ここから本文です

軍事用語として誕生したVUCA――激変するビジネスの戦場でリーダーはいかに立ち振る舞うか

7/27(木) 19:35配信

ITmedia ビジネスオンライン

 ITmedia エグゼクティブ勉強会に、グローバル ナレッジ マネジメントセンターの上田禎(うえだ ただし)氏が登場。「VUCAの時代:リーダーに求められる役割とは? ~不安定で不確実、複雑で曖昧な時代~」をテーマに、ビジネス環境が激変するVUCAの時代に、ビジネスパーソンはどのように対処し、リーダーは何をすべきかを語った。

 グローバル ナレッジ マネジメントセンターは、日本において米国AMA(アメリカン・マネジメント・アソシエーション)の事業を展開するために、2012年に設立された株式会社である。AMAは1923年に米国で設立され、日本では、1993年より研修プログラムの提供を開始した。日本支社の開所式では、AMAの終身顧問であり、経営学者のピーター・ドラッガー氏もスピーチをしている。

●軍事用語として1990年代に誕生した「VUCA」

 VUCAは、1990年代に軍事用語として誕生した言葉である。変動制(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字に由来する。VUCA前の戦争は、国と国の戦いだった。そこで、統合参謀本部が作戦を作り、現場の部隊が作戦を忠実に実行するだけだった。ビジネスも同様で、トップマネジメントが戦略を立て、現場が実行するモデルだったため、組織の形態はピラミッド型だった。

 しかし、2001年に始まったアルカイダとの戦争により状況は一変する。最大の変化は、アルカイダが国ではないことだ。組織のようではあるが、誰がトップかよく分からない。また、トップが作戦を立て、それを現場が実行しているわけでもない。思想に同調した人たちが、同時多発的にテロを行う。これまでの国を中心とした戦争とは、スタイルがまったく異なる。そこでVUCAという言葉が生まれ、その時々に応じた戦い方が必要になった。

 「感覚的には、ビジネス業界よりも米軍の方がリーダーシッププログラムは進んでいる。AMAでは、米軍とともに、数多くのリーダーシッププログラムを開発しており、このプログラムは、ビジネス業界にも十分に転用できる内容である」(上田氏)

●VUCA時代のビジネスの特徴

 高度経済成長期には、未来は現在の延長線上にあると考えられていた。そのため、生産性を向上し、効率よくアウトプットすることにフォーカスしていた。この時代は、トップマネジメントが戦略を考え、現場が実行するというモデルだった。現場が、生産性や品質を向上していけばよかった時代である。しかし現在は、過去の延長線上に未来がないVUCAの時代である。この時代にリーダーは何をすればよいのだろうか。

 VUCAの時代には、「イノベーション」や「新規参入者」により、業界の常識が大きく変化する。イノベーションの代表例としては、「IoT」「Fintech」「VR(仮想現実)」「AI(人工知能)」などがあり、次のビジネスにつながる可能性を秘めている。

 また新規参入では、例えば自動運転の分野に、AppleやGoogleが参入している。上田氏は、「日本の自動車運転は、人間の運転を自動車がアシストするというアプローチで開発されている。一方、AppleやGoogleの自動運転は、運転を自動化するという考えではなく、物体を自動で動かすというアプローチである」と語る。それでは、VUCA時代においてビジネスを推進する上で、これまでとは何が違い、何が必要なのだろうか。

●組織の俊敏性と弾力性を高める「The AGILE Model」

 AMAでは、2006年に「変化の激しいビジネス環境」に関するリサーチを実施している。調査対象は、1400人のエグゼクティブと管理職だ。内容は、(1)組織が外部環境の変化をどのように捉えているか、(2)変化に対応するために何を実行しているか、(3)各市場において高い業績を残している企業が、変化に対応するために何を行っているかである。

 その結果、自分の組織が経験している変化のペースが、5年前と比べて早まっていると回答したのは82%に上った。また、69%が過去12カ月間に自分の組織が驚きや衝撃を伴う変化を経験したと答えている。

 「企業の変化のスピードよりも、世の中の変化のスピードが速くなっている。頻繁かつ短期間に倒産している大企業が増えている。これまでの成功事例が、今後も役立つとは限らない。周囲の状況に追い込まれてからではなく、自らビジネスモデルを改革できる能力を持つことが必要になる」(上田氏)

 例えば、富士フイルムは「写ルンです」が絶好調の時代に、デジタルカメラ時代に向け、医薬品や化粧品の事業を立ち上げる準備をしていた。上田氏は、「“ゴー”を出したトップマネジメントが素晴らしいと思う。フィルム全盛期に、なかなかできる意思決定ではない。追い込まれてからではなく、早め、早めに変革することが必要になる」と話す。

 「高い業績を残している企業に見られる傾向として、自社を俊敏性(Agility)と弾力性(Resilience)が高い組織であると認識している。変化をチャンスと捉え、変化のペースは速まっても予測可能と考えている。個人、チーム、組織全体で、変化に対応する能力を備え、トレーニングなどを実施して、リーダーの変化対応力の向上を図っている」(上田氏)

