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アングル:薄煕来氏を慕う重慶市民、「遺産」に警戒強める中国

8/1(火) 10:09配信

ロイター

Philip Wen

[重慶(中国) 26日 ロイター] - 揚子江河岸にあり、人口3000万人以上を擁する高温多湿の都市、重慶の共産党トップであった薄煕来氏がその地位を追われたのは、もう5年以上も前のことだ。

現在、同氏は投獄され、汚名を被っている。だが、今も敬意を込めて薄氏のことを語る市民を見つけるのは簡単である。

対照的に、党中央から「薄氏の影響力と遺産を重慶市から排除しなかった」ことを批判され、同じく重慶市党委員会書記の地位を7月に失った孫政才氏については、そのような敬意を示す市民はなかなか見つからない。

人々は薄氏のことを、法と秩序を改善し、経済を加速させ、荒廃した旧市街を活性化させた意欲的な指導者として、好意的に記憶している。

「薄氏は市内の法と秩序という点で素晴らしい仕事をした」と語るのはTan Hepingさん。重慶の名物ではあるが数が減りつつある、竹竿に荷物をくくりつけて市内の急坂を運ぶ「棒棒」と呼ばれる労働者の1人である。「孫氏にはそのような印象はまったくない。薄氏とは比べものにならない。何かやってくれたとも思えない」

薄、孫の両氏とも、トップ幹部が集まる中国共産党全国代表大会(党大会)の数カ月前に失脚した。党大会は5年ごとに開催され、党指導部の主要な人事を承認する。孫氏は、薄氏失脚後の中継ぎとして8カ月だけ重慶市党委員会書記を務めた党トップ幹部・張徳江氏から2012年11月にその地位を引き継いでいた。

2012年の党大会では習近平氏が国家指導者として承認されたが、今秋の党大会では、習氏が支持者を指導部の要職に配することによって権力基盤を固め、結果的に、後継計画の策定においても発言権を強化するという観測が広まっている。

<トップ争い>

薄氏はテレビ映りもよく、中国の同世代のなかでは最もカリスマ性のある政治家の1人とされ、指導部トップの座を目指す有力候補と見られていたが、2012年に大きな話題を呼んだ汚職スキャンダルで失脚し、薄氏の妻も英国人ビジネスマン殺害の容疑で投獄される結果となった。

薄氏の高い人気、冷酷で野心的な振る舞い、個人主義的な性格は、当時のトップ官僚のあいだで、党中央指導部に対する潜在的な脅威と見なされていた。

薄氏は、西側スタイルの大衆受けする魅力と毛沢東時代のプロパガンダ戦略を組み合わせることで、党中央によるメッセージ発信に頼らずに自らのブランドを確立。官僚の腐敗に対する人々の怒りを利用して、彼はもっとシンプルで伝統的な中国的価値観への回帰を採り入れ、数万人の参加者が革命期の愛国歌を口ずさみ、膨大な数の赤旗を振るといった大衆行動を組織した。

腹心だった警察トップの王立軍氏と組んだ薄氏は、重慶市に深く根を張った犯罪組織を一掃する派手なキャンペーンを展開した。

参考にすべき世論調査は存在しないが、ロイター記者が先日重慶を訪れた際、商店主や労働者、炭鉱オーナー、弁護士など10人以上にインタビューしたところ、全員が今でも「薄時代」は良かったと思っていると答えている。

重慶市政府と国務院新聞弁公室(共産党広報官室を兼ねる)に本記事についてのコメントを求めたが、回答は得られなかった。

衣料品卸売業者のWu Hongさんは、「薄氏はわれわれのような一般市民のために、目に見える形で働いてくれた」と語る。

もちろん、重慶市にはこうした薄氏への評価に強く反発する人もいる。

<組織犯罪一掃キャンペーン>

重慶市の弁護士Li Zhuang氏は、薄氏を厳しく批判する。犯罪組織の首領とされる人物を弁護した後、2年6カ月にわたって収監されたLi氏によれば、薄、王両氏が推進した組織犯罪一掃キャンペーンによって、結果的に「不公正で誤った告発を多数」生み出し、多くの合法的で潔白な企業関係者が厳しい捜査の対象になったという。

