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現金決済がなくなる日は近い

8/3(木) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 クレジットカード決済システムの大手、米VISAは7月12日、店舗におけるキャッシュレス決済の普及を目的として、総額50万ドルのキャンペーンを8月から実施すると発表した。デビットカードやクレジットカード、スマホの決済サービスに特化する店舗には、VISAが端末設置や技術的なサポートを含め、1万ドルのインセンティブを提供する(米国50店舗限定)。

【Suicaとも連動できる「Apple Pay」(出典:Apple公式Webサイト)】

 カード会社をはじめとする決済サービスの提供会社にとっては、競合他社よりも「現金」が最大のライバルとなっている。現金の利用比率が下がれば、必然的に電子決済の比率が上昇するので、シェア争いをしなくても業容を拡大できる。

 VISAがこうした大胆な方針を打ち出しているのは、世界的にキャッシュレス化が進む可能性が高まっているからだ。

 米国ではクレジットカードの普及が進んでおり、高額の紙幣が店頭で使われるケースは少ない。また、北欧では店舗で現金のやりとりする光景はほぼ消滅したとも言われている。

 ここまでキャッシュレス化を進めることができるのは、豊かな小国が多い北欧ならではというのが一般的な理解だったが、ここ1~2年でその常識は大きく崩れ始めた。決済インフラがほとんど整っていない中国で、キャッシュレス化が加速しているからだ。

●中国がキャッシュレス化をリード?

 中国では電子商取引大手のアリババなどのIT企業がアプリを使った店舗向けの決済サービスを提供しており、スマホさえあれば、QRコードを読み込むことで、店頭でもすぐに電子決済ができる環境にある。都市部では、屋台における支払いも電子決済が当たり前となっている。

 中国の場合、クレジットカードといった既存の決済インフラが整っていなかった事情もあり、はじめからスマホを使用したキャッシュレス化が進んできた。このため、スマホを使った決済サービスに対する抵抗感があまりなく、爆発的な普及を促している。

 十数億人の人口を抱える巨大マーケットがキャッシュレス化に向けて動き出したインパクトは大きい。家電量販店のビックカメラがビットコイン決済の導入を始めたり、LCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションが年内にビットコインによる支払いに対応するなど、日本でも決済手段の多様化に乗り出す企業が増えているが、最大の理由は電子決済を望む中国人観光客を囲い込むためである。

 日本は先進国の中では最も現金決済の比率が高い国として知られてきたが、状況は大きく変わりつつある。日本の場合、既に多くの店舗にクレジットカード端末が設置されており、これに加えて「楽天Edy」や「Suica」など、電子マネーのサービスもそれなりに普及している。

 さらに、決済サービス「Apple Pay」が上陸するなど、スマホベースの決済サービスが拡大している。スマホはほとんどの人が持つ共通インフラであり、決済インフラとしての潜在力は大きい。

●キャッシュレス社会はメリットだらけ

 Apple Payは2016年10月に国内でサービスを開始したばかりだが、Suicaとの連動性が高く、クレジットカードでの課金ができるので、場合によっては一気に市場が拡大する可能性がある。

 「ウォレット」と呼ばれるiPhoneのアプリにクレジットカードやSuicaを登録すればすぐにサービスを利用することができる。店舗ではSuica、QUICPayなど既存の決済手段の中から好きなものを選択し、スマホをかざせば決済が可能だ。

 店舗での現金のやりとりが減ると、経済的には多くのメリットが享受できる。現金の配送や管理にはかなりの手間とコストが発生しており、これが店舗の生産性を下げる要因となっていた。現金決済をやめることで、こうした負荷を大幅に減らすことができる。人手不足と残業が社会問題になっている日本では非常に重要なポイントとなるだろう。

 全ての決済が電子的に記録されるので、マネーロンダリングなど犯罪目的の利用も減らすことができる。現金が存在しなければ、盗難やスリの被害も大幅に減らせるだろう。また、電子決済に関連したビッグデータは宝の山だ。現金決済の時代には埋もれて見えなかった消費者の行動が、電子決済によって浮き彫りになる可能性もある。

 個人の生活という点でもメリットが大きい。ほとんどの買い物が電子決済で行われれば、どこで何にお金を使ったのか一目瞭然である。電子決済サービスを提供する企業が明細を作成してくれるので、わざわざ家計簿などをつけなくても、簡単にお金を管理できるようになる。お金の使い方を俯瞰(ふかん)して見ると、自分がいかにムダにお金を使っているのか愕然(がくぜん)とするはずだ。


(加谷珪一)