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「性の多様性と軍隊」って? トランプ大統領のTwitterに思う ◇アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(2)

8/5(土) 10:00配信

琉球新報

 2017年4月、沖縄からアメリカの首都ワシントンD.C.近郊に移り住んで、約4カ月がたちました。学生時代の留学から数えるとちょうど20年ぶりのアメリカ暮らし。今のアメリカに目を白黒させながら、毎日過ごしています。

 ここでは、新聞の記事だけでは書ききれない日々のこぼれ話や、うちなーんちゅ特派員が見た「アメリカの空気」を、お伝えできればと思います。

(ワシントン特派員・座波幸代)


 

レインボーカラーとワシントンD.C.
 6月はLGBT(同性愛者のレズビアンやゲイ、両性愛者のバイセクシュアル、トランスジェンダーなどのセクシュアル・マイノリティの総称)のPride月間として、全米各地でさまざまなイベントが行われました(最近は、LGBTに、Q=Questioning:自身の性自認や性的指向が定まっていない人、Queer:クィアを加え、LGBTQと呼ぶことが多いようです)。

 さすが、アメリカ!と思うことが多々あったワシントンD.C.でのパレードの様子などをご紹介しようと思いつつ、あっという間に7月も終わりに近付き、焦っていた矢先、トランプ大統領が7月26日(水)朝、突然(いつものことですが)、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人が米軍で働くことを禁ずるという発表をTwitterで流しました。

関連記事:トランプ大統領、トランスジェンダーの米軍入隊を禁止へ 訴訟の恐れも ― ニューズウィーク日本版

 Twitterの内容はこうです。

「軍の幹部や軍事専門家と話し合った結果、トランスジェンダーが米軍で働くことを認めないことにした。われわれの軍は、勝利を収めることに集中すべきであり、トランスジェンダーを軍に受け入れることで起こり得る、多額の医療費や混乱などの負担は受け入れられない」。

 

オバマ政権で進んだ「性の多様性」への取り組み
 軍隊とトランスジェンダー、というトピック自体に、日本では驚きがあるかもしれませんが、実は、オバマ政権時に、性的指向や性自認に基づく米軍内の障壁をなくす動きが広がっていたそうです。

 国防総省も6月のPride月間に、軍隊内の性の多様性を祝い、今年で6回目のセレモニーを開催。国防総省の高官をはじめ、アジア系アメリカ人として初のオープンリーゲイ(ゲイであることを公表している)米連邦議会議員となったマーク・タカノ米下院議員(カリフォルニア州選出)があいさつし、陸軍で初めてのオープンリーゲイの女性少将や、国防総省の最初のトランスジェンダーの副補佐官が表彰されました。

 


 国防総省(ペンタゴン)で開かれたPride月間のセレモニー。
 レズビアンやトランスジェンダーをカミングアウトして働く軍人、シビリアンが表彰されました。
 レインボーカラーのカップケーキもありました。



 「ダイバーシティー(多様性)は我々の軍をより強くする」「歴史的にもさまざまな障壁があったが、同性のパートナーと共に、こうやってみんなでPride月間を祝うことができる。これこそ、アメリカのチェンジだ」「1人1人の努力が肌の色やジェンダーに関わらず、評価されるべき」「Be who you are(ありのままのあなたで)」という印象的な言葉が続きました。

 トランプ大統領の突然の発表は、オバマ前政権の取り組みに逆行するだけでなく、国防総省や米軍内と調整されたものではなかったため、またしても混乱を引き起こしました。米主要メディアはこぞって報道。民主党の議員や人権団体などはこの内容を批判し、ツイッターでは、#LGBTQ #HumanRights #TransRightsAreHumanRights などのタグで、トランプ大統領のツイートに抗議する投稿がじゃんじゃん流れました。軍事専門サイトなどでも、従軍中のトランスジェンダーの人々が「不安だ」と声を挙げるインタビューを続々と載せていました。

 

医療コストとバイアグラ!?
 国防総省系のシンクタンク、ランド研究所の報告書によると、現在、軍の現役兵士に約2500人、予備兵に約1500人のトランスジェンダーがいるとのこと。別の調査では、軍隊内のトランスジェンダーは、15000人とも言われています。

 ワシントン・ポスト紙は、性別適合手術の術後ケアなどに伴う医療コストは最大で年840万ドル(約9億円)で、この金額は昨年の米軍全体の医療費62億ドル(約6896億円)の0.13%と指摘。一方で、「米軍は男性機能不全(ED)治療薬バイアグラの購入に、5倍近い4160万ドル(約46億円)を費やしている」と報じ、トランスジェンダーが「巨額の医療コストをもたらす」とのトランプ氏の主張に疑義を呈しました。(軍のためのバイアグラの購入に米国民の税金が使われているということも、驚きです。)

