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「少年ジャンプ」の変わらぬ思いをデジタルへ  公式漫画制作ツール「ジャンプPAINT」が目指すもの

7/28(金) 10:49配信

ITmedia NEWS

 あの「週刊少年ジャンプ」が公式の漫画制作ツールを公開した。その名も「ジャンプPAINT by MediBang」。PC、スマートフォン、タブレットなどから、無料でオリジナル漫画を制作できる。

【画像】“漫画家の卵”たちのために作った「あるモノ」

 ジャンプPAINTでは、90種類以上のブラシ、800種類以上のトーンに加え、週刊少年ジャンプで実際に使っているようなフォントも無料で使用可能。記者のような初心者でも、「漫画らしい」ものを描くことができた。

 しかし、今どき無料のペイントツールは珍しいものではない。「ちょっと絵を描きたい」という人向けのものから、プロの漫画家を目指す人が使う本格的なものまで、さまざまなツールであふれている。

 そんな中、2018年に創刊50周年を迎える週刊少年ジャンプがこうしたツールを提供するのは初めての試み。他のツールといったい何が違うのか、どんなツールを目指したのか。週刊少年ジャンプ編集部の籾山悠太さんと、Web漫画誌「少年ジャンプ+」編集長の細野修平さんに話を聞いた。

●ただの漫画制作ツールではなく……

 細野さんと籾山さんによれば、ジャンプPAINTは「ただ漫画を作って保存できる」だけでなく、“その先”を見据えたもの。編集部と作家の出会いからプロデビューへの道までをサポートする機能や工夫が込められているという。

 その1つが作品の投稿機能。ジャンプPAINTで描いた漫画は、アプリからそのまま集英社のWebサイト「少年ジャンプルーキー」や、ツール開発元のMediBangが提供するプラットフォームなどに投稿でき、「ジャンプ世界一マンガ賞」などのコンテストにも応募可能だ。

 ジャンプPAINTやジャンプ世界一マンガ賞は、海外ユーザーも視野に入れ、多言語に対応。操作面だけでなく言語面でもハードルを下げ、投稿しやすくしたという。

 こうした工夫の裏にあったのは小さな不安。細野さんは「他誌の編集と話していたとき、ジャンプが主催するコンテストの応募作には、デジタル作品が少ないと感じた」と振り返る。「デジタル作品の投稿先として、ジャンプは取りこぼしがあるのではないか」――そんな危機感を抱いていたという。

 タブレットやPCで漫画を描き、Web上で公開するユーザーが増えている今、デジタル派へのアプローチは大きな課題。「Webにも才能ある人がたくさんいるので、もっとそうした人たちにもジャンプに来てほしい」(籾山さん)

 ジャンプPAINTを通じて、「デジタル派ともっと出会いたい」。そこで、編集部が独自に作成した「あるモノ」を機能として取り入れることにしたという。

●“漫画家の卵”たちのために作った「あるモノ」

 その「あるモノ」とは、ジャンプ編集部が“漫画家の卵”たちのために作った大判の冊子。人気作品の制作プロセス解説や、プロの原画を原寸サイズでなぞり描きして練習できるページなどが、60ページ以上も収録されている。

 「冊子はもともと、ジャンプ編集部に原稿を持ち込んだ人や漫画賞に応募した人に渡しているもの」(籾山さん)

 ジャンプPAINTには、「チャレンジジャンプ」としてそのほぼ全てを取り入れたそうだ。冊子同じようになぞりの描き練習もできるようになっており、アナログ向けだったテクニックなどはデジタル向けに再編集したという。

 さらに、これまで週刊少年ジャンプに掲載していた、キャラクター作りのコツやネーム作りのテクニックなども、「ジャンプ漫画賞講座」として収録。スマホやタブレットからも見やすいレイアウトに直し、新しいものが毎週本誌に掲載されるように、ジャンプPAINTにも随時収録、更新していくという。

 「少年ジャンプがもう何十年も、毎号のジャンプ本誌に掲載してきたページ。ジャンプ作家の生の声が分かるものなので、より多くの新人作家や応募者に見てもらいたい」(細野さん)

●公開前に大事件 「スマホだけで描いた」漫画が登場

 デジタル派を発掘するため、さまざまな工夫を凝らしたジャンプPAINT。だが、週刊少年ジャンプがこうしたツールを提供するのは初の試み。受け入れられるか、利用してもらえるか、不安だったという。

 しかしそんな不安とは裏腹に、公開前にデジタル派の需要を証明するような「ある事件」が起こった。「スマホ派」の登場である。

 ジャンプPAINTは開発当初、主にPC、タブレットでの使用を想定。スマホにも対応予定ではあったが、「スマホだけで描く人が出るのは、まだまだ先だろうと思っていた」(籾山さん)という。

 その予想が裏切られたのは2016年。スマホだけで描いた漫画がジャンプが開催する「矢吹健太朗 漫画賞」で奨励賞を受賞した。あつもりそうさんの「あなたが恋と言うのなら」という作品だった。

 「気付いたのは、受賞から1、2カ月後。ちょうどジャンプPAINTのローンチに向けて調整をしているタイミングだった」と籾山さんは振り返る。「選考時、デジタル作品なのは分かっていたが、まさかスマホで描いたとは思わなかった」

 しかも、あつもりそうさんが使ったのは開発元のMediBangが提供する「メディバンペイント」のスマホアプリ。PCやタブレットにも対応するこのソフトこそ、ジャンプPAINT開発のベースになっているものだった。

 「当時、あつもりそうさんは受験生。家で隠れて漫画を描くにはスマホ以外では難しいという事情もあったようだが、ペンも使わずに指だけで描いたというので、なお驚いた。正直、こういう人が現れるのはもっと先の話かと思っていた」(籾山さん)

 そう話す籾山さんは少々苦笑い。「編集部の予想よりもずっと、応募者たちは先を進んでいるかもしれない」と感じたが、うれしい誤算だったという。公開後は「今のところ好意的な意見が多く、受け入れてもらえたようで安心した」(籾山さん)。

●ジャンプPAINTのこれから――「少年ジャンプ」の変わらぬ思い

 今後ジャンプPAINTは、さらにシームレスな投稿や応募の仕組みを目指し「より気軽に使って気軽に投稿してもらえるよう改良していく」(細野さん)という。新たな才能探しにも余念がなく、少年ジャンプルーキーや少年ジャンプ+と連携してデジタル派向けの新しいデビュールートも用意しているそうだ。

 これまで週刊少年ジャンプへの道は、“紙”中心。デビューを志す作家は、持ち込みや受賞をきっかけにまず増刊号への掲載を目指し、その後各過程で編集者からフィードバックを受けつつ、本誌での読み切り掲載、本誌連載とステップアップしていく。今後は、デジタルでも同じような仕組みで「(ジャンプPAINTと連携できる)ジャンプルーキーを入り口に、週刊少年ジャンプやジャンプ+の掲載を目指せる」という。

 「デジタルだからといって、漫画の面白さはスポイルされない。むしろデジタルでラフに描かれた作品のほうが、キャラクターやストーリーなどをしっかりと見るのには向いているかもしれないと思うこともある」(細野さん)

 あるジャンプ作家は、デジタルとアナログの違いを「Gペンと丸ペンの違いのようなもの」と評したという。ツールが変わっても、「まずは描いてみる」というスタートラインはこれからも変わらないのかもしれない。

 「これまでの少年ジャンプと変わらないことだが、編集者と作家が一緒に頑張ることこそが、他のツールにはないジャンプPAINTの強みになっていくと思う」(籾山さん)

最終更新:7/28(金) 10:49
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