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【オーストラリア】【有為転変】第113回 日本と豪州の銀行税

7/28(金) 11:30配信

NNA

 オーストラリア連邦政府と南オーストラリア(SA)州政府が、それぞれ別に5大銀行に対して銀行税を導入すると明らかにして注目している。注目しているのは、銀行税が国や州にどの程度の財政効果をもたらすか――などではなく、銀行税が導入されるまでの議論の内容だ。日豪両国の「政治力の違い」を見せつけられる思いがしている。
 オーストラリア連邦政府が導入を決めた銀行税は、1,000億豪ドル(約8兆8,000億円)以上の事業債務を持つ、オーストラリアの大手5行を対象に、25万豪ドル未満の預金などを除く同事業債務額に対して年0.06%を課税するというものだ。
 これは、銀行破綻に備えた財政保証や財政予算の新たな捻出源として期待されている。だが、銀行税の導入がささやかれ始めて以来、銀行側から「そもそも銀行税は違法ではないのか」という議論がなかったことに、個人的に不可解な気分で見守っていた。
 ■「税の公平原則」に反する?
 それは、日本でも2000年に、当時の石原慎太郎・東京都知事が導入しようとして結局果たせなかった、銀行対象の外形標準課税(銀行税)が記憶に新しいからだ。東京都のケースでは、銀行側との法廷闘争でもつれた結果、控訴裁で都が敗訴し、最終的には最高裁で和解が成立し、都が銀行側に2,300億円以上を返還していた。
 当時の石原知事の思惑は「銀行は多額の業務利益があるにもかかわらず、過去の不良債権があるために、ほとんど課税されていない」ことにあった。
 日本の地方税法では実際に、事業税の特例として、電気やガスなどを除く法人に「事業の情況に応じて課税できる」と定めている。あわや財政再建団体に転落しそうだった東京都はそこで、法人税のように所得ではなく、資本などの事業規模に課税する外形標準課税の導入を計画。対象は、資金量が5兆円以上の銀行で、業務粗利益に3%を課税するとした。これに、大阪府も追随した。
 だが銀行業界は巨大弁護団を組織し、一部の地方銀も含め、21行が東京都と大阪府を相手に行政訴訟を起こし、控訴審でも勝訴した。銀行側の言い分は要するに「大手の銀行にだけ課税するのは『税の公平原則』に反する」というものだった。
 ■ある政治的事情
 さて、オーストラリアのケースに戻る。
 銀行税が正式に発表されたのは今年5月の新年度予算案だったが、驚かされるのは、施行がそれからわずか2カ月後の7月だったことだ。当然ながら、大手銀行は反発した。
 だが興味深いのは、反発は「銀行に大打撃で、政府に納める法人税も少なくなる」「財政再建が目的なら、予算均衡税のように、時限税とすべきだ」などの減免嘆願が主で、まるで違法性はないと自ら言っているかのようだったことだ。日本では議論の最初から、銀行税の違法性が争点となっていた。オーストラリアでも当然ながら、税の公平原則は憲法で記されているにもかかわらず、だ。
 またベンディゴ銀やサンコープ銀などの中堅銀行は、市場競争が高まるとして銀行税を歓迎している。しかも保守政権だけでなく、労働党も一般の国民も賛成の大合唱だ。
 日本では当時、地方銀や第二地方銀行協会がだんまりを決め込み、一般国民の賛成を尻目に、自民党の小渕政権も霞ヶ関も、銀行税は断固まかり成らぬで団結していたのとは対照的である。
 連邦政府に便乗したのが、SA州政府が発表した銀行税だ(西オーストラリア州も追従する気配だが、その他の州は導入を否定している)。これも同じく、大手銀のSA州に関わる事業債務額に対して0.015%を課税するというものだ。だがSA州の銀行税はさすがに、銀行業界が大規模な反対広告キャンペーンに乗り出す「本腰を入れた」反発を食らっている。ターンブル政権までも反対を表明しており、違法性まで浮上している。
 だがこの裏には、オーストラリアの政治的事情があると思われる。
 大手銀には、非倫理的な行内慣習や不祥事が相次いで発覚したことから、重要事案を調査する王立委員会の設置が近年求められてきた。これが設置されれば、メンツが丸つぶれとなるばかりか、大規模な社内改革が求められるのは必至だ。労働党は設置を強く主張しているのだが、ターンブル政権は二の足を踏んでいる。
 つまり、連邦政府の銀行税は、保守連合政権が王立委員会を設置しない交換条件的な色合いがある、と個人的には勘ぐっている。そのため、裏の大義名分がないSA州の銀行税はつぶされる可能性がある。
 ■「政治的解釈」
 いずれにしても、日本もオーストラリアも「税の公平原則」は同じはずだが、両国の経緯を見ていると、憲法や地方税法の「政治的な解釈」に過ぎない、と感じている。
 日本では官僚が官僚の論理で舞台裏で政治を操るのに対し、オーストラリアでは表舞台で二大政党の首脳が自ら刀を振るう。
 日本では旧大蔵省が、東京都の銀行税構想が持ち上がった早期の時点で既に、管轄官庁の旧自治省と歩調を合わせ、銀行税を阻止する方針を固めていたのは知られている。その時点で、勝負は決まっていたのだろう。
 オーストラリアでは、新聞の風刺画は必ず、大手銀行を「巨大で強欲なブタ」として描く。政治家が、国民を搾取する強欲なブタからエサを少し取り上げることが即ち、「税の公平原則」であるという解釈なのだろう。(NNA豪州編集長・西原哲也)

最終更新:7/28(金) 11:30
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