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人気モデルの「世界○カ国で先行販売」に日本が入らない理由

8/5(土) 6:25配信

ITmedia PC USER

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

 ワールドワイドで展開している製品では、まずある国や地域で発売し、そこが一段落したら別の国や地域で発売するという、販売地域を徐々に広げていくスタイルがよく見受けられる。いわゆる「先行販売」というやつだ。

 先行販売の対象として挙げられた国名の中に自分の国があれば大喜び、そうでなければ地団駄(じだんだ)を踏みつつ次の発表時に自分の国の名前があるよう祈るという図式は、もはや世界的におなじみだ(恐らく)。

 この「世界○カ国で先行販売」、元はと言えば製品の生産数に一定の限界があり、世界同時に発売するのが難しいことが発端となって生まれた販売スタイルと言ってよいだろう。しかし実際には理由はこれ1つではなく、メーカーにとって都合のよい複数の理由が積み重なって、初めて先行販売という販売スタイルが成立するに至っている。

 中には消費者の側からは見えない、驚くような理由が関係していることもある。具体的にどんな理由があるのか、詳しく見ていくことにしよう。

●先行販売=「需要が一巡するまでほかでは売れない」

 コンシューマー向けの製品、特に人気のスマートフォンやゲーム機については、部品の調達などの関係もあって生産数は限られており、一気に全体に行き渡らせることは不可能だ。この辺りのいきさつについては、以前紹介した「人気スマホ、ゲーム機……発売日に潤沢な在庫がないのはなぜ?」をお読みいただきたいが、メーカーにとってはどれだけ品薄商法と揶揄(やゆ)されようが、まとめて作れないものは作れない。

 それゆえ「世界○カ国で先行販売」という手法が脚光を浴びるわけだが、ここで考慮しておかなくてはいけないのが、リピートオーダーぶんの需要だ。

 例えばある国(A国とする)で10万台の初回注文があり、先行販売ぶんを割り当てるとする。ではその10万台をA国に割り当てたら、ハイお次は隣のB国、とばかりにスパッとターゲットを切り替え、A国は当面放置してよいかというとそうではない。というのも、A国は早々に10万台を売り切り、次のオーダーをかけてくるからだ。

 先行販売したA国では、その製品の店頭デモ機や関連ソフトウェアも含めて売場ががっちり完成してしまっており、そこに長期的に欠品状態が続くのは責任問題になる。

 まだ発売に至っていないB国やC国、D国の消費者からすると、もう10万台も売ったのだからA国はいいだろう、早くこっちにモノをよこせという気持ちだろうが、既に存在する売場に穴を空けることはイコール販売機会の損失であり、そうした事態を引き起こしたメーカーは激しく非難される。よってメーカーはまだ売場ができていないB国やC国、D国よりも、しばらくはA国を優先せざるを得ない。

 これについては「先行販売」という言葉の解釈が、消費者側とメーカー側で若干ズレがある点も指摘しておいたほうがよいだろう。

 一般的に先行販売と聞くと「まずはA国でお先に売りますね、次はB国なので待っていてくださいね」というシンプルなニュアンスに受け取りがちだが、実際には「A国で需要が一巡するまではほかの国では売れません、さらにその後もA国は優先しますのであしからず」というニュアンスのほうが実態に近い。

●未発売の国や地域で売るはずだった在庫を転用して欠品を防ぐ

 こうした実態を踏まえたうえで、メーカーにとって先行販売の最大の利点と言えるのは、万が一ニーズを読み間違えて先行販売の国で予想を上回るバックオーダーを抱えてしまっても、次の国で売るはずだったロットを割り当てられる、ということに尽きる。具体的に説明しよう。

 もし世界同時発売で、予想を上回るバックオーダーが発生した場合、世界中のどこを探しても在庫はないので、解決策は「待ってもらう」の一択しかなくなる。しかし特定の国だけ先行発売し、その結果としてバックオーダーが発生したのであれば、「待ってもらう」以外に、「未発売の国や地域で売るはずだった在庫を持ってきて欠品の穴を埋める」という第二の選択肢が生まれる。

