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希望者続々、愛知・尾州織物の中小企業 織機「ションヘル」に魅了される若者たち

8/5(土) 14:28配信

日刊工業新聞電子版

■人材募集なし、なぜ後を絶たないのか

 若者が集う機屋(はたや)―。全国でも有数の毛織物産地、愛知県尾州地域にある葛利(くずり)毛織工業(愛知県一宮市、葛谷幸男社長)には、働き手の高齢化が深刻化する産地にあって若者が続々と集まる。全従業員21人のうち、20―30代はここ2年で3人増え4人になった。2018年春にはさらに20代の2人が加わる予定だ。現場では「ションヘル」と呼ばれる業界でも希少となった織機の扱い方を習得しようと、若者たちが奮闘している。

 「このへんじゃ40代でも若手ですよ」。葛谷聰専務がこう苦笑するほど尾州の織物産業の高齢化問題は深刻化している。葛利毛織でも最高齢は83歳だ。そんな産地にあって、なぜ最近、若者が集まってくるのか。

 同社はテーラー向けのスーツ地などを手がけ、業界では知らない者はいないという存在。低速織機であるションヘルならではの、ふわっとした独特な風合いにファンも多い。天皇陛下が着用されたり、著名人が着るスーツなどの生地にもよく使われる。

 「募集はしていないのに」(葛谷専務)という同社に若者が集まる呼び水となっているのが工場見学。希望者は拒まず、生地づくり同様、丁寧な対応を心がけてきた。それが若者の心をつかんだ。

 入社2年目の石田琢也さん(33)も工場見学で入社を決めた1人。「ションヘルが活発に動いている様子、働いている人の様子に惹(ひ)かれた」という。募集していないと知りつつ、「ここで働きたい」と頼み込んだほどだ。

 若者が門戸を叩(たた)く同社。「零細だから増えると困る」(同)とうれしい悲鳴をあげつつも、この現象を産地活性化に生かそうと考えている。葛利毛織で育った若者を、人手に困る地域の他の機屋に派遣できたら―。

 織機は種類により必要な技能も異なる。ションヘルを操り、他の現場で高速織機などの扱い方を学ぶことは本人にとっても成長の機会となる。「うちで学び、独り立ちする人も出てくるかもしれない」。若者が横糸となって全国の産地の未来を紡ぐ。葛谷専務は尾州織物の担い手の成長に胸を膨らませる。