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【漢字トリビア】「舟」の成り立ち物語

7/30(日) 11:50配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「渡し舟」「笹舟」の「舟」。「呉越同舟」の「シュウ」とも読む漢字です。


「舟」という字は、舟の形をそのまま描いた象形文字。
大木をくりぬいて作る「刳舟(くりぶね)」や「丸木舟」など、人間の力で動かす小さな舟のことをさします。
そもそも、舟の歴史は人間の歴史とともに始まりました。
二十万年ほど前にアフリカの地で人類がこの世に誕生したのち、彼らの一部は舟で海へと乗り出し、世界中へと散らばっていきます。
その中で日本列島へ舟で渡ってきたのが、私たちの祖先となる縄文人。
日本、そして世界中の国々は、舟という移動手段がなければ成立し得なかったのです。

舟が誕生する以前、いにしえの人々は流木や木の実につかまって水上を移動していました。
やがて動物の皮を使った「皮袋」をつくって「浮き」として使うようになります。
さらに、人間や運ぶものが水に濡れないような構造の乗り物が必要になり、さまざまな製法で初期の舟が作り出されました。
木をくりぬいたり、竹や葦を束ねたり、動物の皮を浮きにしてその上に板を乗せたり。
それぞれの環境に適したやり方で舟を作り、文明を築きあげていったのです。

日本国内最古といわれる丸木舟が発掘されたのは、二〇一四年のこと。
千葉県市川市の雷下遺跡で見つかりました。
七千五百年前のものと推定されたその丸木舟は、全長およそ七m以上、幅五cmの比較的大きなムクノキの舟。
火や石器を使いながら人が乗る空間をくりぬいた跡が残っていたそうです。
その当時、温暖化による海面上昇が始まっていたため、遺跡の周辺には干潟と貝塚が点在。
人々は漁場と生活の場を舟で自在に行き来していたことが推測されます。

ではここで、もう一度「舟」という字を感じてみてください。

旅の途中、山並みの間から最上川を見下ろした松尾芭蕉。
清涼な川からの風を受け、こんな俳句を作ります。
「五月雨を集めて涼し最上川」
その後、彼は実際に川を下ることになり、後に、この句を書き直しました。
「五月雨を集めて早し最上川」
梅雨でかさを増した急流で、上下に激しくゆさぶられる小舟。
大自然の力強さを肌で感じた松尾芭蕉は、その驚きを率直に表現することを選んだのでした。
世間へと舟で漕ぎ出せば、思わぬ場所へ流されたり、危険にさらされたり。
でも、身の丈にあった小舟なら、柔軟な小回りや、やり直しもきくのです。
人生の舵をとるのは自分自身。
その自由だけは、何があっても手放せません。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『乗りもの歴史図鑑 人類の歴史を作った「船の本」』(ヒサ クニヒコ/絵・文 子どもの未来社)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年7月29日放送より)

最終更新:7/30(日) 11:50
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