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新しい「物語」を創る――Intelが夜空にドローンを浮かべる理由

7/30(日) 12:10配信

ITmedia PC USER

 ハウステンボス(長崎県佐世保市)では8月5日まで、米Intelとhapi-robo st(東京都港区)と共同で「インテル Shooting Star ドローン・ライトショー」を開催している。最終日の8月5日には、サマーソングスペシャルメドレー花火も併催する予定となっている。

【実際の様子の例】

 このショーにおいて、Intelはドローンを提供し、オペレーション(ドローンのプログラミングや制御)も担当している。PC向けのプロセッサ・チップセットメーカーとしてのイメージが強いIntelが、ドローンやそれを使ったライトショーに注力しているのはなぜなのだろうか。

●さまざまな作業をよりスマートに

 Intelがドローン事業に本腰を入れ始めたのは2016年。複数のドローン関連企業を買収し、自社でも「Intel Aero」というドローン開発キットを同年8月から販売している。

 同社がドローン事業に注力する理由は、「物事をよりスマートにできる可能性がある」(ドローン・ライトショー担当ジェネラルマネージャー ナタリー・チェン氏)からだ。従来から同社が培ってきたセンサー技術やCPU技術を生かすことはもちろんだが、仕事の手助けや社会の抱える課題解決の手段としてのドローンに、可能性を見いだしたのだという。

●ライトショーが生まれたきっかけはCEOの「発言」

 Intelでは、ドローン事業において「ドローンの材料(Ingredients)」「ライトショー」「商用システム」「エコシステムのパートナー構築」の4点を重要視している。

 「ドローンの材料」は開発キットのことを指しており、先述のIntel Aeroがそれに当たる。「商用システム」としては、買収したドイツAscending Technologies(AscTec)のドローンをベースに開発した「Intel Falcon 8+」というV型オクトコプターと、同じく買収したドイツMAVinciの「MAVinci SIRIUS PRO」という固定翼ドローンがIntelの主力製品となっている。

 重点4項目の中で、異質とも思える「ライトショー」。事業化のルーツは、同社のブライアン・クルザニッチ(Brian Krzanich)CEOが雑談中に発した「100機のドローンを飛ばして、Intelロゴを作ってみたらどう見えるだろうか?」という問いかけにある。

 それを実際にやってみようと、後に買収することになるAscTecと共同で初代のエンターテインメントショー用ドローンを開発。2015年11月にドイツで開催したプライベートショーで「Drone 100」として初披露し、「無人飛行物体(UAV)を一番多く同時に飛ばした」記録を打ち立ててギネスブックに登録された。

 Drone 100では、音楽に乗せて100台のドローンを飛ばした。このイベントを通して、同社はドローンを使ったライトショーに事業としての可能性を見いだし、専門のチームを作って取り組むことにしたようだ。

●ドローンを使ったライトショーは新しい「物語」

 その後、IntelはDrone 100を米国やオーストラリアでも披露した。その後Intelはエンターテインメントショー用に特化したドローンとしてShooting Starを開発。2016年10月にドイツで同機を500台同時に飛行させる「Drone 500」にチャレンジし、自らギネスブックの記録を更新した。これ以降にIntelが手がけたドローンライトショーには、全てShooting Starが用いられている。

 チェン氏はドローンを使ったライトショー事業は「新しい物語を作り出すもの」であると語る。国・地域によっては、花火の打ち上げが禁止されていたり厳しく制限されていたりすることもある。そのような場所では、ライトショーが花火大会に代わる新たな「光のショー」になりうる。

 一方で、チェン氏は「花火大会は花火大会、ライトショーはライトショーという風に分けて考えるものはない」とも語る。日本のように花火大会が広く行われる地域では、花火大会とライトショーを組み合わせることで相乗効果が生まれると考えているのだ。今回のハウステンボスのライトショーでは、イベント初日(7月22日)と最終日限定ではあるが花火大会と組み合わせて開催している。筆者が初日に観察した限りでは、「異なるベクトル」の「光のショー」として花火大会の後にそのままライトショーを楽しむ観客は多かった。

 そして、チェン氏は「夜空に3Dの絵を描くことができる」ライトショーは「新たな広告としての可能性もある」とも語った。Shooting Starに付いているライティングユニットは4色(赤・緑・青・白)のLEDを搭載しており、約40億色を表示できる。色鮮やかに、紙や画面といった「2D」では表現できない広告も実現可能であるということだ。

●「航空法」に合わせて飛行プログラムをカスタマイズ

 ライティングショーで使われるShooting Starは、自動制御プログラムに従って飛行する。制御システムは、AscTechが開発した「Trinity」をベースとしており、PCから命令を出すと離陸から着陸まで、全自動で進行するようになっている。

 しかし、全自動進行とはいえ不測の事態は起こりうる。そこで、安全対策と各国のドローン関連の法規制を満たすことを目的として、Intelではショーの際は必ずドローンの「パイロット(操縦士)」と「コパイロット(副操縦士)」を配置している。パイロットはドローンを監視し、トラブル発生時に安全に「墜落」させる役割を担う。コパイロットは、パイロットにトラブルが発生した際のバックアップを行う。ハウステンボスの富田直美取締役CTOによると、この体制は「日本の改正航空法よりも(要件面で)進んでいる」という。

 不測の事態の対策は他にもある。制御プログラムには、二重に「ジオフェンス(地理境界線)」を施している。Shooting Starが第1段階のジオフェンスを出てしまった場合は、その内側に戻るように個別に指示を出す。さらに外側にある第2段階のジオフェンスを出てしまった場合は、モーターへの電源供給をカットして墜落させるようになっている。ジオフェンスはショーの観覧エリアから離れた場所に設定されているので、墜落しても観客の安全性は確保される。

 また、墜落、あるいは他の機体や障害物に衝突した際に備えて、Shooting Starのプロペラ回りには衝撃を抑える保護ケージが取り付けられている。さらに、何らかの理由で本体がひっくり返った時に電源を強制的に切る仕組みも取り入れられている。

 ドローン飛行に当たっての法規制は国によって異なる。ハウステンボスのライトショーでは、日本の法規制を踏まえて「120(縦)×120(横)、×150(高さ)m」の空間でドローンを展開するようにプログラミングされた。その上で、ハウステンボス周辺が長崎空港(長崎県大村市)の「外側水平表面」に入ることから、大阪航空局の認可を得てショーを実施している。飛行認可の取得に関する調整や事務手続きはハウステンボスとhapi-robo stが担当したという。

●実際のショーの様子

 ハウステンボスとhapi-robo stの両社は、ショーのコンテンツ制作も担当した。

 平原綾香さんの「Jupiter」に乗せて、ドローンが「海の生物」や「地球」を描く様子はまさに圧巻である。以下に、場面転換シーンの一部を掲載する。

 冒頭でも触れた通り、ハウステンボスのドローンショーは8月5日まで毎日開催している。最終日の8月5日には花火とともにドローンショーを楽しむこともできる。近日中に長崎・佐世保観光をする予定のある方は、ぜひドローンショーを行程に組み込んでみてはどうだろうか。

 率直に言うと、ドローンショーを目の前で見るまでは「Intel」と「ドローン(エンターテインメント)ショー」をうまくつなげることができなかった。目の当たりにすると、Intelが注力するドローン事業のショールーミングをしつつ、ドローンショーという新たな産業を開拓できるという点で、合理的であることがよく分かる。

 数年後、Intelは何を“する”会社になっているのだろうか。楽しみだ。

最終更新:7/30(日) 12:10
ITmedia PC USER