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健さんがいた駅戻らない/九州豪雨1カ月リポ(中)

8/6(日) 9:54配信

日刊スポーツ

 福岡、大分両県で36人が死亡するなど甚大な被害が生じた九州北部の豪雨は5日、発生から1カ月となった。両県の県境の山あいを縫うように北上するJR日田彦山線は、一部で運休が続いている。

【写真】鉄道ファンの撮影ポイントとしても知られるJR日田彦山線の栗木野橋梁。運転再開のめどは立っていない

 かつて、俳優の故高倉健さんの父親が勤めたことで知られる宝珠山炭鉱の近くに、同線の大行司(だいぎょうじ)駅(福岡県東峰村)がある。高倉さんも幼少時に利用していた。08年にJRから村に譲渡されるまでは、主演映画「幸せの黄色いハンカチ」にちなんだハンカチが何百枚もたなびいていた。

 1946年(昭21)に建てられた築70年のレトロな駅舎は、今回の豪雨による土砂崩れで倒壊。77段の階段を上った高台のホームには、3両編成のディーゼル車が止まったままだ。

 近くで生まれ育った井上佳子さん(49)が13年から駅舎を借り上げ、喫茶店「匙加減(さじかげん)」を開業。「健さんが出てきそう」と評判だった古い駅舎の雰囲気を生かし、アンティークのテーブルを入れ、食材は地元の農作物、食器は地元の小石原焼を使った。地域の住民のよりどころとして愛され、評判を聞きつけた客が県外からも通うようになった。

 豪雨があった先月5日も、10人近い予約客に昼食を提供していた。外では「バケツで掛けられるような勢いの雨が続いていた」という。列車が止まったため、客をタクシーで久大本線日田駅まで送り、午後2時半に閉店。午後9時過ぎ、線路の上から斜面が崩れ、土砂が駅舎をなぎ倒した。営業時間外で、誰もいなかったことが救いだった。

 常連客からは、「どんな形でも復活してほしい」と励ましを受ける。しかし、駅舎は村の所有。「再建しても、(昔懐かしい)建物は戻らない」と井上さん。まだ、先のことは考えられない。「今は、来てくれたお客さん1人1人に感謝の気持ちをお伝えしたい」と話した。【清水優】

 ◆JR日田彦山線(ひたひこさんせん)北九州市の日豊本線城野駅から大分県日田市の久大本線夜明駅まで、山あいの68・7キロを結ぶ単線のローカル線。筑豊の石炭や豊後の木材を輸送するために敷設された。3~4両編成のディーゼル車のワンマン運転。豪雨による被害が63カ所で確認され、添田駅から久大本線日田駅まで運休中。大行司駅から日田駅までは、JRがバス代行輸送をしている。

最終更新:8/6(日) 10:43
日刊スポーツ