 大統領の突然の「Twitter発表」に、市民もすぐに反応し、その日の夕方には、ホワイトハウス前で抗議デモが行われました。

 

そして、市民は動いた
 デモを企画したのは、チェルシー・アルバートソンさん。インディアナ州からたまたま観光でD.C.に訪れていたところ、トランプ大統領の発表を知りました。「とにかく怒り、憤りを感じました。彼のTwitterはただの投稿ではない。明らかな差別だし、ヘイトスピーチを助長するもの。私は活動家でもないし、何かの団体に所属しているわけではないけど、何か自分にできることをと考えました」と話してくれました。

 チェルシーさんはMeet Upという共通の関心を持つ人をつなぐネットのサービスで「午後7時にホワイトハウス前に集まり、トランプ大統領に抗議しよう」というイベントを企画しました。フェイスブックでも告知したところ、あっという間にシェアが広がり、150人近くの人が集まりました。

 「トランスジェンダーの入隊を禁ずるのは、人権問題だ」と声を挙げる人々の姿を前に、チェルシーさんは「興奮で震えている。これこそ、アメリカだと思う」と話しました。

 「GAY VET SUPPORTING TRANS RIGHTS (ゲイの退役軍人もトランスジェンダーの権利を支持します)」と書かれたプラカードを持って、いち早くホワイトハウス前に足を運んだチャージャー・ストーンさん。1998年から2005年まで海兵隊に勤務。2001年には半年ほど、沖縄のキャンプ・シュワブにいたこともあるそうです。

 ニュースを聞き、「これは明らかに差別だ。男性、女性、トランスジェンダー、それぞれである前に、私たちは市民だ。自分自身も海兵隊に勤務しながら、クローゼットの中に隠れていた(ゲイであることをカミングアウトしていない)時期があった。『トランスジェンダーだから、あなたは必要ではない、国のために働くこと、戦うことはできない』と思わせるのは間違っている。みな平等だ」と話してくれました。

 

変化への期待、そして「愛国心」への違和感
 デモの様子を見ながら、あるシンポジウムの登壇者の言葉を思い出しました。いつもは軍事や安全保障関係のシンポジウムを開催することが多い、戦略国際問題研究所(CSIS)というシンクタンクは5月、LGBTQの権利と経済、安全保障というテーマでシンポジウムを開きました。世界銀行の職場内での性の多様性の尊重や、タイ、ケニヤなど各国でのLGBTQの人権の状況などの報告がありました。その登壇者の一人、米陸軍の元秘書官でゲイのアレックス・ワグナーさんに、シンポ終了後、声を掛けてみました。

 沖縄の基地問題などを取材しにワシントンに来ていると自己紹介し、「軍隊って、すごくマッチョで、すごくジェンダーロールを気にしている組織だと思っていました。『男らしく』あるべきみたいな。でも性の多様性も広がっているんですね。ビックリしました」と話すと、ワグナーさんはこう答えてくれました。

「軍は今でも、もちろんすごくマッチョな組織ですよ。でも、だからこそ、オバマ大統領がくれたチャンスのおかげで、自分も秘書官というポストに就き、職場内の性の多様性の取り組みを進めることができた。『3歩進んで2歩下がる』ということが多いけど、それでも少しずつ歩みを進めることが大事だと思います」

 ダイバーシティ(多様性)こそ、お互いの違いを認め、尊重し合い、1人1人が自分らしく生きる社会への大事な認識だと思います。トランスジェンダーと軍の問題をはじめ、LGBTQの人権について社会の認識が進んでいるアメリカはすごいと思いますし、軍隊がマッチョな組織だからこそ、性の多様性への理解と取り組みが広がることによって変化が起こるかもしれない、という期待も感じました。

 その一方で、国のために戦う「愛国心」の象徴として、アメリカでは尊敬されて当然とされる軍の姿と、沖縄から見える軍や兵士、基地の存在とのギャップを感じずにはいられません。「戦闘」のための訓練を日常とする軍隊と、軍産複合体によって政治が動くこの国へのざらざらとした違和感。女も男も、レズビアンもゲイも、トランスジェンダーも、戦場では「平等に勇敢に戦う権利」を主張する雰囲気に、いまいち乗りきれない自分もいました。

 もやっとした思いを抱え、Twitterを何気に開くと、こんなツイートに目がとまりました。

「トランスジェンダーの人権も大事だけど、米軍が参加する世界各地の紛争のせいで、命を落としている罪もない人々の人権は考えないの?」

 この国の軍の存在はすごく巨大で、複雑で、根深い。だからこそ、多様な視点で物事を見つめ、考え、伝え合うことが大事なのだと、あらためて思いました。

 


 座波幸代(ざは・ゆきよ)  政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。

 

琉球新報社

最終更新:8/5(土) 10:00
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