ここから本文です

JR九州が発表した「全路線の通信簿」から見えること

8/4(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 7月31日、JR九州は公式サイトに「路線別ご利用状況」を掲載した。一般の会社で言うところの「部門別業績一覧表」に似ているけれど、損益を示す数値ではない。各路線がどれだけ稼いだか、ではなく、各路線がどのくらいお客さまを乗せているか、を示している。言い換えれば、各路線が沿線地域にどれだけ貢献しているか、沿線地域の人々はどれだけ鉄道を利用しているかが分かる。つまり、各路線の公共性を示すといえる。

【JR九州の攻めの姿勢が現れた宮崎空港駅】

 平均通過人員という耳慣れない言葉。これは旅客鉄道事業にとって、客をどれだけ運んでいるかを示す。数字が大きければ高評価で、小さければ低評価。主に赤字路線の廃止問題で引き合いに出される数値だから、平均通過人員という言葉自体が不穏な響きと受け取られ、地域の人々や鉄道ファンをソワソワさせる。

●平均通過人員とは何か

 平均通過人員とは、ある路線(区間)において、1キロ当たり1日平均で何人乗っているかを示す統計値だ。鉄道路線はそれぞれ距離が違う。繁忙期も異なる。学生の多い路線は8月にガラ空きになるし、リゾート路線は休日の利用者が増える。このように、環境の異なる路線を評価するため、平均通過人員を計算して統一の基準とする。計算方法は次の通り。

【旅客輸送人キロ】÷【年度内営業キロ】÷【年度内営業日数】

 【旅客輸送人キロ】は、乗車券データをもとに、対象年度1年間の乗客数とその利用区間の積を計算した数値だ。【年度内営業キロ】は、対象年度の営業距離。たいていは路線距離と同じだけど、年度内で一部区間が廃止、または延伸された場合を反映させるため、このような用語となっている。

 【年度内営業日数】もしかり。たいていの路線は365で割ればいい。うるう年は366日。しかし、年度内の途中で開業、廃止する場合があるため、正確な営業日数で計算する。ただし、災害などによる運休区間や運休日は年度内稼働日数に含む。営業日であって営業できなかった日、として統計値に反映させる。統計上の数値が極端に下がるため、注釈が添えられる。

 この数値は鉄道事業法に基づき、鉄道事業者が国土交通省に提出する規則になっている。公告の義務はないため、公開するか否かは鉄道事業者の裁量だ。JR東日本とJR西日本はかねてより積極的に公開している。JR北海道は2016年7月に概要、11月に各線区の詳細を発表した。JR四国も17年5月に公開した。JR東海は在来線と新幹線の総計として発表している。

 もっとも、前述の通り国交省に報告しているから、国交省のWebサイトに掲載される場合もある。現在は14年度のJR全路線が掲載されているけれど、今となっては少し古い数字だ。規則では4月1日から3月31日までの事業実績報告書を5月31日まで(軌道は2カ月以内)に提出するとある。鉄道の存廃や公共性が多方面から論じられる今日、国交省から速やかに公開していただきたい。

 平均通過人員は営業成績ではない。この数値の対象は「旅客の人数」だけで、客単価は反映されない。特急列車が走る路線は人数が少なくても高単価で収入が多い。通学定期利用者が中心の路線は人数が多くても低単価で収入は少ない。貨物列車が走る路線であれば、線路使用料の収入がある。ちなみに貨物列車の路線別輸送量もトンキロで評価される。

 鉄道路線も事業として収益性が重んじられる。しかし公共性が高いから利用率も重要だ。事業体としてはまず収支が問題となり、業績が悪ければ廃止対象。ただし公共性が高い、つまり利用率が高ければ簡単には撤退できない。撤退した場合に企業イメージ低下にもつながる。そこで他の部門の黒字で支える方針をとる。それでも厳しい、限界に達した、となれば、公共性を維持するために地元自治体にご相談となる。赤字を運営補助基金で埋めるか、経営から切り離して自治体主導の第三セクターに切り替えるか。

 現在、日本のほとんどの鉄道路線で、主な目的は旅客事業だ。だから実質的に、平均通過人員が路線の重要度を決めるといっていい。JR九州が平均乗車人員を発表した。これは公共性を維持するためのメッセージと考えるべきだ。

●JR九州の路線別ランキング

 JR九州が発表した数字をもとに、路線別の平均通過人員を並べ替えると、1位は鹿児島本線で、開業当時より1万人以上多い。並行する新幹線の開業にもかかわらず増加とは素晴らしい……と思う。しかしこれは実は数字のマジック。区間は門司港~鹿児島となっているけれども、16年度は八代~川内間が含まれない。九州新幹線開業に伴って並行在来線として切り離され、肥薩おれんじ鉄道になっている。つまり、閑散区間を切り離したため、平均通過人員としては多くなった。博多近郊の通勤客は増えていると思われるけれども、ここまで大きな増加にはならないだろう。

