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なぜ大穴は理不尽がいっぱいなのか マンガ『メイドインアビス』の作者つくしあきひと、初インタビュー

8/4(金) 19:10配信

ねとらぼ

 毎夏恒例の日頃会いたいマンガ家さんに会って直接お話を聞くインタビュー企画。5回目となる今回は現在アニメ放送中、竹書房のWebマンガサイト「コミックガンマ」にて連載中の人気マンガ『メイドインアビス』(~6巻、以下続刊)のつくしあきひと先生です!

【つくしあきひと写真&アビス名場面】

 本作は孤児院に暮らす少女・リコと、最大深度不明の謎の大穴「アビス」から見つかった記憶喪失の少年ロボット・レグが、一度深くまで潜れば生きて帰って来られないアビスに挑むハイファンタジー作品。アニメはまだ序盤ですが、7月29日に最新第6巻が発売された原作の物語はさらに深く、さらにハードでドラマティックな展開を見せています。

 今回は作者のつくし先生に、この『メイドインアビス』がどうやって生まれたのか、またレグ、リコ、ナナチといった魅力的なキャラクターたちについて、そして作品に込めた思いなどたっぷりと語っていただきました。なんとインタビューは初! アニメをリアルタイムで追っている人にとっては、この先のストーリーに関するネタバレも含んでいますので、あらかじめご注意ください。

●アニメには「がっつり」関わっています

―― まずはアニメ化おめでとうございます。

 ありがとうございます!

―― アニメは第1話からすごく細かいところまで描かれていて、原作の雰囲気がとてもよく出ていました。つくし先生は、アニメにどれくらい関わっておられるんですか?

 がっつりと(笑)。打ち合わせの時に来たアニメのスタッフさんが「え、そんなところまで」っていうくらい根掘り葉掘り訊かれるんですよ、オースの街の人たちの主食とか燃料とか。

 そうやって訊いてくれることがすごくうれしくて、それまで考えていなかったことも含めて全て考えていきました。原作に忠実どころか、街の風景や家畜とか、見えなかったところまで広げてくれていて。執筆が忙しくて行けないこともあるんですが、アフレコも本当は全部行きたいです。

―― そもそも原作自体がとても丁寧に作りこまれた作品で、これが初めての商業作品と知って驚きました。マンガ家をされる前はゲーム会社で働いていらっしゃったとか。

 専門学校を出た後、コナミにデザイナーとして入ったんですが、最初の3年くらいはモーションを流し込んで調整する仕事をして、その後はインタフェースのデザインを作ってました。

 絵を前面に出して描けるようになったのは5、6年たってからの「Elebits(エレビッツ)」(2006年)で、初めて仕事を任されました。その前には「OZ-オズ-」(2005年)というアクションゲームも作ってましたね。

※「OZ -オズ-」……コナミから2005年に発売された、2人のAIキャラと三位一体となって戦っていく3Dアクションゲーム。

―― ということは、完全にゲーム畑の方だったんですね。そこからマンガ家に転身されるきっかけになったのは?

 10年ゲームの仕事をやって30歳になったときに、急にやばいと思って。元気に動ける時間はあと半分しか残ってないのに、しかもこの時間は加速して過ぎていく。そういう「やれるかも」という時間が半分しかないのは怖いと急に思って、辞めました。

―― 退社されてから本格的にマンガを描く活動をされたんですね。昔からマンガを描いたりされていたんですか?

 これまでノートの端っこにちょっと描いては飽きてやめるっていうことはやってましたが、実はちゃんと完成させたのはアビスから1年前の『スターストリングスより』っていう同人誌が初めてなんです。それを見た当時の担当さんから、Web雑誌『コミックガンマ』を立ち上げるタイミングで声がかかったのが連載のきっかけでした。

●緻密な大穴の世界はなぜ生まれたか

―― ここからは『メイドインアビス』という作品についてうかがいたいのですが、まずどこからこのような物語を着想されたんでしょう?

 1巻の巻末に少し書いたんですが、ちょっと変わった形の仕掛け絵本を同人誌として作ろうと思ってて。

―― 仕掛け、ですか?

 その仕掛けを言うと、完全にこの後の展開になるのですが、言っちゃっていいですか?

―― う~ん……!! 気になって仕方ないですが、楽しみは残しておきたいので我慢します……!

