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平常心であり続けるためには、全員をイモだと思え。香川真司×池田純(後編)

8/3(木) 11:30配信

VICTORY

これまでドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドと世界のトップクラブでプレーしてきた香川真司選手、横浜DeNAベイスターズ社長時代に実現不可能と言われた収支黒字化を現実にした池田純氏。スポーツシーンのトップランナーである2人の対談が今回実現した。後編では、平常心を保つためのポイント、結婚観、そして間近に迫ったW杯最終予選について話し合った。

インタビュー=岩本義弘
取材協力=Hai-Sai 六本木

常に心を一定に保つために、池田純が実践していること

岩本 続いてマンチェスター・ユナイテッドの話も伺いたいと思います。ドルトムントもトップクラブですが、ユナイテッドはさらに上をいくクラブで、ピッチでも、ビジネス的にも世界のトップ3に入るレベルのメガクラブです。実際、ユナイテッドに所属して、違いを感じました?

香川 確かに、クラブとしての規模は大きかったですね。でも、メディカルススタッフとか、ドクターやマッサージ、トレーナーの質は、ドイツのほうが良いんですよ。

岩本 マンチェスター・ユナイテッドに移籍して、メディカルスタッフが良くなかったら、けっこうショックですね……。

池田 でも、アメリカもそんな感じですよ。日本人って、グローブにすごくこだわるんです。自分のグローブは、どこの革がどうのこうの……って。でも、メジャーの選手の場合は、契約しているサプライヤーがドンって持って来て、「この中から好きなものを選んでください」、「じゃあ、これで」っていう感じです。

香川 実際はどうなんですか? 確かに、日本人選手って、グローブにすごくこだわっているじゃないですか。普通のグローブだと、やっぱりうまくいかないんですかね?

池田 それぞれの環境次第だと思うんですよね。すごく気にしながら育ってきたら、そこが崩れていくと自分の中で自信がなくなってしまう。用具だけじゃなく、ルーティーンもそうですよ。野球はすごくゲンを担ぎますから。パンツを右から履くか左から履くか、曲がり角を左で曲がるか右で曲がるか、全部ルーティーンで決まっていて、そうしたルーティーンどおりに準備できないと、途端にダメになる選手もいる。

香川 そこまでやるんですか。僕らもある程度はやりますけど、そこまで細かくはやりません。

池田 野球も、人によりますけどね。

岩本 香川選手のゲン担ぎは?

香川 試合の日は、だいたい同じパンツを履きますね。勝負パンツを履きます。

池田 常にメンタル、心を一定に保てるか。それは、プロ野球界にいたときにずっとみんなで話していました。波がある選手、それこそ、“ブルペンピッチャー”というタイプの選手がいるんですよ。ブルペンにいると、めっちゃ良い球を投げる。でも、観客のいるスタジアムのマウンドに立つと全然ダメ。だから、どうやって心を常に一定に保つか。3万人の前でヒーローインタビューをするときも、重要な試合でバントするときでもどれだけ心を一定にできるかをみんなで心がけようと話をしていました。そのために、ルーティーンが必要ならやればいいし、必要がないのであればそれはそれでいい。普段の練習で準備して、特に年を取っていくと、毎日の身体の変化ってすごく波があるので。一定にするためにどれだけその準備をちゃんとできるか。とにかく、準備がすごく大切だし、みんなで心を一定にしようねって話をいつもしてました。そのために自分が必要なものはなんなのかだと思う。でも野球界のジンクスの多さは本当にすごい。だって、僕とか、フロントの人間もゲンを担ぐように言われるくらいですから。

岩本 個人だけじゃなく、チーム全体でやるのってすごいですよね。

池田 目的が間違っているんですよ。ゲンを担ぐことが目的ではなくて、試合とか、満員の大観衆の前でプレーするときに心を一定にすることが目的で、そのために何が必要かだけなんです。そのためにゲンを担ぎたいなら担げばいいし、練習が必要なら練習すればいい。どれだけ心が乱れないかだと思うんです。
 僕が社長をやっていてよく言われるのが、記者会見とか投資家の前でいろいろと説明するときに、みんなはそういう場に立つと緊張すると言うんだけど、僕は全然緊張しない。なぜかというと、全員“イモ”だと思っているから。あえての“超上から目線”で、「おれのほうがすごいから、わざわざ時間を作って説明してあげている、理解させてあげているんだ」と。そう思った瞬間、普段どおりの自分の言葉で、生の言葉で喋れるんです。

香川 ちょうど今日、トークイベントがあったんですが……緊張しましたね。ああいう場ってなかなか経験しないので。インタビューをされるときも、後から振り返ってみると、自分の言いたかったこと、伝えたかったことが全然言えなかったなと思うことが、しょっちゅうありますし。

岩本 池田さん、トークイベントやインタビューを自然体でこなすためのアドバイスはありませんか?

