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英国ウィラル半島の1日ゴルフ旅

8/2(水) 7:32配信

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)

きっとみんなにもあるはずだ。誰かのちょっとしたひと言が小さな思いの種を生み、それが、あっという間に芽を出して、どんどん大きくなってしまうような経験が――。

【画像】全英オープン 松山英樹のレアなショット

それは、ジョーダン・スピースによる全英史に残る “練習場ショット”が放たれる前日の土曜朝。コースに出る準備をしていた写真家の宮本卓さんと、リンクスコースについて話していたときのこと。「なに、お前はリンクスコースをプレーしたことがないの?それはダメだなぁ。1カ月くらいスコットランドでも回ってきた方がいいよ」と、いつもの微笑でさらりと言われた。バークデールを歩き回った週末に、その言葉は何度も頭の中でリフレインした。

取材が明けた月曜日。予定はなかった。スコットランドまではさすがに行けないが、「日本から取材で来たって言えば、空いていたらやらせてくれるよ」という大先輩の言葉を信じた。「この辺ならロイヤルリバプールがカッコイイよ」。現在9つある全英開催ローテーションに含まれる名コースは、マージー川とディー川に挟まれたウィラル半島の北西端、ホイレイクという街にある。バークデールがあるサウスポートからは車で約1時間。ゴルフ道具も持ち合わせていなかったが、とにかく向かった。こういうとき、マニュアル車の軽快なレスポンスは本当に心地よい。

1895年に建てられた赤煉瓦のクラブハウス前に車を滑り込ませ、入り口に向かった。キャディバッグを背負ったジュニアゴルファーたちが出入りしている。扉を開けると、受付に優しそうな中年女性が座っていた。事情を説明すると、「きょうはいっぱいなの」と申し訳なさそうに断られた。さすがにそんなに簡単にはいかない。帰り際、「この辺だと、どこでプレーできそうですか?」と尋ねて、近隣のゴルフ場リストを書いてもらった。
次に向かったのは、リストの一番上にあったウォラシー・ゴルフクラブ。メモには電話番号も書かれていたが、ホイレイクからは15分ほどの距離だったので、とにかく行ってみることにした。瀟洒なレンガ作りのクラブハウス横にスターター小屋があり、パッティンググリーンやティグラウンドにはプレーヤーたちの姿も見える。入り口横の掲示板を見ると、8時32分から14時56分まではチャリティ大会でティオフする旨が書かれていた。うーん、ここも厳しそうだな…。

白い布をかぶせた受付テーブルに座る男性に「プレーできればと思って来たけど、大会をやっているんですね」と半ばあきらめ口調で話しかけた。だが、その反応は予想とは違っていた。「そうだなぁ…できると思うよ!」といたずらっぽい目をして言う。「ちょうど、10時半の組で1人空きが出たから、他の3人に聞いてみてOKならここに入れるけど、どうする?」。心臓がドキッとした。このゴルフ場は“ステーブルフォード”発祥の地であり、球聖ボビー・ジョーンズがグランドスラムを達成した1930年に、全英出場権を勝ち取った予選会場という歴史的な場所。ただ、この日は知り合いの記者に一緒にやろうと声を掛けていたので、この1枠に入るわけにはいかなかった。後ろ髪を引かれる思いでクラブハウス周辺の写真を撮っていると、初老のゴルファーが話しかけてきた。「君はプレーをしたいのかい?我々は1人来られなくなって3人になったのだけど、良かったら――」。あぁぁ…。

時間も限られていたので、次のゴルフ場には電話を掛けた。3人で回れるかと尋ねると、大丈夫とのこと。他の2人にも連絡をして、現地で落ち合うことにした。

たどり着いたのは、そこから南に10マイルほど下ったヘスウォールゴルフクラブ。プレーフィーは70ポンドで、レンタルクラブが15ポンド。手引きカートも貸してくれる。パッティンググリーンにいた若者は「バークデールとは違うけど、良いパークコースだよ」と教えてくれた。クラブハウスが一番高い場所にあり、コースの先に海につながるディー川とその対岸の丘が広々と見渡せる。青々とした芝はリンクスとは違ったが、吹き抜けている風に“リンクスの匂い”を感じた。

海に向かって打っていく4番(207yd/パー3)と、突き当たりを右に折れてアゲンストになる川沿いの5番(608yd/パー5)が印象的だった。フェアウェイ脇を小川が流れ、多くの池もプレーに絡んでくる。コース内を遊歩道が横切っていて、犬を連れた家族やランニングをするカップルたちが頻繁に通り過ぎた。コース脇には黄金色の麦畑が広がり、太陽を浴びた可憐な花々が輝いている。池の畔では鴨たちがのんびり羽を休めていた。

ホールアウト後、クラブハウスのテラス席で白ワインを囲むメンバーらしきグループに挨拶をした。すると、その中の1人が「なぜこのコースを選んだのか?」と興味津々の様子で尋ねてきた。ちょっとだけ気を遣って「最初はロイヤルリバプールに行ったのだけどいっぱいで、ここが良いゴルフ場だと聞いたので来た」と答えた。「そうか、我々はセカンドベストか!」とメンバーたちは笑っていた。

「このコースは、ときどきは少し易しい。風によってはかなり難しくもなる。でも、決して簡単過ぎることはない」と言い残して、メンバーたちは帰って行った。時間はまだ16時前。陽は高く、いつまでも変わらないような穏やかな景色が目の前に広がっていた。

宿に戻り、ロイヤルリバプールでもらったクラブ年刊を眺めた。冒頭には、クラブキャプテンのブルース・タイラー氏が序文を寄せている。そこに、今回の旅で感じた精神がものの見事に描かれていた。

「この歴史的なクラブのメンバーとして、リンクスを定期的にプレーすることはこの上ない特権です。しかし、たぶんより大きな栄誉は、地元や海外からのゴルファーを招き入れ、ホイレイクの経験を共有することです。我々はあなたが初めてであろうが、再訪であろうが、ここですばらしい1日を過ごすことを願っています」

どこにいっても感じた人の温もり。ほんの短い旅だったが、ゴルフの懐に抱かれた安心感がこの地にあった。(英国サウスポート/今岡涼太)