 この第二の選択肢では、発売が延期になったことで未発売の国のユーザーから不満の声は上がるだろうが、量販店に売場ができる前であれば、少なくとも責任問題うんぬんのトラブルは避けられる。つまり国ごとに発売時期が異なることを、欠品を長引かせないためのバッファとして活用するわけである。

 このことこそが、先行販売と称してまず特定の国で発売し、その後時期をずらしながら別の国や地域で販売を行うシステムの、最大のメリットと言ってよい。過去の例で言うと、Appleが2010年に初代「iPad」を発売した際、生産が追い付かないとの理由で米国以外の発売スケジュールを1カ月延ばしたことがあったが、まさにこのパターンである。

 こうして見ていくと、先行販売の対極にある「世界同時発売」というスタイルがどれだけ難度が高いか、よくお分かりいただけると思う。

 少しでも在庫が足りないとクレームやバッシングが世界規模で同時多発的に発生するわけで、メーカーにとってこんなに恐ろしいことはない。その点、特定の国や地域に絞って先行発売してから徐々に流通ルートを広げていく販売方式であれば、局地的に火の手は上がっても全世界の窓口が一斉にパンクする確率は低いというわけだ。

●品質にうるさくローカライズも面倒な日本は先行販売に向かない?

 この他にも、先行販売システムのメリットは幾つかある。前述の在庫転用による欠品調整ほどのウェイトは高くないが、どれもメーカー側にとっては切実な理由だ。まとめて挙げておこう。

 1つは、特定の国や地域に絞ることで、物流コストが圧縮できることだ。どれだけ大量のオーダーが入っていようが、メーカーにとってその製品が本当にヒットするかは不確定要素が大きく(量販店が盛り上がって大量注文しているだけで消費者は全く盛り上がっていない可能性もある)、なるべく局地的に売っておいた方が大事故にはなりにくい。

 万一製品のロット不良などが発生した場合も、回収や交換などの対応を迅速に行うには、地域は限定されていたほうが対応が容易になる。

 また先行販売によって世界各国に順番に投入していくことで、ローカライズも優先順位を付けて行うことが可能になる。

 最近はワールドワイドに展開する製品は多言語のメニューを持っていることが普通だが、まだ内容がFIXしていない状態で多言語化を行うのと、発売後の指摘なども取り入れて1つの言語が完全FIXした状態で多言語化を行うのとでは、後者の方がたやすいし、費用も抑えられる。先行販売で最初に展開する国を決めてしまえば、こうしたことも可能になるというわけだ。

 そしてもう1つ、先行販売システムでは、製品の販売ノウハウが得られやすいという理由もある。先に発売した国での反響を見て製品の仕様やソフトウェアを改良し、後発の国で投入することが可能になるので、後から発売する国でのクレームを最小限に抑えられるというわけだ。

 この場合における日本の扱いは、2通りのパターンがある。日本は品質に非常に厳しいがゆえに、最初に日本で発売してクオリティーを高めた後に全世界で投入した方が効率的にとする見方もあるし、それとは全く逆に、いちいち品質にうるさい日本は後回しにしてまずは現段階のものを世界的に流通させ、優れた製品であるという世論を先に作り上げてから日本に持ち込んだ方が受け入れられやすいという見方もある。

 このどちらが正解かは議論のあるところだが、昨今ますます一般的になりつつあるクラウドファンディングのように「まずは世に出すことが第一」という考え方が徐々に浸透し始めると、品質にうるさくローカライズも面倒な日本は先行販売に向かないとして後回しにされるケースは、今後増えることはあっても、減ることは少ないだろう。

 今はまだ一定の市場規模が見込めることで踏みとどまってはいるが、日本のユーザーにとってはお先はあまり明るくない状況と言えそうだ。

最終更新:8/5(土) 6:25
ITmedia PC USER