ここから本文です

見直しなるか、金融規制改革法 中小企業への融資拡大が主眼

8/6(日) 11:15配信

産経新聞

 「短期で調達した資金を中長期で企業や個人に貸す」

 預貸業務を生業とする銀行の商売をかいつまんで言うとこうなる。中長期金利と短期金利の差がもうけ(利ざや)となる。

 実はこの利ざや、昨年の米大統領選時点とほぼ同じ水準にある。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ姿勢を見せているので短期金利は上昇したのだが、中長期金利の上昇幅が同程度にとどまっているのだ。

 X軸に期間、Y軸に金利というグラフを頭の中で描くと分かりやすい。足元の金利曲線は大統領選前から上方に移動したが、勾配は緩やかなままなのだ。

 「中長期にわたって米国は低インフレ、低成長にとどまる」。債券市場がこう見込んでいるのである。銀行経営にとっては芳しくない環境だ。

 にもかかわらず、米国では銀行株が堅調である。大統領選の投票日だった昨年11月8日を基点にすると、米銀株で構成される銀行株指数は約29%上げた。代表的な株式指数であるS&P500種を13ポイントも上回る。

 理由は何か? 銀行を取り巻く規制の緩和が期待されているのである。

 不祥事続きのトランプ政権は、選挙前に公約した経済政策が尻すぼみ。輸出入の税控除を調整する「税の国境調整」は見送りが決まったし、医療保険制度改革(オバマケア)改廃はなかなか進行しない。

 だが、地味ながら、前進している政策がある。金融危機を受けて2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の見直しである。

 ドッド・フランク法は信用不安対策の法律である。金融安定監視会議(FSOC)と呼ばれる総合的な監督機関を定め、「金融システムの観点から重要な金融機関(SIFI)」と呼ばれる巨大銀行には資本を厚めに積ませる。

 銀行の業務面では自己勘定取引を規制した「ボルカー・ルール」。金融機関を粛々と清算する手続きの「リビング・ウィル」を定め、消費者保護という観点からは米消費者金融保護局(CFPB)を設置した。

 そのボリュームは2300枚。「二度と銀行を連鎖破綻させない」という決意を感じさせる大法典なのだが、複雑な規制当局の仕組みを温存したこともあり、細部にうがちすぎて、「銀行の法令順守費用がかさみすぎる」という批判が出ていた。

 金融危機から米銀の融資額は25%ほど回復しているのだが、これはITバブル崩壊など他の不況後と比べると、半分の回復速度。住宅ローンの場合、平均的な借り手は15年前の半額程度しか借りられない。

 大手企業向けの融資は危機のあった08年から5割ほど増えているのだが、新しい雇用の6割を生む中小企業向けは5%ほど減っている。

 中小企業への「金回りの悪さ」の原因の一つが、ドッド・フランク法とされる。銀行が大企業に比べてリスクの高い借り手への融資を絞っているのだ。

 中小・零細企業への貸し出しが事業の中核をなす米信用金庫・組合の法令順守費用は、税引き後利益の4分の1を占める。「角を矯(た)めて(安全性を求めて)、牛(経済)を殺す」ほどではないが、「角を矯めて、牛が痛がっている」状態なのだ。

 だからこそ、トランプ大統領は2月、銀行、資本市場、資産運用、技術革新といった4分野で金融規制を再考する大統領令に署名した。事実上の「ドッド・フランク法の見直し」命令である。

 その後、米財務省が第一弾の報告書を発表し、約100項目にわたる銀行規制の見直しを求め、銀行監督を担うFRB副議長には規制緩和主義者が任命された。通過する可能性は低いが、米議会でも共和党議員が提出した独自の「ドッド・フランク法改正案」が審議されている。

 「(正確な決算書を作成するための社内体制整備と外部監査を厳格に義務づけた)内部統制ルールが中小上場企業の負担になる」とした06~07年の議論と今回の「ドッド・フランク法の見直し」論は、重なる部分がある。

 共和党案に比べて、財務省案の方が現実的だ。FSOC、CFPBのあり方など対立点は残っているが、「中小企業への融資を伸ばす」という点でトランプ政権と与野党の見解は一致している。

 前評判に反して、大型の経済政策の中では「ドッド・フランク法の見直し」が、公約達成の第一号となる可能性が出てきた。(ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)

最終更新:8/6(日) 11:15
産経新聞