 その仕掛け絵本を作るにあたって、「穴を探窟するという舞台設定と組み合わせたら面白くなるよね」と、今アシスタントをしてくれている高校時代からの友人に話をしたら、「絶対面白いです」と。で、やろうかな、と。

―― 深界七層以上からなる「アビス」の各層の情景、生き物の生態、遺物、謎の奈落文字など、細かい設定に並々ならぬこだわりを感じます。

 舞台が「穴」だけじゃないですか。なので、世界を広げるより、いかに狭いところを中へ中へ、細かく細かく、葉っぱの一枚一枚がどうなっているかまで注意して考えていかないと、たぶんふわふわと地に足がつかなくなって、話が薄くなるんですよ。

 1巻の最初にあるアビスの地図も「まさかこんな地形はないだろう。まあ、ファンタジーだな」って、まず笑いながら描いてから、「でももし本当にあったとしたら、こうなってるのかな」「一体どのくらい前からこういう形になったのか」というのをどんどん描いていくんです。

 みるみる想像が広がっていくのが面白いんですよね。もともとゲームボーイの「ウィザードリィ」で、ワイヤーフレームを見ながら冒険する、文字だけのキャラが一体どんな形をしているのか想像するのが好きだったので。

 アビスが層に分かれているのも理由があって、「魔界村」とか「OZ -オズ-」とか「魔神英雄伝ワタル」とか、まず全体があって、自分が今ここにいるって分かるのは楽しいんですよ。次がどうなっているのか地図で見えていると想像しますよね。あれが好きなんですよ。次にどんな冒険が待っているのか、「銀河鉄道999」の「次の駅は何だろう?」もそうですが、主人公がここにいるって描くと自分でもワクワクします。

―― にしても地図の描き込みを見る限り、ものすごく時間がかかったのでは……。

 湧いてきたので、むちゃくちゃ楽しかったです。


●リコはドラえもん、レグはのび太 ありがたい“招きナナチ”

―― 主人公ってレグなんですね。何となくリコが主人公だと思っていたのですが……。

 仕掛け絵本の時は、1人で穴に潜っていく話だったんですが、その時の主人公の個性を2つに分けたのが今の2人です。絵本の主人公が男だったので、リコも少年性を残した女の子という感じなんですが、そういうのもあって、他の少年たちより前のめりなんです。

 『ドラえもん』で言えば、リコがドラえもん、レグがのび太という感じで。能力的には逆なんですけど、リコはどんな状況でも「こっちに行けばいい」と意思を示してくれるんです。レグはリコがいないと途方に暮れるんですよ。

 最初は第3話のレグが目覚めるところから物語を始めようと考えていたので、レグの視点から物語を描いていこうとしていたんですね。だからレグの方がいわゆる主人公として、読者の感情移入先としていてくれているのかな、と思っています。

 感情移入できる主人公はあんまり男の子のおケツに棒を刺したりしないと思うんですよね。物語はだいたいレグ視点で描いています。

―― キャラクターを語るうえで欠かせないのは、やはり「成れ果て」のナナチですよね。登場してから、ネット上でも作品への注目度が一気に高まったような気がします。

 2巻のオーゼンとのバトルでちょっとだけ話作りに手応えがあったんです。当時、1巻ごとに「いいもの読んだな」と読み応えのあるものを作っていこうという考えが僕の中に大きくて。ただ、3巻では徹頭徹尾悪役の黎明卿・ボンドルドを出すと決めていたので、彼を引き立てるためにナナチが生まれました。

 実は2巻の売れ行きがあまりよくなくて、3巻収録分の途中で「畳み方をどうするか考えなければいけませんね」という話になったんですよ。でもその時にはもうナナチが出てきてたので、この子をめちゃくちゃ面白くしてやろうと思いました。

 その3巻から不思議なほど反響が変わったので、完全に「招きナナチ」ですね。

―― ナナチの魅力は「んなぁー」という口調や見た目といった単なる属性的なかわいさだけではないですよね。抱えている背景がよりキャラクターの魅力を高めているというか……。

 最初「ナナチは死ぬかもしれない」って担当編集さんに言ったんですよ。リコとレグを先に行かせるために、ボンドルドと刺し違えて死ぬだろうと。ただ描き進めていくうちに「案外生きそうだぞ」と。それと「OZ」の経験で、1人より2人、2人より3人の方がより強固な形で支え合えるんだと思ったんですね。「OZ」のパッケージにも「なぜOZは3人なのか?」って書いてあるんですが、このゲームは僕の中で根深いです。


●枠線の手書き、破壊 「マンガってもっと自由だ」

―― 枠線が手書きだったり、画用紙のような紙に描いてあったり、温かみある雰囲気の紙面も印象的です。これはアナログで作画されているんですか?

 いえ、何から何までデジタルです。清書した後、水彩で色を塗るのと同じように濃淡を重ねていって、最後にハイライトを入れます。背景はスキャンした画用紙の模様が入ってます。

―― こういう表現だからマンガとして面白くなったところなどはありますか?

