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モータースポーツ界に激震。ポルシェ、メルセデスなどの相次ぐ撤退~電気フォーミュラ参戦は何を示すのか

7/31(月) 11:36配信

オートスポーツweb

 ヨーロッパのモータースポーツ界では、この1週間ほどの間にふたつのメジャーな選手権からふたつのメーカーが撤退を表明し、電気フォーミュラである『フォーミュラE』への参戦を発表した。

【写真】東京オートサロンに展示されたTRD-BIZ001

 ひとつは7月28日に2017年シーズン末でWEC世界耐久選手権のLMP1プログラムを終了させるとしたポルシェ。もうひとつは7月25日に2018年限りでDTMドイツツーリングカー選手権から身を引くと表明したメルセデスベンツだ。

 いま、ヨーロッパの自動車メーカーにいったい何が起きているのだろうか。イギリスから現在の欧州自動車業界の状況と、モータースポーツ界が置かれている状況をお伝えしよう。

■ドイツメーカーが“撤退”を急ぐ理由
 ヨーロッパの自動車メーカーは“ディーゼルゲート”に端を発する排気ガス問題の影響から、モータースポーツ活動を大胆に縮小させている。欧州と北米でフォルクスワーゲンが直面している莫大な補償金問題などの影響から、ほぼすべてのドイツメーカーは少なくともひとつはレースプログラムを終了させているのだ。

 加えて6月末には、ダイムラーなどドイツ系大手メーカー5社が絡む大規模なカルテル疑惑も報じられており、影響がより一層大きくなる可能性も秘めている。

 この流れは2016年のアウディのWEC撤退、フォルクスワーゲンのWRC世界ラリー選手権撤退から続くものでもある。


 ここまで彼らががモータースポーツからの撤退を急ぐ理由のひとつは財政だ。

 ドイツ系自動車メーカーは今後24カ月で、数十億ユーロという罰金を支払わなければならない可能性もある。そして彼らは現在、電気自動車技術と自動運転技術の開発に資金を割いているため、資金面では大きなプレッシャーにさらされている。

 この結果、モータースポーツ界にも暗雲が立ち込める結果になった。2019年から、DTMはアウディ、BMWという2メーカーの12台で争われるかたちとなるが、アウディは2016年の段階からシリーズへの関与を弱めつつある。DTMが生き残る方法のひとつは、日本でスーパーGTをプロモートするGTアソシエイションと協力していくことだが、実際にGT500とDTMの交流戦を実施していくには、まだ障害が残っていることを忘れてはならない。

 もうひとつの方法は、ドイツのGT3カーのレースであるADAC GTマスターズと合併し、GT3カーを主体とした選手権に生まれ変わることだ。

■トヨタはル・マン継続参戦を選ぶのか

 シリーズ存続の危機にさらされているという点ではWECも状況は変わらない。ポルシェが去ることで、LMP1クラスに参戦するのはトヨタといくつかの小規模プライベートチームだけになる。

 この状態で、仮にトヨタがプライベーターに敗れることがあれば、トヨタにとっては屈辱でしかなく、またトヨタが勝利しても大成功とは認められないだろう。このままではトヨタもWECを去る可能性が高いだろうし、留まる場合でもプログラムを縮小し、スパやル・マン、富士など限られたラウンドへの出場に留まるのではないだろうか。

 またトヨタには、TS050を捨て、オレカ07シャシーにTRDが製造し、2017年の東京オートサロンに展示した4気筒直噴ターボエンジンを搭載して参戦するという手段もある。TMGやサード、トムスというチーム単位で参戦すれば、メーカーがプライベーターに負けるという“大惨事”を引き起こすことなく、ル・マンに参戦できるだろう。

 WECは、これまで北米のIMSAウェザーテック・スポーツカーチャンピオンシップで使われているDPiマシンの参戦を拒否してきたが、マニュファクチャラーたちをシリーズとル・マンに呼び戻すには最善の策と言える。DPiは市販シャシーにメーカーの色をつけ、メーカーが参入しやすい土壌を作っているのだ。

■モータースポーツは電気自動車技術を競う場に!?
 そして各国で自動車の排気ガスに関する規制が強まっていくなか、多くのメーカーはフォーミュラEへの関与を強めつつある。すでにジャガーやシトロエン、ルノーが参戦しており、またアウディやメルセデス、ポルシェも2018年以降、順次ワークス体制で参戦していく。

 彼らがフォーミュラEに参戦する理由のひとつはコストの低さにある。マシンやバッテリーを開発せずに済むことを差し引いても、DTMやWECに比べると参戦コストははるかに低い。

 イギリスとフランスでは2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると決定し、周辺各国もこの流れに続くとみられている状況でなくとも、排気ガス問題が取り沙汰されているなか、フォーミュラEに注力するという判断は賢明なものだ。

 この2016年から続く一連の“混乱”は、モータースポーツの急激な構造変化の表れとも表現できるだろう。F1とIMSA以外のモータースポーツは、電気自動車技術を推進するカテゴリーではメーカー中心の、それ以外のカテゴリーではプライベーター中心の戦いに変化していくかもしれない。しかし、状況は依然として不透明なままで、大きなチャンスを生み出す可能性もあれば、リスクになる危険性も秘めている。

筆者:サム・コリンズ
イギリスでモータースポーツファン、レース業界関係者に広く読まれている『レースカー・エンジニアリング』誌のテクニカル担当ライター兼副編集長。F1からハコ車まで幅広い知見をもち、独特のレーシングカーには目がない。スーパーGT300クラスのJAF-GTカーを見るためだけに日本に訪れることもしばしば。

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