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人気の激安モデル終息にみる「売れすぎると製品寿命が縮む」法則

7/30(日) 9:55配信

ITmedia PC USER

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

 東芝製のメインボードを搭載したとされる、ドン・キホーテの50型4Kテレビ「情熱価格 PLUS 50V型 ULTRAHD TV 4K 液晶テレビ」が、発売からわずか1カ月足らずで生産終了を発表した。東芝のテレビ「REGZA」そっくりのインタフェースが口コミで話題となり、価格の安さから各店舗で完売が相次ぐほどの人気を誇っていただけに、ネットでは落胆する声も多い。

 製品の生産終了について、ドン・キホーテは具体的な理由を明らかにしていない。ただ、一般的に他社から部材の供給を受けたOEM製品は、売れすぎたことで製品寿命が短くなるケースはよくある。

 今回の東芝とドン・キホーテの例に限った話ではなく一般論として、自社製品とOEM製品の「食い合い」はどのようなプロセスを経て起こるのか、またそれを受けて供給元であるメーカー社内でどのような調整が行われるのか、典型的なパターンを見ていこう。

●メーカーがOEMビジネスを手掛けるようになるまでの経緯

 自社で製品を製造・販売しているメーカーでは、自社ブランドの製品、いわゆるリテール製品を扱う事業部とは別に、OEMビジネスを専門に行っている事業部が存在することが多い。具体的には、リテール製品として組み立てる前の部品を単品でバラ売りすることを専門としている部署である。

 ここでいう「単品でバラ売り」とは、小売店を経由して1個や2個といった単位で顧客に売るわけではなく、基板や部品などを何千個何万個といった単位で外販するビジネスを指す。業務用機器に組み込むことを前提に単体では動作しない部品単位で販売する場合もあれば、自社ロゴが入っていないだけでほぼ完成品に近い製品として卸すこともある。

 メーカーの社内で、こうしたビジネスを行うようになる経緯はさまざまだ。典型的なのは、リテール製品の生産ロットの関係でどうしても余剰で部品を生産しなくてはならず、それを処分する目的で専門の販売部隊が作られた、というパターンだ。それがいつしか規模が拡大し、余剰部品のロットをはるかに上回る大型案件が舞い込むようになり、ときとしてリテール製品の生産数を逆転するなど、売上構成比からしてそちらが主力となってしまうケースも多い。

 そうなると、最初は特定のリテール製品の事業部の傘下部門だったのが一事業部として独立し、さらに他事業部のリテール製品のOEMについても扱い始めることで、横断的な性格を持った部隊として社内で幅を利かせるようになる。組織が小さいうちは「余剰部品を現金化するため」だったのが、いつしか立派な収益の柱として根付くわけである。

●OEM製品が売れすぎてリテール事業部が激怒に至るまで

 ところで一般的に、とある店で売られているリテール製品がどのような販売ルートをたどって店頭に並ぶに至ったのか、メーカー側はほぼ完全に把握している。例えばPCの場合、大手家電量販店はメーカー直販で、それ以外のショップは卸経由といった具合である。OEMを行う場合、それらのルートに製品が流れて自社製品同士の食い合いが起こることがないよう、会社の中で暗黙の了解が出来上がっているのが普通だ。

 またそれ以前に、OEM供給のほとんどは法人ルートが対象であるうえ、半完成品でもない限り、部材レベルで供給元を判別するのは困難だ。明らかに特定メーカーのものと分かる部材であっても、セールス資料などでそれらに自ら言及しないよう契約書に一筆盛り込まれていることも多く、たまたまコンシューマー系のルートに製品が流れることがあっても、リテール製品と価格が直接比べられる事態は起こりにくい。

 ところが、OEM部門がリテール製品の事業部とは独立して営業活動を行うようになると、リテール製品と同じ販路に流れる可能性が高いにもかかわらず売り上げ欲しさにOEM供給を行ったり、素性がバレバレの状態のまま供給したりすることが、往々にして起こり始める。その結果、リテール製品が10万円で販売されているところ、OEM製品はそれより安価な8万円で販売される、という事態が起こり始めるわけである。

 典型的なのが、OEM事業部が大口案件を取ってきて、精査の結果それらがリテール製品の販路とバッティングする可能性が高いことが判明したものの、売り上げとしてはかなり大きいため、リテール事業部は抜きにして経営層に直談判したところゴーサインが出て契約締結、リテール事業部はその事実を後から知らされる、というパターンだ。双方の事業部長同士が露骨にライバル関係だったりすると、これらが意図的に行われることもしばしばだ(冒頭の件を指しているわけではない、あくまで一般論である)。

 当然ながらリテール事業部は激怒するが、契約が締結されてしまったOEM案件をひっくり返すことはできないので、ひとまず静観することになる。しかしそのOEM製品がヒットし、かつ「某製品は実はA社のOEMで中身は一緒らしい」という素性が公になってリテール製品の見込み客の一部がそのOEM製品に流れる事態になると、さすがに黙ってはいられなくなる。年間の売り上げ計画の前提が崩れ、その原因が社内にあるのだから当然だ。

●「最終生産分を持って打ち切り」は穏便な着地の証拠

 このような事態になると、両事業部間で「手打ち」が行われることになる。OEM事業部からすると、自分たちが頑張って売ってやっているのに足を引っ張るとは何事だ、となるわけだが、リテール製品のシェアが低下して屋台骨が揺らぐ事態になっては本末転倒であることは、彼らも内心では理解している。今回の契約にゴーサインを出した経営層も、ここまでの反響は想定していなかったとばかりに手のひらを返して仲裁に乗り出してきて、かくして着地点を探すことになる。

 着地点というのはつまり販売の終息なのだが、OEM契約に中に最大で月産何台を何カ月といった台数や期間の条件が盛り込まれていれば、それらは順守しなくてはならず、即時終息とはいかないことも多い。またそれらの条件がなくとも、OEM先との関係からして突然打ち切るのが難しいのであれば、最後に何台を生産してそれを最終ロットにするというのが一般的な慣習だ。

 それらはOEM先とも協議しつつ決めることになるわけだが、その時点ではOEM先にとっては既に大ヒット製品となっているわけで、当然ながら難色が示される。しかしながら、大抵のケースではこれらが穏便に着地できるよう、契約の段階で何らかの条項が盛り込まれているのが普通であり、どうしてもという場合はおわびも込めて最終ロットの供給価格を若干安くするといったプラスアルファの条件をつけることで、問題なく収まるというわけである。

 ここで万一、契約時に終息にまつわる条項が盛り込まれておらず、物別れに終わった場合は、メーカーが製品を意図的に長期欠品させるなどの実力行使に出る場合もあるが、国内ではまず発生し得ない。最終生産分を持って打ち切るというアナウンスが行われたということは、つまり製品不良や取引停止などによるやむを得ない打ち切りではなく、OEM供給を行ったメーカー側の内部事情を発端とした、OEM先に対して頭を下げたうえで、ビジネスとしては穏便な終息に導けたことを、暗に示唆していると言っていいだろう。

最終更新:7/30(日) 9:55
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