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ポルシェのWEC撤退に揺れるスポーツカーレース界。ポルシェ撤退後のWECは、どこへ向かうべきなのか?

7/29(土) 13:47配信

motorsport.com 日本版

 今季限りでポルシェがWECから撤退することを発表した。それに伴い、WECはどこを目指すべきなのか。motorsport.com記者ジェイミー・クラインが考察した。

【写真】今年のル・マン24時間レースで総合優勝を遂げたポルシェ2号車のハートレー、バンバー、ベルンハルト

 金曜日、ポルシェは今シーズン限りでWEC(世界耐久選手権)のLMP1クラスへの参戦を終了するという発表を行なった。それを聞いたファンは、同じような感情を抱いたのではないだろうか。

 わずか1年前、姉妹ブランドであるアウディがLMP1クラスを去ったことにより、このカテゴリーは厳しい状況に置かれたが、それでも乗り越えられないものではなかった。しかし今、”LMP1クラスの終わり”というのは、間違いなく間近に迫っている。

 今年のル・マン24時間レースでは、その兆候があった。今年のレースはLMP1-Hクラスの5台全車がトラブルに見舞われ、あわやLMP2クラスのマシンが総合優勝するかと思われた。総合優勝を果たしたポルシェの2号車(ティモ・ベルンハルト/アール・バンバー/ブレンドン・ハートレー)は、レース序盤にフロントの車軸モーターを交換するために1時間ほどガレージで過ごすことになったが、そのおかげでLMP2クラスに出場していたジャッキー・チェン・DCレーシングが歴史的な総合優勝を果たす可能性もあったのだ。

 LMP1クラスが恥をかくことは逃れたが、LMP2クラスのドライバーが表彰台に上がっている光景には驚かされた。もし2017年は最後の素敵な祭典だったと思い出されるようなことがあるとしたら、エキゾチックなLMP1マシンが、この最新のスポーツカーレーシングの”黄金時代”を招いたのだろう。

 振り返ってみれば、あと何年か経てば、2014~2016年は深い愛情を持って思い返されるだろう。トップレベルのマニュファクチャラー全てがバトルを繰り広げ、それも自動車テクノロジーの最前線でそれを行なっていた、3年(もしくは4年)の珍しい時代なのだ。

 しかしことわざにもある通り、たとえ多くのファンが、これほどのレベルのマニュファクチャラーがスポーツカーレースに投資することを当たり前だと考えていても、どんなに素晴らしいことにも終わりがあるのだ。

 LMP1の予算がF1の中堅チームと同じくらいであることを考えても、WECはF1よりも露出が少ないのに、これほどまでに長く続いていることはある種の驚きである。

 アウディが撤退するよりもだいぶ前から、彼らの撤退に関する噂はあったが、昨年トヨタのアンソニー・デビットソンは、「次から次へとこういうことがやってくる」と話していた。

「マニュファクチャラーもいるし、スポーツカーレースにおける良い時代を見ているんだと思う。でも彼らが去ってしまえば、このシリーズは生き残るために苦戦する」

「個人的には、僕はこの瞬間を楽しむだけだ。ひとりのドライバーとして、大金を費やす3つの大きなマニュファクチャラーが戦う中にいることができて、僕はラッキーだ」

「これが続いている間は、ドライバーにとっては素晴らしいことだ。でも内心では、これが続くことはないとみんなわかっている。これは時限爆弾のようなものだ。歴史はそれを証明するんだ」

 それゆえWECは急速に終わりに近づいている。WECの次のステップは何なのか?

 今年のル・マンでは、ACO(フランス西部自動車クラブ)は2020年以降のLMP1の規則を明らかにした。しかしプラグインハイブリッドシステムは、フォーミュラEへのエントリーを考えているマニュファクチャラーにアピールするための、絶望的な最後の手段のように感じられた。

 コスト節約の方法も同時に発表されたが、しかしそれは新しいマニュファクチャラーを惹きつけるためには十分ではなかった。

 ポルシェは撤退するが、誰もその空白を埋める準備ができていない。いくつかのプライベーターチームが計画を抱えているが、トヨタがLMP1クラスに参戦する唯一のマニュファクチャラーとなる。

 少なくともトヨタは、これまで逃してきたル・マンでの勝利を最終的に勝ち獲るというモチベーションをまだ持っている一方で、それほど強くない相手に勝利したところで、間違いなく空虚な感情を抱えるだろう。

 トヨタは早急に決定を下さなければならない。そしてもしLMP1クラスに唯一のマニュファクチャラーとして存在することに価値はないと判断したら、ACOは次に何をすべき何か、考えなければならないだろう。

 ひとつの選択肢は、プライベーターチームがLMP1のグリッドを形成することを望み、2019年に向けてより多くのチームを迎え入れることだ。しかしここにある明確な危険は、それほど実力のないマシンが、LMP2クラスのマシンによって恥をかかされることだ。

 LMP1クラスを打ち切り、LMP2クラスをトップにすることも落とし穴だ。これは、2018年のマシンを準備するための大金が無駄になるということである。それにLMP2クラスは、ワンメイクエンジンのクラスであるということを考えると、将来的にWECへ参戦することを望んでいるマニュファクチャラーにとって、WECへのドアが半分しか開いていないことになる。

 少なくとも、急成長を遂げているGTEクラスがチャンピオンシップの立場を維持するために、FIAの”ふたつのマニュファクチャラー”の要件を揺るがす可能性は高い。しかし細かくバランスのとれたGTEクラスがWECの最重要カテゴリーとして期待されることはほとんどないだろうし、より速いプロトタイプのマシンを手にすることもないだろう。

 ペンスキーとヨーストというふたつのチームが、それぞれアキュラ(ホンダ)とマツダとパートナシップを結び、IMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップでレースを行うとサインした。

 このふたつのメーカーの参戦により、IMSAのDPiクラスは、来年少なくとも(キャデラックや日産なども含め)4つのマニュファクチャラーを抱えることになる。

 ACOは、DPiマシンへのドアを開けるよりも悪い方向へ向かう可能性がある。少なくとも短期的な解決として、おそらく将来的に、グリッドを埋める可能性のあるプライベーターのLMP1マシンにこのコンセプトをどう適用させるかということを考えなければならないだろう。

 スポーツカーレースの黄金時代は終わりに近づくかもしれない。しかし、もしWECがトップレベルのプログラムのコストを劇的に削減したDPiの革命を取り入れるのなら、次の黄金時代はそう遠くないかもしれない。

Jamie Klein