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炭素繊維の“より糸”で耐震補強、その利点とは

8/2(水) 6:10配信

スマートジャパン

 合成繊維・フィルムなどの素材開発・製造販売を手掛ける小松精練(石川県美能市)は2017年7月、金沢工業大学と共同開発した炭素繊維複合材「カボコーマ・ストランドロッド」が、2018年中をめどに耐震補強材としてJIS(日本工業規格)化される見通しであると発表した。炭素繊維複合材の製品規格がJIS化されるのは国内初。同社ではこれを追い風に、耐震補強への炭素繊維複合材の利用が拡大すると見込み、2020年に耐震補強材市場のシェア10%獲得を目指す方針だ。

 カボコーマ・ストランドロッドは炭素繊維の芯をガラス繊維などで編み込むように覆った7本の束を、熱可塑性樹脂に含浸(がんしん)させている。炭素繊維強化樹脂(CFRP)の一種で、7本の束に“より”を加えることで、曲げ強度を高めている。

 CFRPは航空機や自動車分野などで採用が広がりつつある注目の素材だ。高い強度を持ちながら、軽量であるという特性が、自動車や航空機など、高いエネルギー効率を求める輸送分野の製品に適している。カーボコマ・ストランドロッドも比重が鉄の約4分の1と軽く、引張強度も5倍以上高い。直径9.3mmのタイプの場合、1m当たりの重量は約88g、破断荷重80kN、破断強度1510MPa、弾性係数85GPaである。

 この他、耐塩水性、耐酸性、耐アルカリ性があり、耐久性にも優れる。鋼材のようにサビることもなく、導電性が高いため結露しないなどのメリットもある。柔軟性もあるため、ロール状態で施行現場に持ち込むことが可能だ。

 現行の建築基準法において炭素繊維は指定建築材料に指定されていないため、建造物の柱・梁・土台部分などに使用する構造材としての使用は認められていない。ただし、耐震改修促進法において、増床に該当しない場合は耐震補強材としての利用が可能だ。既にゼネコンなどを中心に、炭素繊維シートを利用した耐震補強工法も登場している。

 しかし、これまでにJIS化など、耐震補強材として炭素繊維の性能に関する標準化は行われていない。そのため「顧客にメリットを説明しても、信頼性を不安視さてれしまうこともあった」(小松精練 取締役 技術開発本部長 奥谷晃宏氏)という。そこで同社ではJIS化に向けて、自社施設の耐震補強にカーボコマ・ストランドロッドを利用するなど、施工実績を積み重ねてきた。

善光寺の耐震補強にも採用

 最初の大きな導入事例となったのが、小松精練の旧本社棟を改築した研究開発棟「fa-bo(ファーボ)」だ。建物の周囲にカーボコマ・ストランドロッドを張り巡らすように設置し、耐震性能を高めている。さらに室内にはトラス状に加工したものをブレースとして設置し、圧迫感の無い“透ける”耐震壁を実現した。なお、fa-boは設計監理を隈研吾建築都市設計事務所、施工は清水建設、構造設計者は江尻建築構造設計事務所が担当している。

 ファーボへの採用を皮切りに、2016年秋には茨城県で木造住宅の耐震補強に利用された他、2017年1月には長野県にある「善光寺」経蔵の保存修理で耐震ブレースとして利用されるなど、施行実績を積み重ねてきた。カーボコマ・ストランドロッドは、木に近い剛性を持つため、木材との相性が良いという。軽量であるため、木材を傷つける心配も少ない。さらに製造できる長さに制約がないため、鋼材を利用する場合と比較して、使用する本数や、接合部を減らせるメリットもあるという。

トータルコストは鋼材の「2~3倍」

 小松精練はカーボコマ・ストランドロッドを全国の販売代理店を通して、施主や施工店へ販売していく。価格は1m当たり3000円を予定している。これは鋼材などを大きく上回る価格だが、奥谷氏は「これまでの施工事例の中で、軽量で扱いが容易というメリットによって、施工を大幅に短縮できたという声も聞いている。施工費も含めたトータルコストで比較すると、現状鋼材などの2〜3倍程度までは近づけられるのではないかと考えている。今後は量産化によるコスト低減を進め、2020年以降にはトータルコストで鋼材などと同等のレベルにしていきたい」と述べている。

 現在、小松精練のカーボコマ・ストランドロッドの生産能力は1カ月当たり1万m程度。2018年中を予定するJIS規格化を追い風に、同社では30〜40億円を投じて生産能力を数倍以上に引き上げる考え。今後、耐震補強のニーズは高まっていくとみており、カーボコマ・ストランドロッドで2020年に耐震補強材市場のシェア10%、年間売上高30億円を目指す。