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森山直太朗 音楽ライブのその先へ! 15周年記念ツアー最終日で魅せた限りなき可能性と真価/レポート

8/4(金) 18:15配信

エキサイトミュージック

 
■森山直太朗/【森山直太朗 15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』】ライブレポート
2017.07.29(SAT) at NHKホール
(※画像4点)

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「気の合う仲間と音楽を奏でる、
こうして皆さんとつながることができる。
それによって強い希望を、たった今感じています」

「さくら(独唱)」や「夏の終わり」など、エヴァーグリーンな楽曲を澄み渡る歌声で届け、幅広い層から愛されるシンガーソングライター森山直太朗。明るくチャーミングなキャラクターも含め、デビュー以来15年、多くの音楽ファンを魅了し続けている。そんな彼が15周年記念オールタイムベストアルバム『大傑作撰』を携えて、今年1月から47公演ものロングツアー『絶対、大丈夫』に出た。全公演ソールドアウトさせた長き旅もついにNHKホール2Daysで千秋楽となった。

ステージ全体を覆う透過スクリーンに、宇宙を思わせるようなスケールの大きい幻想的な映像が映し出され、会場は一気にライブの世界へと惹き込まれた。力強くしなやかな歌声が響きわたる「嗚呼」でステージは幕を開けた。この楽曲は、森山が一昨年秋から約半年ほど取った小休止の間に心に溜まった叫びを歌にしたもの。言葉にならない思いを、嗚呼という言葉に込めて歌う。その歌声に秘めた思いの強さに、のっけから心が震えた。

「魂、それはあいつからの贈り物」では打って変わって、華やかなバンドサウンドに。「東京!」と呼びかけると、客席からは自然と手拍子が沸き起こった。「夕暮れの代弁者」はアーシーでパワフルなビートがますますオーディエンスのテンションを押し上げた。疾走感あるサウンドに乗せ、森山はパントマイムで“全力疾走する男”を演じながら歌い始めた。かと思えば、高校球児も驚くほどの見事なスライディングを決めながらハーモニカを巧みに鳴らす。予想のつかないパフォーマンスで、観客の目も耳も楽しませていた。

森山のライブは、美しい楽曲を確かな歌唱で聴かせるうえに、ユーモアあふれるMCやエンタテインメント性豊かな演出も相まって、一度見たら病みつきになる人も多い。この日も、曲が終わるごとに起きる拍手と歓声から、いかに観客が彼のパフォーマンスを待ちわびていたか伝わってきた。

最初のMCは、ライブが生中継されていることもあって「こんばんは! 森山直太朗です。たくさんの拍手をありがとうございます。本日は千秋楽です。満員御礼、ありがとうございます」と、いたって普通に話し始めた……。が、そこはユーモアセンス溢れる彼のこと。それだけで終わらせない。
 
「のっけから飛ばしすぎて、吐きそうです。でも、そう『絶対、大丈夫!』(笑)。いえ、むしろ吐いてからが『絶対、大丈夫!』です」と、いつもの調子になると、あちこちから笑い声が聞こえて来る。温かで親密な空気が会場を包み込んでいた。

ウォームでおおらかなナンバー「太陽」は、両手を挙げた観客の手が稲穂のように優しく揺れ、「フォークは僕に優しく語りかけてくる友達」のサビでは、シャラランラン~のフレーズを大合唱するなど、どんどんと会場が一体化していくのを感じた。

「皆さま、シャララン~とハモっていただきありがとうございます。私ごとですが、15th Anniversaryでございます!」と告げると、場内からはひときわ大きな歓声と祝福の拍手が鳴り響いた。ベスト盤の話を始めるや否や、いつものおどけたトークがますます加速。その刹那的な楽しさは、ライブ会場に居ないと伝わりにくいのでここでは割愛するが、観客とのツンデレが混じった即興のユーモラスな掛け合い(MC)はぜひ生で体感してほしいものだ。

ふざけて笑いあったかと思えば、名曲「夏の終わり」でどこまでもしみじみとした気持ちにさせるのだから、森山という男はずるい。ストリングスやウッディーなベースの調べが郷愁を誘う、その余韻も冷めやらぬまま……今度は、問題作「うんこ」を情感たっぷりに歌い上げたりもする。そんな厨二っぽい少年らしさもまた、彼の魅力なのだが。

リリース当時、最初の一節が一人歩きをして物議を醸した「生きてることが辛いなら」は、最初は静けさをまとって、次第にジャズやゴスペル調も織り込みながら、そしてラストに向けてオーケストラのような壮大なサウンドを道連れ、高らかに歌い上げられた。本来、生きることを強く肯定したこの歌は、時代を経てどう受け止められるようになっただろうか……と、ふと考えさせられた瞬間だった。

「一昨年の秋から昨年の春にかけて休みを取りました。今も、その理由はよくわかりません。ですが、足元を見つめ直すことができ、(休んだのは)間違ってなかったのかなと。ただ、ずっと走り続けてきたから、ふと止まった景色に動揺もしました。どこに向かっているのか、と。そんな自分を導いてくれたのは、音楽でした」

いつになく、休業中の思いをシリアスに語り始めた森山。会場の誰もが静かに聞き入っていると、例によって“ふざけ心”がムクムクと湧いたのだろう。「おしゃべりに集中しすぎて、MCがカッコよくなりすぎちゃいました(笑)」と急におどけ始めた。観客との他愛のない言葉のキャッチーボールを楽しみながらも、オブラートに包んで核心をつく話を盛り込んで時に聴き手の心に疑問符や爪痕を残す。ただ興じるだけに終わらせない、そこもまた森山直太朗のライブマジックだ。

