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【ニュースソクラ編集長インタビュー】自著『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』を柴山桂太京大准教授に聞く

8/1(火) 18:01配信

ニュースソクラ

アジアでの武力紛争避けられず

――師匠である佐伯前京大教授とともに10年以上前からグローバリズムに警鐘を鳴らして来ていますが、あえてこの本を出されたのはなぜですか。

 グローバル化がもたらしたものは何でしょうか。世界銀行の首席エコノミストだったミラノヴィッチ氏らが「エレファントカーブ(所得の伸びを世界中の所得の層別にグラフ化したところ象の鼻のようにみえることからこう呼ぶ)」として解説していることですが、グローバル化で富を獲得したのは、新興国の労働者と先進国のトップ1%の人々だけ。先進国の労働者はまったく富を増やしていないと明らかにしています。

 トランプ大統領はメキシコと中国の労働者に米国の労働者から富を奪ったと大統領選の時から唱えている。大統領選で最後までヒラリー・クリントン氏と民主党候補を争ったサンダース氏は、トップ1%の強欲な金持ちに富を奪われたと主張しました。

 どちらもいわゆるエリートでない「民衆」の支持を得たという点でポピュリズムなのですが、いまの日本ではポピュリズムというと悪いことととらえられがちです。グローバル化の負け組が騒いでいるだけ、訴えているだけというとらえ方が一般的ではないでしょうか。日本の普通のサラリーマンなら勤務先が国際企業ですから新自由主義以外の選択肢を知らない。

 しかし、なぜ米国は一種野蛮とも言えるトランプという政治家を大統領に選んだのか。なぜ英国はブレグジット(英国のEUからの離脱)を国民投票で選んだのか。トランプ大統領がうまくやれるとはおもいませんが、かといって米国再生へ舵を切ったのがもとに戻るとも思いません。

 ポピュリズムは悪という理解では間違えてしまう。深く読み解いていかないとはき違えてしまうと思っています。それが本書出版の最大の動機です。

――中野剛志さんとの対談形式での出版となった経緯は。

 中野さんとは20年ほど前、私が大学院の時に知り合いました。当時の経産省は新自由主義の流れの乗った構造改革派が主流だったのですが、中野さんは懐疑的で、その点ではそのころから考え方が一致していたと思います。

 歴史や思想史を学んでいた私の立場からは、資本主義は危機の連続であって、そのなかで政府の役割が大きくなるかたちで進んできているのに、新自由主義がうまく行くわけがないと思っていました。

 中野さんは普通の経産省キャリアが米国のMBAコースを留学先に選び勝ちなのに英国のエジンバラ大学で政治学を専攻します。その点だけでも異色ですが、エジンバラで経済ナショナリズムの研究をして評価されました。

 中野さんが昨年半ば「富国と強兵」という大部の本を出されたタイミングで私が日経のやさしい経済学でトランプが勝ちそうなんて書いたのを読まれて、対談しませんかと声をかけてくれました。11-12月にまとめて20時間ぐらい話して、それをライターの櫻井拓さんに数分の1に圧縮してまとめていただき、二人で目を通して出版となったわけです。

――タイトルは二人で決めたのですか。

 タイトルは集英社に任せました。いつもそうなのです。グローバリズムというのは食傷気味かなという思いもないわけではなかったのですが、任せました。そうそう悲劇というのは私が入れてくださいとお願いしました。

――対談してみて微妙なニュアンスの違いとかありましたか。

 「富国と強兵」を書かれた直後ですから、戦争というファクターが資本主義の発展や国家の形成に大きな影響を与えていると強調していますね。最近の政治学、社会学では多くなっている考え方ですが、欧州がどうして世界を支配できたかというと、強い国家と資本主義を生んだからだ。そして、それは戦争を通して、産業の技術革新、徴税、国民軍、議会、国債などの制度が整っていったからだということです。

 今後についていえば、簡単に総力戦はできないので、保護主義的な統制経済への転換は簡単ではない。戦争によって資本主義が蘇るというようなパターンはないだろう。とはいえ、総力戦はないにして戦争のようなものが起きるのではないかとうい漠然とした予感はあります。

――第二章の最後で中野さんの発言になっていますが「現代のグローバル化はまた別の暴力的な悲劇に行き着く可能性があるのです」と書かれて、武力紛争の発生を予想していますね。

 22世紀にかけて、物質文明の中心は大西洋から太平洋に移ると思っています。もちろん、その移行が平和的に起きることはなく、紆余曲折があるはずです。これまでアジアは世界の工場となり、日米欧にモノを売ってきました。それが、リーマン危機以降は変わり始め、ついにトランプ政権ができて保護主義的な政策をとるといい始めました。売り先を失おうとしているのです。

 それで内需喚起に向かい、信用バブルに近いことをあちこちで起こしています。これは長くは続かない。

 現状維持を志向し始めた米国と現状変更勢力である中国がぶつかるのがアジアです。米中の綱引きがあり、力関係が不安定になって紛争の引き金になるのではないかと思います。

――そうなると日本はその主戦場で米中に挟まれた立場になります。本書のなかでは、日本は米中への二重従属体制に置かれると指摘していますね。どういう選択肢があるのでしょうか。

 日本と同じ立場にあるのは、韓国と台湾、それに見方によっては香港もなのですが、徴兵制度で北朝鮮や中国と対峙する韓国、台湾という「緩衝地帯」があって、日本の平和は成り立っていました。

 尖閣にみられるようにもう緩衝地帯はなく、日本は直接的に最前線にいます。日米同盟の大枠は維持しつつも、軍事的な独立を強めて中国ともバランスを取るということでしょうか。

――自衛隊の幹部などにも米国にいつ見捨てられるかわからいないという警戒感はありますね。

 中野さんは尖閣が象徴になる可能性があるといっていますね。国家間の力関係は小さな勝利でよくて、それでゲームのルールががらりと変わってしまいます。新しい覇者が中国だと示せればいいのであって、覇権衰退はサドンデス(突然死)としてやってきます。覇権とは目に見えない信頼に支えられたものです。

――中国は成長が続いたとすれば習主席と人民解放軍による軍拡路線は変わらないでしょう。習主席は本気で台湾併合を考えているのではないでしょうか。

 私は14世紀の中世アラビア世界を代表する歴史学者、イブン・ハルドゥーンが「歴史序説」で唱えた三世代モデルがなかなか説明力が高いのではないかと考えます。建国の英雄が第一世代、二代目は経済のかじ取りでなんとかつないでいくが、三代目は統治の正当性を維持できなくなるという考え方です。

 中国も北朝鮮もちょうど三世代目にあたるのではないでしょうか。共産党の正当性は揺らぐ時期です。習は神格化を進めているといいますが、神格化をめざせる要素などないです。プーチンロシア大統領におけるクリミアのような、手柄、成果が必要です。国家の運をかけた勝負をしたくなるでしょうね。

ーー安倍政権の支持率急落については、どうお考えですか。

 安倍首相の支持率が落ちているのは、表向きは政権スキャンダルが原因ですが、私はもっと深いところで日本の政治に地殻変動が起きていると思います。地方の疲弊はとめどなく進んでいて、このままでは国家が壊れてしまう。新自由主義だけが「この道しかない」と言われてきましたが、本当にそうなのか。次の時代を見越した政治の方針転換が求められています。


■柴山桂太(しばやま けいた)
京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。主な著書に『静かなる大恐慌』(集英社新書、2012年)、共著に『グローバル恐慌の真相』(同、2011年)、『TPP 黒い条約』(同、2013年)、『「文明」の宿命』(NTT出版、2012年)など。

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:8/1(火) 18:01
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