電話による取材に応じたLi氏によれば、孫氏も、誤審と思われる有罪判決を撤回するような措置は何もとらなかったという。

だが、現地の石炭産業の大物であるJin Yihu氏の場合、薄氏による組織犯罪摘発が盛んに行われていた2011年に投獄されたという経験を味わっても、薄氏に対する敬意を捨てるには至らなかった。

炭鉱の所有権をめぐる対立を背景に、Jin氏はビジネス上のライバルによって、暴徒のリーダーとして警察に告発されてしまった。容疑が晴れるまで、彼は7カ月間拘留されていた。

しかしJin氏はロイターの取材に対し、薄氏について「当時でさえ、彼を恨むことはなかった」と話した。「薄氏に比べれば、孫氏は月とスッポンだ」

孫氏にとって不吉な兆候となったのは、共産党の汚職取り締まり部門である中央規律検査委員会が2月、重慶では薄氏による「有害な影響」の排除が進んでいないと批判したことである。

ロイターの報道を裏付けるように、中央規律検査委員会は24日、孫氏が「重大な規律違反」の疑いで取り調べを受けていると発表した。重大な規律違反とは、通常「汚職」の意味で党が用いるえん曲表現である。

薄氏は2013年に収賄、権力乱用、公金横領で有罪判決を受け、終身刑を宣告された。王氏もほぼ同様の罪で2012年に禁錮15年の刑を受けている。

薄氏の失脚、そして習近平氏の権力確立に伴い、地方政府の指導者たちは、政治的な脅威として、あるいは路線の逸脱と見られることを避けるため、昇進を競い合いつつも、それまでよりもはるかに保守的なアプローチをとるようになった。

アナリストらによれば、必要なのは目立たないようにして大きな事故を避け、時間を稼ぐことだという思い込みがあったせいで、孫氏の重慶における保守的な指導スタイルに拍車がかかってしまった可能性があるという。

だが、孫氏の看板政策であった、重慶市を「都市中枢」や「生態系保全ゾーン」など5つの「機能別エリア」に再編するという難解な計画は、多くの市民の心をつかむには至らなかった。

重慶の弁護士Zhou Litai氏は、「非現実的で空疎な計画だ」と言う。

<リスク回避>

昨年10月、重慶で炭鉱爆発事故が発生して33人が死亡し、全国規模のトップニュースになったが、その後の市内の炭鉱業に対する取り締まりを見ても、孫氏のリスク回避志向は明らかだった。

国営メディアの報道によれば、重慶市政府の対応は、年間生産量9万トンに満たない炭鉱すべてに生産中止を命じ、市内181カ所の炭鉱を閉鎖したという。業界関係者がロイターに語ったところでは、生産中止となった炭鉱はまだ再開されていないという。

炭鉱所有者のあいだでは、市政府は過剰反応しているという声もある。

炭鉱所有者の1人である前出のJin氏は、生産中止の対象となった炭鉱の所有者はいずれも厳しい財務状況に陥っており、Jin氏の企業でも従業員300人の大半が解雇されたという。

孫氏の後任として重慶市党委員会書記に就任した陳敏爾氏は、ただちに市職員らに対し、同市から薄氏および警察トップだった王氏の思想を排除するよう求めた。

官製メディアである重慶日報によれば、陳氏は先週、「薄、王両氏の思想という悪しき遺産を、考え方、政治、働き方から断固として排除せよ」と述べたという。

国内各省の官製地方紙は26日、各省政府が会合を開き、孫氏の取り調べに関する党の決定を「断固として支持」したとの記事を1面に掲載した。

(翻訳:エァクレーレン)

最終更新:8/1(火) 10:09
ロイター