池田 いつも平常心でいられるように訓練するだけですよ。でも、そこは本質じゃない。別にトークイベントで緊張してもいい。要は、どんなときも平常心を作れるかどうかの訓練なわけですから。仮に僕がトークイベントに出たとしたら、「プロの社長として仕事をこなすために、こんなところで緊張なんかしてられるか』と思うようにしてる。心を平常心に保つための訓練です。僕は、いつでも平常心になれるように、自分でメンタルトレーニングをしているから。
 どうやるかというと、いわばマインドコントロール。僕がベイスターズの社長やめてから、「なんで絶頂で辞めたんですか?」って、すごく言われるんです。「ここからが優勝したり、楽しいときなのに」って。でも契約満了だったわけだし、僕はオーナーではなくて、社長として雇われていただけですから、契約が切られたら終わりなんです。なのに、契約が終わっても、自分のものだと思ってしがみついてストーカーみたいになっても、どうにもならないし、仕方がないことは仕方がない。だからマインドコントロールをして、次のことしか考えないようにしています。「次は何をやろう」って。たまに家に帰ると落ち込んだりしますよ。でも、平常心に戻るための訓練をしょっちゅうしていますからね。
 お酒を飲んで二日酔いになると、平常心に戻りにくくなるから、二日酔いになるのをやめているんです。アルコールは平常心に戻るのを邪魔しますからね。だから最近、特にこの1年は気をつけています。毎日車で来て、お酒を飲まないようにしている。本当は、お酒が大好きなんですけどね(笑)。

香川 野球選手は、そういうイメージがありますね。巨人の坂本勇人とは同い年で、巨人の選手とは何回か食事に行ったことがあります。

池田 坂本選手も、平常心を作るのがけっこう上手いほうですね。

岩本 確かに上手そうですね。全然、流れとは関係ないときに、いきなり試合を決めるようなヒットやホームランをポーンって打つじゃないですか。

香川 勝負強いですよね。

岩本 そう、勝負強い。僕はカープが好きなんですが、カープ戦でやたとら打つから坂本選手のことは嫌いです(笑)。

池田 彼はメンタルが強いですからね。近くで見ていたからよくわかりますが、CSのときもグッと目が座って、「打ちに行くぞ」っていう顔をしたときは、ほかのことを全く気にしていない様子ですから。多分、観客とかも気にしていない。

岩本 巨人では彼だけが抜けてる気がしますね。そういうところでは。

池田 そう、全部イモに見えてるんだよ。

岩本 そういうメンタルなんでしょうね。香川選手も、「周りがイモ」じゃないけど、自分の状態が良いときは、やりたい放題なときがありますよね?

香川 そうですね。

岩本 ああいうときは、まさにピッチ上でそういう状態なんですか?

香川 この半年くらいはピッチ上で、ずっとそんな感じですね。それこそ、常にその状態をキープできたらベストだと思います。ただ、今シーズンは年間を通してはなかなかうまくいかなかったんですけど、この半年は本当にうまく最後までやれたので、それは新たな手ごたえですね。

池田 それがもっともっと安定すればいいですね。これからもっとメンタルが大人になっていくと思いますが、そのときに逆行して身体の衰えが来るはず。それで、いろいろな選手が悩んでしまう。「昔は打てたのに。なんか打てなくなった」とよく言うようになる。それは過信しているんですよ。「自分はいつまでも打てる」って。でも、実際は人間だから目も衰えるし、知らない間に感覚も変わってくる。プロはその微妙な言葉にできないラインで勝負しているじゃないですか? あれを自分の中で理解して、言葉にして乗り越えている選手は、すごく長くやっている感じがしますね。
 個人的には、中村紀洋(元ベイスターズ)は、その感覚がすごいと思いました。彼はメンタルの作り方に関してはプロですよ。勝負の仕方とか、自分が勝つために打つために、何が必要か。配球を含めた相手のクセとか、ここでこう投げてくるというのを全部見ている。その一つを狙うためだけに、すごく集中している。動いている100何十キロのボールを、ここで捉えるためにどうするか。目は衰えているし、身体も衰えているから、なかなかホームランは打てない。でも、その身体の衰えを補うために、配球のクセとかを、どんどん勉強していった。本当にすごかったですね。

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最終更新:8/3(木) 11:30
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