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【漢字トリビア】「峰」の成り立ち物語

8/6(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「峰」。「最高峰」「霊峰」の「ホウ」とも読む漢字です。八月十一日は国民の祝日のひとつ、「山の日」。山に感謝し、山に親しむ一日です。

「峰」という字は山へんに「ホウ」と読む字を書きます。
「ホウ」はまず「冬」という字の上半分を書きます。
これはつま先を下に向けた足の形を表したもので、そこから「くだる・おりる」という意味を示します。
さらに「冬」という字の下半分、ふたつの点のかわりに書くのは、漢数字の「三」にそれを貫く縦一本の線。
これは上に伸びた木の枝の形。
神がおりてきてよりつく場所を意味しています。
「峰」という漢字は、そのような依り代となる木のある山の様子を表したもの。
「やま」そのものや「やまのみね」「やまのいただき」を意味します。

いにしえの人々は、自然界のあらゆる事物に神が宿ると考えていました。
中でも目の前にどっしりとかまえてそびえる山は、自分たちの暮らしを静かに見守り、豊かな恵みを与えてくれる存在。
人が亡くなると、その霊魂は一番近くにある山の上へとのぼり、やがて山の神になるという言い伝えもありました。
山の峰を見上げ、手をあわせているだけで心が鎮まるのはそのせいでしょうか。

子どもたちにとって、山は自然の法則を体感する学びの場。
花や木の実を見つけ、水の冷たさに触れ、小さないきものの命と戯れる。
山で過ごす時間は、素朴な喜びや興奮を連れてくるだけではありません。
動物の亡骸を見つければ、胸を痛め、悲しみを抱く。
激しい川の流れや急な天気の変化を恐ろしいと感じる。
感情を大きくゆさぶる体験は、子どもの心を力強くたがやし、からだを鍛えるのです。

ではここで、もう一度「峰」という字を感じてみてください。

アイゼンをつけて雪渓にのぞみ、クサリを伝って一枚岩を下る。
急なガレ場をジグザグと登れば、いきなり開ける大パノラマ。
青空に映える緑の峰から、苦労を吹き飛ばすすがすがしい風が吹いてきます。
そんな夏山の大冒険には縁がない、というあなた。
冒険家の植村直己は自らの偉業を称えられるたびに、こう語ったといいます。
「みんなそれぞれが、何か新しいことをやる。それはすべて冒険だと、ぼくは思うんです。」
日々、新たな挑戦のその先に、美しい夏の峰が広がりますように。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『植村直己、挑戦を語る』(文藝春秋/編 文春新書)
『日本百名山ベストプランBOOK』(JTBパブリッシング)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年8月5日放送より)

最終更新:8/6(日) 11:30
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