「(小休止していた)その過程で、今回ツアーにも参加してもらっている河野圭さんとの出会いもありました。互いにやり取りをする中でアルバム『嗚呼』が完成し、活動を再開できました。私としてはターニングポイントになったアルバムです」

今の森山につながるアルバム『嗚呼』から、人の根源的な問いを歌にした佳作「とは」を披露。透明感ある歌声で軽やかに歌うことで、余計にその問いの重大さを痛感させられた気がした。

いよいよ終盤戦へ、というタイミングで15周年を髪型で振り返る(?)インタビュー映像が流れた。その時はただ面白いトークだとしか思っていなかったが、「ひとまわりも、ふたまわりも大きくなりました。新生、森山直太朗です!」という言葉と同時に、現れたその姿で全てが腑に落ちた。なんと、直径1メートルはあろうかという巨大なアフロヘアとギンギラ衣装をまとった森山直太朗が、そこに突如現れたのだから。それにはさすがに歴戦のファンたちもあっけにとられていたようだ。ミラーボールが七色を反射しながら回る空間で、ディスコティックに「星屑のセレナーデ」を歌う森山は実に楽しげだ。きっと内心、してやったりと思っていたに違いない。

タオルを手に回しながら走りつつ「盛り上がっていきましょう! 後半戦」と呼びかけたのは、ライブの人気曲「よく虫が死んでいる」。観客もタオルを回しながら、サビでオイ!オイ!と合いの手を入れながらジャンプ! 続く「坂の途中の病院」では、ギターのリフに合わせて、亡霊たちの物語をポエトリーリーディングするように歌っていくが、森山の早口は目を見張るものがある。滑舌よく、しかもリズミカルに架空の物語を息もつかせず語りまくるという、なんともチャレンジングな楽曲だ。

このように、日本の良心のような楽曲を歌い紡ぐ一方で、森山は15年間ずっと日本のポップスの限界、可能性に密かに、そして硬派に挑んできたように思う。その険しい道程があったからこそ、千秋楽に満面の笑顔で「最高だったよ! ありがとう」と胸を張って言える。「今が人生」を会場全員で大合唱する様は壮観で、感動的だった。

本編最後のMCで「15年、迷いの歴史でもありました。大きな迷路の中で彷徨い歩くような。それはこの先も続いてくのかもしれません」と心情を吐露。「それでも、こうして気の合う仲間と音楽を奏でて、その向こうにこんなにすばらしい出会いが待っている限り、これからも音楽を続けていこうと、そんな強い希望のようなものを、たった今感じています」と、力強く語りかけると、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。ラストは、「節目で生まれた特に思い入れの強い曲」として「君は五番目の季節」「どこもかしこも駐車場」を思い入れたっぷりに歌い、最後にピアノ伴奏のみで「さくら(独唱)」を力強さと清らかさをもって歌いきり本編を閉じた。

惜しみない拍手とアンコールの声に誘われ再登壇すると、この日一番の歓声と拍手で迎えられた。

「今夜は生中継もあり緊張しました。皆さんもそれに合わせて盛り上げてくれてありがとう(笑)。アンコールの声に甘えて、もう何曲か歌わせてください」

そこで披露したのは、10年以上も前に配信だけされたシングル「12月」。『大傑作撰』の土盤に収められるまで埋もれていた名曲を河野圭氏がリアレンジし、今の音に仕上げられた優しいバラードだ。それをとても大切に慈しむように歌う姿が印象的だった。

続いて観客からの手拍子とパワフルなバンドサウンドに乗せて、このツアーの最中に完成したという新曲「絶対、大丈夫」を力強く歌った森山。「年齢を重ねた今だから、シンプルなこの言葉を繰り返していくうちに、そうかもしれないと思えるようになった」とポツリと語った言葉に、この先の彼の活躍を見た気がした。

ラストは、遊びが大好きな彼らしく「土曜6時は~? ぜった~い!」「ダイジョウブ!」と、昭和の人気バラエティを思わせる掛け声で締めくくったが、そこにいるすべての人が笑顔だったに違いない。バンドメンバーに続き、森山がステージを後にすると、にわかに客電が灯り「本日の公演はこれで全て終了です」という乾いたアナウンスが流れ、その日の公演の終わりを告げた……。

と、その時だった。鳴り止まない拍手に応え、森山がたった1人でステージに走って戻ってきたのだ! すでに帰路についてしまった観客も多少はいたはずだ。これは全くの予定外の行動だったのだ。

「本当に良いコンサートになりました。ハプニングも含めて、楽しかった。ありがとうございます。ここからは、僕が個人的に歌いたいなと思って……」

そう言いながら、アコースティックギターを手に携え、つま弾き始めたのはセルフカバー「花」。柔らかくしなやかな旋律にのせ、言葉を慈しむように優しく歌うその声に、誰もが癒され、同時に酔いしれた。最後に、「9月からは(劇場公演)『あの城』も待っています。1つ1つチャレンジして、形を変えながら表現を続けてみなさんと接点を持って行きます」と宣言した森山。音楽を奏で、歌うだけで彼は十分すぎるほど人を魅了する力がある。にもかかわらず、森山はその先にあるものへと果敢に挑もうとしている。それが一体何かは想像だにできないが、だからこそワクワクするし楽しみでならない……そんな思いにさせてくれた夏の夜だった。
(取材・文/橘川有子)