 2位の篠栗線は地元以外の人には耳慣れないかもしれない。もともと石炭輸送のために建設された路線だったけれども、JR九州になってから福岡近郊の通勤路線として整備され、全線電化、博多直通列車を増やした。鹿児島本線~篠栗線~筑豊本線を結ぶルートは「福北ゆたか線」の愛称が与えられた。沿線の宅地開発も進み、通勤特急「かいおう」も走る。JR九州が最も力を入れた通勤路線の1つだ。筑肥線は国鉄時代から福岡市営地下鉄と直通運転を実施。空港直結路線として沿線人口も増えている。

 長崎本線と佐世保線は特急列車の増発効果が現れた。長崎本線の特急かもめ、佐世保線の特急みどりは、かつては博多~肥前山口間を併結運転していた。九州新幹線の開業によって鹿児島本線のダイヤに余裕ができたため、かもめを独立運転に切り替え、新型車両に切り替え運行本数を増やした。佐世保線には特急ハウステンボスを追加投入した。

 豊肥本線の数字が上がっている理由は、熊本地震による不通区間、不通期間を省いているからだ。もちろん営業努力もあるけれども、利用者数が少ない区間を省けば平均は上がる。ここは少し割り引いて捉えるべきだろう。

 こうしてみると、博多近郊路線の乗車人員の増加がよく分かる。電化や特急の増発、特急の割引きっぷの効果もあり、JR九州の営業努力が感じ取れる。

 国交省から発表された14年度の平均通過人員の数値を追加してみると、JR九州発足時から見れば増加している筑肥線、佐世保線、香椎線、大村線については、14年度から見れば減少に転じている。ここはJR九州も実は危機感を持っていると思われる。

 しかし、筑豊本線、久大本線、宮崎空港線、後藤寺線は増加に転じた。筑豊本線は福北ゆたか線としての整備、後藤寺線も新飯塚で筑豊本線に接続する。久大本線は特急ゆふいんの森の効果だろうか。上昇基調だったけれども、現在は大雨災害で不通区間がある。早期復旧を望みたいところ。宮崎空港線は1996年に建設された。JR九州が空港連絡線として戦略的に建設した路線で、順調に利用者を伸ばしているようだ。

 注目すべきところは、発足時以来、大幅に減少した肥薩線、日南線、三角線に観光列車を投入しているところ。最下位の肥薩線はSL人吉のほか、「かわせみ やませみ」「いさぶろう しんぺい」「はやとの風」などを投入している。利用者が減少した路線も、諦めずにてこ入れを図っていく姿勢が見受けられる。ただし、次に利用が少ない吉都線については観光列車投入のうわさもなく、今後が気になるところだ。

●区間別ランキング最下位は廃線危機か?

 次に区間別の平均通過人員を見る。区間の区切りに法的な基準はない。車両基地の配置や折り返し設備の有無など、列車の運用の都合で区切る場合が多いけれども、利用客数が極端に変化する区間で分ける場合もある。区間の決定は鉄道事業者の裁量であり、区間別集計は路線別集計よりJR九州の意図が反映される。

 平均通過人員が最も大きい区間は鹿児島本線の小倉~博多間で、博多、小倉双方の通勤圏として編成や車両の増加などが行われたとみられる。九州新幹線の開業で在来線ダイヤに余裕ができ、博多から南方の区間では普通列車の増発も行われた。また、JR西日本の山陽新幹線に対抗した在来線特急の運行、料金施策の相乗効果もある。次点以下も博多近郊路線が続く。鹿児島や熊本・宮崎近郊区間の伸びにも注目だ。路線全体では減少傾向だった日豊本線や指宿枕崎線も区間別では増加している。

 下位に目を向ければ、指宿枕崎線の指宿~枕崎間、日南線の油津~志布志間など、観光列車から外れた区間の落ち込みは大きい。肥薩線の人吉~吉松間は最下位で、「SL人吉」「かわせみ やませみ」が走らず、「いさぶろう しんぺい」のみになる区間だ。熊本から観光列車を乗り継いで鹿児島へ向かう回遊ルートになるはずが、観光客も人吉で熊本へ折り返してしまうようだ。路線としては増加傾向の筑肥線も末端区間は寂しい。

 ちなみに、不採算路線の整理問題で揺れるJR北海道は、輸送密度(平均通過人員と同義)200人未満は鉄道を廃止しバス転換したいという。200人以上2000人未満は、鉄道として維持するのであれば、上下分離などを含めた施策について沿線自治体と相談したい。4000人以上は単独で維持できるとした。2000人以上4000人未満の線区は少なく、新幹線札幌延伸で並行在来線として分離される函館本線と、道東特急ルートの帯広~釧路間で、当面は維持という考え方となっていた。

 報道によれば、JR九州としてはこの公表によって廃止論議を進めるつもりはないという。しかし、株式公開企業となったいま、企業努力をアピールする必要はある。JR九州は鉄道路線を維持することで地域との信頼関係を築き、その信頼関係が取引先や株主からの信頼につながっている。輸送量の少ない路線に対して、これからどのように取り組むか。地域といかに連携していくか。そのかじ取りに注目だ。

(杉山淳一)