 2巻でレグとオーゼンが戦う時に、オーゼンがレグを踏んづけるシーンがあるんですけど、そこでコマを割ってるんです。

 2話目から実験的にコマを手書きにしていたんですが、そこで初めてやってよかったなあって。マンガってもっと自由だってことをいろんなマンガを読んで知ったので、他にも吹き出しでスピード線をつけたりだとか、不思議なこともやってます。


●危険な生物に上昇負荷 なぜアビスは理不尽なのか

―― 2年半前にこの連載で「一見すると度し難くかわいらしいキャラたちとコミカルな動きに引っ張られがちながら、実はそこに重く存在している生と死のリアリティ」と紹介させてもらいました。その後の冒険でもやはり、作品全体を貫く理不尽さや過酷さ、甘えのなさというのが感じられます。

 そう言われるとうれしいですね。リコってどんどん傷の数が増えてるんですね。どんどん不自由になっている状況なんですけど、目だけは生きているんです。

 命は闇の中においてこそ輝く。どんな弱い光でも真っ暗な中では輝くじゃないですか。リコも地上にいるときはそそっかしいだけの迷惑かけるやつだったけど、穴に入って本領が発揮できてよかった。あの子はアビスオタクと言うか、アビスバカなんで。前人未踏が夢じゃなくなって、たぶん今生まれて一番楽しいんですよ。

―― リコが毒が全身に回らないよう、ひじの関節でなくわざわざ腕の骨を折ってほしいと頼んだシーンは、探窟家としての決意が感じられました。

 「127時間」(2010年)という映画があります。右腕が岩に挟まれ動けなくなった登山家が生還するまでの実話を基にしているんですけど、生命活動の限界が迫った時、彼はなぜか自分の腕を関節で切らなかったんですよ。作品の中で理由は語られなかったんですが、その後彼は義手をつけて再び冒険を始めるんです。

 「そうだよな、冒険をあきらめない奴はわざわざ痛い思いをするんだ」って思って。だから探窟家もみんなそうするだろうと。

―― 深く潜るほど帰るリスクが大きくなる「上昇負荷(アビスの呪い)」という一方通行な概念も、異色の設定ですよね。ゲームっぽい設定が多く見られる「アビス」としては、「死んでも復活できる」逃げ道が用意されそうですが。

 実は、最初は潜っていくと時間の感覚が狂うというだけで、上昇負荷はなかったんですよ。でももっとハードに、危機感があった方が面白いと思って。七層から帰還する負荷に「確実な死」というのを持ってくることで、誰も見たことがない世界が作ることができるので。

―― それにしても七層で確実に死ぬって重すぎないですか……?

 でも言ってみれば、人間は何かの途中で死ぬわけだから。そういう意味でリコは選んだんですよ、ワクワクする自殺を。

―― ワクワクする自殺……!

 そうしないで地上で生きた人はワクワクしない日常を送ることになるんですよ。「行けばよかったかな……」と思いながら死んでいくかもしれない。でもリコは行った。行っちゃうんですよ。

 理不尽が起こらないと面白くないんですよね。理不尽を起こすと、読者も「何が起こるんだ!?」って思いますよね。僕も思ってるんですよ(笑)。作品そのものも後戻りできない中で描いています。

●影響を受けたのは“潜る”ではなく“登る”

―― このインタビューでは恒例ですが、好きな作品、影響を受けた作品などはありますか?

 この作品を作るに当たっては『神々の山嶺』(全5巻/原作・夢枕獏、作画・谷口ジロー)です。

 主人公の羽生は自分のことを「山屋」と言ってるんですが、「山屋は山をやらなかったらただのゴミだ」って言うんです。そこにしか自分の価値を見いだしていない。どんな傷を負っても山をやめようとしないんですよ。

―― 探窟家に通じるものがありますね……。

 ラスボスはエベレストに挑むんですが、めちゃくちゃ面白いです。あとマンガの描き方的には、石黒正数先生の『それでも町は廻っている』(全16巻/少年画報社)は、コマ割りも基本的で、1話完結で、なのに何でこんなに面白いんだろうと。

 僕も当時は浅くしか分かっていなくて、最終巻と一緒に出た本人解説の時系列を見て「何だこれは」と。そのワクワク感が作品からにじみ出ていたんでしょうね。すごく面白かったです。やっぱりワクワクは大事です。

―― 最後に今回のアニメ化をきっかけに原作に触れる読者もたくさんいると思うので、何か見どころなどがありましたら。

 言いたいことは全部マンガに描いてあるんで、それを見てください。それ以外のことはないです。読んで「何だか分かんねえな」って言われたら、僕の負けです。あと、アニメで面白かったら、その続きは原作で読めます。

―― 原作はいよいよ深界六層まで来ましたが、連載は今後どう進んでいくんでしょう?

 困難はまだまだあります。結局リコたちは人間なので、老衰であれ何であれいずれは「終わり」を迎えるわけですよ。どうやって終わるのか……。楽しみじゃないですか?(笑)

●『メイドインアビス』関連リンク

・まんがライフWIN 連載ページ
・『メイドインアビス』書籍紹介サイト
・アニメ「メイドインアビス」公式サイト

最終更新:8/4(金) 19:10
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