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子連れで楽しめない日本の映画館 鑑賞マナーの「悪い」マレーシアから考える

8/5(土) 7:10配信

ZUU online

『怪盗グルー』シリーズ最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』が7月21日公開され、初日を含む3日間の動員数は60万5748人、興収は7億5101万円で22日~23日の映画ランキング首位を飾る好調なスタートをきった。

その週の2位以下は、『銀魂』(公開2週目)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(同4週目)、『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』(同2週目)、『カーズ/クロスロード』(同2週目)である。多くの小・中学校が夏休みに入ったということもあり、主に子供をターゲットにした作品が名を連ねている印象だ。

この数字を見れば、日本も他の国と変わらず子供が映画を楽しめる国のように感じるが、残念ながらそれは違う。夏休みや冬休みといった長期休みを狙って上映される作品がある時は別として、日本の映画館は小さい子供が入り込めないクローズドな雰囲気がある。それは本当にいいことなのだろうか--。

今日は映画制作会社で長く働いた経験を持ち、現在はマレーシアに住む筆者が、当地と比較しながら日本の映画事情を考えたいと思う。

■チケットの価格--他国と比較しても割高

日本の映画チケットの料金は他国と比較しても割高だ。NationMasterの調べによれば、世界5位(なお1位はサウジアラビアの60ドル)。一般で1800円、前売り券、レディースデー割引、深夜料金、映画の日の割引を使っても1000円程度にしかならない。

筆者はアメリカ、カナダ、オーストラリア、マレーシアを渡り歩いてきたが、アメリカなら約6ドル(約670円)、カナダが約13ドル(約1160円)、オーストラリアが約13ドル(約1150円)、マレーシアに至っては約10リンギ(260円)と、マクドナルドのセットより安いのだ。

■チケット価格に比例するモラルとマナー

観客や映画館の関係者のモラルやマナーは値段に比例しているといっても過言ではないだろう。1800円支払い、パンフレットやポップコーン、ソフトドリンクを買う。1本見るだけで3000円超えてしまう日本では、映画は単なる娯楽ではない。

劇場にやってくるのは「遅かれ早かれテレビ画面でも見れる作品に大金叩いてやってくるこだわりの芸術愛好者」だ。ヒソヒソ声や子供の甲高い「これな~に~?」、赤ちゃんの鳴き声など迷惑以外のなにものでもないだろう。子連れはそれを理解しているから、どうしても見せたいものがあったとしても二の足を踏んでしまう。子供の日常生活や集中力を考え「この子にはまだ早い」と判断し、映画ファン、いや映画館ファンになる機会を遅らせてしまうのだ。

ではチケット料金がひときわ安いマレーシアではどうだろう。勘のいい読者はお分かりだろうが、日本の映画ファンなら信じられないくらいマナーが悪いのだ。観客だけではない、映画館のスタッフのマナーも驚くほど悪い。

■「エンジョイ・ザ・ムービー」の意図するものとは

まず場内の掃除が行き届いておらず、シートがソフトドリンクの糖分でベトベトしていたり、キャラメルポップコーンが足元に落ちてたりするのはザラだ。100歩譲って、それらは殺菌シートで拭いたり捨てたりすればいい。

耐えられないのは映画のクライマックスで、スタッフがスクリーン下の出入り口ドアを思い切り開けてしまうことだろう。外部から差し込む眩い光のせいで全く集中できない。これを初めて経験した時、筆者は緊急脱出命令でも出たのかと慌てた。しかし周囲は気にせず映画を鑑賞していたため、これがマレーシアの映画館における通常運転なのだと理解した。

出入り口がスクリーン下にない場合はこの「嫌がらせ」を受けずに済むが、これだけでは終わらない。画面がエンドクレジットに切り替わるや否や電気がつけられ、清掃スタッフがゴミ袋を持って通路にスタンバイ、もしくは早々に掃除を始めてしまう。映画の余韻を楽しむ余裕は一切与えられないのだ。

スタッフは会場前に「エンジョイ・ザ・ムービー」と送り出してくれる。しかし、そこに込められた言葉は「本編だけ楽しんでとっとと帰って」に他ならない。日本のように劇場が暗転する瞬間から、エンドクレジットが終わるまで余韻も含めて楽しんでほしいという精神はない。

■理想は「エブリバディ・エンジョイ・ザ・ムービー」

これらから分かるように、マレーシアでは映画館のスタッフも観客も映画観賞を特別なことととらえていない。

公開と同時に当たり前のように家族みんなで劇場に行く。『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の公開時には、先行公開のレイトショーでコスプレした幼い子供を何人も見かけた。日本なら「小さい子供を寝かさずに何をしている」と注意する人がいてもおかしくないだろう。だが、誰も気にしないのだ。

マナーは悪い。会場が暗くなってもスマホの画面が光っている、大声で喋る、子供は歩き回る。しかし、今の筆者はそれが決して心地悪くない。

それは、年齢に関わらずその場にいる全員から「映画が好き」とういエネルギーが発せられているからだろう。言葉を理解できないような赤ちゃんの頃から映画館に通っていた子供は当たり前のように映画好きな大人に成長し、その魅力を後世に伝えるようになる。面白ければ声を出して笑い、あまりにも可笑しければ横の人にも話しかける。日本未公開だがドリーム・ワークスの『ボス・ベイビー』では、面白さのあまりに途中から会場が一体化して爆笑した。

■日本の映画館は大人だけのものか 子供も気兼ねなく見れるようになるには

筆者はマレーシアで4歳の息子を育てており、週一というハイペースで映画に連れて行く。実写/アニメに関わらずPG-13程度なら、息子の耐性を考慮しつつ見せてしまう。社会現象になった『シン・ゴジラ』は劇場で2回観せた。

その後、帰国の飛行機の中で再び見せたが大画面の臨場感には程遠いシネマエクスペリエンスだったのか、早々に見るのをやめてしまった。機内という特殊な状況のため一概には言えないが、これは「大画面で観ることに意味がある」を幼いながらも息子が理解していることになるのではないか、と筆者は思う。

ではマナーを重んじる日本でも気兼ねなく子供が映画を楽しめ、後のシネフィルを生むにはどうしたらいいのか。

筆者の考えはこうだ。まず映画館の絶対数を増やす。そして新作だけでなく、G、PG、PG-13の作品を常に低価格でリバイバル上映するのだ。市民ホールのような施設ではなく、本物の映画館に足を運び、あのシートに座らせる。子供がいるだけで気分が萎えるというマナー重視の映画ファンは多い。

しかし、テーブルマナーもそうであるように、映画マナーも数をこなさなければ身につかないのだ。

暗闇が苦手な子供ように劇場を薄暗くし、温度を適温に設定するなどの工夫がされているチャイルド・フレンドリーな映画館は都市部に何カ所かあるが数はまだ少ない。また、月に何度かキッズフレンドリー・デイを設ける映画館もあるようだが、大々的に告知しているわけでなく、情報も入りにくい。せっかくの機会を、知るチャンスもないまま逃している人は多いのではないだろうか。

映画は子供、大人に関わらずすべての人の娯楽だ。映画館には当たり前のように子供の姿があってしかるべきだと筆者は思う。一般の劇場で常に低価格でリバイバル上映、というのは夢物語かもしれない。

しかし、他国並みに映画を生活に根付かせたいのなら、ファミリー層をターゲットにした映画館作りや雰囲気作りが必要不可欠だと筆者は言いたい。(中川真知子、フリーライター)

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最終更新:8/5(土) 7:10
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