたいと思っていたビデオが、特別セールで14ドル99セントになっていました。

 Aチームに質問をします。次のうち、どちらを選びますか?

(1)このビデオを買う

(2)このビデオを買わない

【結果】

(1)75%

(2)25%

 「買う」「買わない」という二者択一だと、ほとんどの人が「買う」を選びました。

 そして、Bチームには次の質問をします。

(1)このビデオを買う

(2)このビデオを買わず、14ドル99セントで「別のものを買う」

 結果はどうなったでしょうか?

(1)55%

(2)45%

 つまり「お金を他のものに使ってもいい」という自由が与えられただけで、半数近くの人が「だったら、別のものを買う」と意思表示をしたのです(参考:イェール大学 行動経済学者シェーン・フレデリックの実験)。

 この実験結果について、さまざまな捉え方ができますが、私はここに「行動を先送りするメカニズム」が隠れているのではないか、と考えました。

 実験では、「買うか」「買わないか」という選択肢であれば、75%の人が「買う」と答えました。それなのに、「別のものを買いますか?」と問われたら、「買う」人は55%に減りました。

 これは言い換えると、「別のものも買えますよ」とアドバイスされただけで、20ポイントもの人が「買う」という選択ができなくなってしまった、ということを意味します。

 私たちの毎日も似ていませんか?「やりたい」「やらなきゃ」と思うことがあっても、「他のことをやってもいい」ことに気がついた途端、急に「やる」という選択をしにくくなるということが。

 たった1つの選択でさえ、5人に1人が脱落するわけですから、日常において数え切れないほどの選択(一節では、1日に1万回ともいわれています)をする私たちが、「やると決めたことをやる」のは容易ではありません。

 ここで、いま、すぐに行動しなくてもいい、他の行動に時間やエネルギー、お金を使ってもいい。そう思えることは、自由かつ便利で幸せな状況にも見えますが、選択肢が多いのは、望む行動から遠ざかる原因でもあるのです。

 選択に関するある研究によれば、「私たちのストレスの多くは、常に多くの選択肢にさらされていることが原因だ」という結果が出ています。

 やりたいことが目の前にあるのに、「もっと他にできることがあるかも」「もっと別のことに使った方が賢いかも」と考えることによって、「選ぶ」ことを先延ばしにしてしまうのです。そんな風にして、「目の前にある欲しいものを選ばない」のは大きなストレスだというのです。

 いつもモチベーションが高い人と、なかなかモチベーションが上がらない人との差は、ここにも存在するような気がします。

 モチベーションの上がらない人は、目の前にやることがあっても、「別のことがもっとやりたいかもしれない」と見送りやすく、モチベーションの高い人は、目の前にあることをただ選ぶだけです。

 結果的に、前者はストレスをため、後者は充実した日々を過ごします。この「小さな差の積み重ね」が、大きな差を生むのではないでしょうか。

●なぜ私たちは、「やるべきではない」ことに手が伸びてしまうのか?(マシュマロ実験)

 続いて紹介するのは、このような実験です。試食調査として、24枚入りのクッキーを協力者に渡します。Aチームには、むき出しでクッキーが入っている箱を渡すBチームには、1枚1枚、クッキーが個包装されている箱を渡す

 その結果、

 Aチームは6日間でクッキーを完食した

 Bチームは24日間でクッキーを完食した

(参考:行動経済学者ディリップ・ソマンとアマール・チーマの実験)

 ある行動をしがちか、避けがちか、その差は、報酬を得るまでの必要アクション数にあるというのです。私は、なるほど! と思いました。

 私たちはふとした時間があると、ついSNSやメールをチェックしてしまいます。それはなぜでしょうか? スマホをつかんで、画面にタッチをするだけだからです。つまり、報酬を得るまでの必要アクションが圧倒的に少ないのです。

 私たちの活動はアクション数が少ない方へ、少ない方へと流れていくので、アクション数を意図的に増減させるのは、生活に変化をつけるのに有効な手だてです。例えばSNSのとりこにならないようにするためには、スマホを手の届かないところに置いたり、バッグの奥底の取り出しにくい場所や、引き出しの奥深くにしまったりするといいでしょう。ふとSNSが気になっても、スマホを取り出すのが面倒くさくて諦められます。