 つまり、俊敏性と弾力性が重要になるが、これをまとめたのが、Dr.ニック・ホーニィー氏である。同氏は、組織とリーダーシップを分析し、変化の激しい時代に生き残っていくために、組織としてすべきことを「The AGILE Model」としてまとめた。ポイントは、大きく2つ。「5キードライバー(5つの領域)」と「3つのファクター」である。

 5キードライバ(5つの領域)とは、変化を予測する(Anticipate Change)、信頼性を高める(Generate Confidence)、行動を起こす(Initiate Action)、思考を開放する(Liberate thinking)、結果を評価する(Evaluate Result)の5つ。頭文字をあわせて「AGILE」となる。

 以下に、各領域での3つのファクターをまとめた。

1、変化を予測するためにリーダーとして取るべき行動

(1)明確なビジョンと方向性を示し、組織全体に浸透させる

(2)ビジネス環境の変化を察知し、変化に対応する戦略を立案する

(3)内外部の顧客のトレンドや競合他社の変化に対応する

2、信頼性を高めるためにリーダーとして取るべき行動

(1)メンバーがチームの一員としての連帯感を持って仕事に取り組める肯定的な環境を作る

(2)階層や部門を越えて、オープンで正直なコミュニケーションが取れるようにする

(3)メンバーの能力向上を支援し、モチベーションを高める工夫をする

3、行動を起こすためにリーダーとして取るべき行動

(1)組織全体を通じて行動することを重んじ、スピードが高く評価される環境を作る

(2)メンバーが自分で意思決定できるように判断の基準を示したり、適切な権限委譲をしたりする

(3)必要に応じて、メンバーや他部門の協力が、速やかに得られる仕組みや関係を作る

4、思考を開放するためにリーダーとして取るべき行動

(1)創造性と革新性を評価し、改善のためのアイデアを自由に出せる環境を作る

(2)顧客やサプライヤー、従業員の意見、提言、苦言をビジネスに積極的に取り入れる

(3)よいアイデアは職域を越えて組織全体に反映できるようにする

5、結果を評価するためにリーダーとして取るべき行動

(1)メンバーに対し業務に関する期待を明確に伝える

(2)仕事の成果ややり方に対するフィードバックを効果的に行う

(3)チームやメンバーの成果に対する適切な評価基準を持ち、評価の結果を改善、向上のために活用する

 上田氏は「俊敏性と弾力性を高めるためには、AGILEな組織であることが必要になる」と言う。さらに組織がAGILEであるためには、(1)ピープル、(2)テクノロジー、(3)プロセスという3つのファクターが重要になる。この3つのファクターが、バランスよく配置されていなければ、AGILEな組織を作ることはできない。

 「これまでの時代は、可能性として“ほぼ間違いなく起こる”あるいは“起こりうる”という高確率で、影響度の大きい分野だけに注目しておけばよかった。VUCAの時代は、可能性として“めったに起きない”が、もし起きると影響度が大きい分野も想定しておかなければならない」(上田氏)

●VUCA時代のリーダーに必要な能力とは

 これまでのリーダーは、先頭でメンバーを引っ張ることが求められた。VUCA時代のリーダーは、もしリーダーに問題が発生した場合でも、別のメンバーが率先してリーダーシップを発揮できる有機的な組織を構築する能力が必要になる。

 「想定外を想定すること。確率の時代から、不確実性の時代に変化したことを意識しなければならない。この10年、ビジネス環境で予測していなかった出来事も起きている。確率の低いものについてもビジネスストーリーを描いておく。VUCA時代のビジネスでは、有望だった製品やサービスでも、すぐに陳腐化してしまう。また、グローバル環境が複雑な関係性で、思いもよらぬ影響を受けることもある」(上田氏)

 さらに、新たなる市場創造や参入者も登場している。不測の事態は起きるものと考え、常に複数のシナリオを描いておくことが必要になる。そのためには、クリティカルシンキングにより、本質を捉える思考法がないと見誤ってしまう。また、複数のビジネスストーリーを描く力も必要だ。さらに、柔軟な対応力のある組織作りが必要になる。リーダーのスキル以前に、リーダーが持つべき能力として重要になる。

 ビジネスストーリーとは、未来のシナリオに対するビジネスの方向性を示したもの。シナリオとは、不確実性の環境の中で起こりうる筋書きである。ビジネスストーリーを描くステップは、以下の通りである。

(1)テーマを決める

(2)環境要因(ファクター)を決める

(3)情報収集をする

(4)情報を分析しドライビングフォースを見つける

(5)キードライビングフォースを見つける

(6)複数のシナリオを描く

(7)ビジネスストーリーを描く

 上田氏は、「VUCA時代のリーダーに求められる役割に正解はないが、世の中の動きに対してアンテナを張っておくことが重要になる。これまでであれば、自社の業界に関係ないと思っていたことでも、考えておくことが必要だ。もし何か起きたときに、どのように関係するかを描いておく力をつけておく。また、リーダーは、それに対応できる組織作りをしておくことも必要になる」と締めくくった。

(山下竜大)
(ITmedia エグゼクティブ)