 反対に、積極的にやろうとしていることは、アクション数を減らします。朝のジョギングを続けたいなら、寝る前にベッドの脇にジョギングウェアを広げておいてもいいかもしれませんし、読書習慣を続けたいなら、いつも着ている服のポケットに本をしまっておくといいかもしれません。

 ただ、なんでもかんでもアクション数を減らせばいいというわけでもありません。時には、あえてアクション数を増やすことも大切です。1つ1つを丁寧に包んだり、直筆で手紙を書いたりすることによって、暮らしに豊かさやゆとりも生まれます。

●なぜ私たちは、「やると決めたこと」を続けられないのか?(一貫性の原理)

 最後に紹介するのは、このような実験です。ダイエット中の人たちを集めて、3チームに分けました。

 そして監督者の指示により、

 Aチームは、何も食べてはいけない

 Bチームは、カロリー高めのお菓子を少量食べてもらう

 Cチームは、カロリー高めのお菓子を満腹まで食べてもらう

 しばらくたってから、食べ物が用意された別の会場に移動し、それぞれのチームの人たちが、どれだけ食べ物を口にするのかを観察します。

すると……

 最も食べたのは、すでに満腹になっていたはずの「Cチーム」で、最も食べなかったのは、何も食べていない「Aチーム」でした。(参考:トロント大学 ピーター・ハーマンたちの実験)

 なぜこんなことが起きたのでしょうか? それはきっと単純なことで、「ダイエットを頑張っていた」人が、「お菓子をたくさん食べさせられた」ことによって、「もういいや!」となげやりになってしまったからでしょう。結果的に我慢が効かなくなり、暴飲暴食をしてしまいました。

 一方で、何も口にしなかった人は、「ダイエットを頑張っている」という気持ちを保つことができたので、空腹でも別会場で自制心が働いたのでしょう。

 物事を継続したければ、油断することなく、常に自分を厳しく律すべきなのである! と言いたいわけでは、決してありません。「常に厳しく自分を律する」ことは現実的には難しい問題ですし、この実験のように、自分の意思に反してペースが乱されることは、日常では頻繁に起こりうるからです。

 ここで伝えたいのは、「私たちは誰だって、意思の強さとは関係なく、自分で決めたペースが乱れると、なげやりになりやすい」ということです。

 みなさんも経験はありませんか?

 ダイエット、英語の勉強、ストレッチ、日記、トイレ掃除……頑張ろうと決意して、しばらく続けることができていたのに、1回たまたま「できなかった日」があった。しかし、そのたった1回のできなかった日のせいで、急にモチベーションが下がってしまったことが。

 そんなとき、自分に失望して、意思が弱いんだ、だから続けられないんだと、やり続けていたことを放り出してしまうことがあります。しかし、その多くはきっと勘違いで、ただ単純に「やろう」と思っているペースが乱れたことで、投げ出したくなったという、人間の標準的なメカニズムが働いただけなのではないかと考えます。だから一度くらい「サボってしまって」も、全く気にすべきではありません。

 ペースが乱れることは普通なことだし、ペースが乱れると、嫌な気持ちになるのも普通なことです。ただ「再開」すればいいのです。そして何度中断しても、再開するという選択を続けられると、結果的に「継続力」が身に付くのではないでしょうか。

 いかがでしたか?

 私はモチベーション研究の専門家ですが、人一倍怠け者です。いつ、何をやるにしても「後回しにしたい」気分と戦っています。だからこそ、「やらなきゃ」というストレスに敏感です。

 なぜストレスなのかを考えて、それがやりたいという気持ちに変わるまで、毎日あの手この手を尽くしています。

 やったほうがいいと分かっているけど、やりたくない――

 ……でも、今より前に進みたいから、やるしかないか――

 そんな風に毎日脳内で戦っているのは、私たちだけではなく、全世界70億の人たちもみんな一緒だと思うのです。今日も「モチベーション」とうまく付き合いながら、記憶に残るような素晴らしい1日を送りましょう。

(池田貴将)
(ITmedia エグゼクティブ)