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森永製菓「マクロビ派」 おいしさ追求で壊した“壁”

8/7(月) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 知らないうちに、心に“見えない壁”を作っている。ありがちなことだが、新しい商品やサービスを生み出すためには、それを壊す必要があるだろう。森永製菓菓子食品マーケティング部の波多江寛子さんは、3月にリニューアルした「マクロビ派ビスケット」を担当。定着していた商品の「味を変える」ことに挑んだ。波多江さんが乗り越えた壁とは何だろうか。

【スーパー向けに開発した大容量タイプ】

●ターゲットを広げることが課題

 マクロビ派ビスケットは、バターやマーガリン、白砂糖を使用せず、植物性原料だけを使ったビスケット商品。穀物や野菜中心の食事で健康的な生活を目指す考え方「マクロビオティック」を参考にしている。2014年4月に発売した。「カロリーメイト」や「SOYJOY(ソイジョイ)」など、強力な商品がひしめく市場に、森永製菓として初参入した商品だ。

 波多江さんは、新卒入社後3年間営業を担当。14年4月に菓子食品マーケティング部に異動し、「新カテゴリー」の担当になった。新カテゴリー担当は、「チョコレート」や「アイスクリーム」などのジャンル別の担当ではなく、新市場を開拓する商品を生み出していく役割。大学時代にマーケティングを学んでいたが、「勉強したこととは全く違う」仕事に戸惑いもあったという。

 そんな波多江さんが取り組んだのが、マクロビ派ビスケットのリニューアル。リニューアル前は、店舗での売れ行きは良かったが、取り扱い店舗数は多くなかった。商品を置いている店舗では、20代後半~30代の働く女性を中心に「一部の人が熱心に買ってくれている」状態。それでも売り上げは悪くなかったが、成長は頭打ちになる。店舗での取り扱い率を上げ、ターゲット層を広げることが課題だった。

●「おいしくする」ことへの葛藤

 リニューアルで何を変えるか。「最も悩んだのが“味”でした」と波多江さんは振り返る。もともと、バターや白砂糖、卵などを使わないという、通常の菓子の作り方とは全く異なるコンセプト。レーズンやアーモンド、ひまわりの種、てんさい糖などを使用した、健康的で素朴な味が“売り”だった。

 リニューアルでは、ターゲット層を広げるため、甘味を増し、より「おいしい」味に変えることに決めた。しかし、その決断に至るまでに、“見えない壁”が立ちはだかった。

 それは、商品に対する固定観念や思い込みだ。菓子のおいしさというより、健康的な味が好まれる商品だった。より広く好まれるようにするためとはいえ、味を変えることに抵抗感が生まれた。「この味が好きな人は確かにいる。『変えたくない』という葛藤があった」。

 その心理的なハードルを取り払うために、客が商品に求める価値を見直した。その価値とは、植物性の原料だけを使っていることと、素材そのものの味を感じられること。「おいしくないものを食べたいわけじゃない」。

 さらに、商品に対する思い込みを変えるため、あらためて、マクロビ派ビスケット“らしさ”を掘り下げた。「当時、『マクロビっぽい』という言葉がチーム内で独り歩きしていました。その言葉をNGワードにして、別の言葉で言い換えて考えていきました」。その結果、白砂糖ではなくナッツやベリーなどの素材をかんで甘みを感じられることが、マクロビ派ビスケットが打ち出すべき強みだと結論付けた。

●計画を2割上回る滑り出し

 商品としての価値を明確にしたことで、迷いなくおいしさを追求することができた。素材の甘さをより感じられる味にするため、てんさい糖やクランベリーの配合量を「ベストな甘さ」になるように調整した。その結果、具材の量は従来品の約1.5倍に。ざくざくとした食感に加え、1個の大きさを一口サイズに小さくして、食べやすくした。新フレーバーとして「カカオ味」も投入した。

 さらに、コンビニのみだった販売店舗を拡大するため、スーパーやドラッグストア向けの大容量タイプも開発。家庭で手軽につまみやすいチャック付きパウチのパッケージにして、スーパーで買い物をする客が手に取りやすいようにした。

 3月末に発売したリニューアル商品の滑り出しは好調だ。発売後3カ月間の販売実績は計画を20%上回った。前年の同時期と比べると2.4倍にもなる。特に、スーパー向けの大容量タイプの出荷量は、計画比2倍と好調に推移している。

 取り扱い店舗の拡大にはまだ課題があるというが、ターゲット層は着実に広がっていると感じている。女性は、主要ターゲットの20代後半~40代だけでなく、「健康を意識して原材料を見ている50~60代の方にも買っていただいている」。さらに男性については、健康を気にする40代の購入者が最も多いという。「ある大手企業の役員の男性が『ストックしているよ』とおっしゃってくださった」という経験もした。

●緊張感を持って取り組む

 リニューアルに踏み切るときには、中身の開発を担う研究員も含めて、チームのコミュニケーションを大事にした。「売れているから変えなくてもいい、という雰囲気を作ってしまっていた。そうではなく、もっとブランドを大きくしていきたいという思いを共有するようにしました」。そのために、売り上げなどの数字をしっかりと伝えるようにしたという。

 地方拠点で営業を担当していたときは、売り上げや取り扱い店舗数、競合商品などの情報に常に触れていた。しかし、「本社では、自分から取りに行かないと『今、何がどのくらい売れているか』という情報が入ってこない。それが分からないのは怖いと思いました」。チーム全体として、商品の状況を共有し、リニューアルに取り組む機運を高めていった。

 マクロビ派ビスケットの今後について、「成長を加速させて、まだまだおいしくしていきたい」と意気込む波多江さん。「好きになってくれた人にとっては、代わりのない商品。その人たちに確実に届けられるように進化させなければならない。先輩たちがつくってくれた芽を摘まないように、毎日緊張感を持って取り組んでいます」と、気を引き締める。

 希望していた商品開発の仕事に打ち込む波多江さんの目標は「新ブランドをゼロから立ち上げて、ロングセラーブランドに育てる」こと。さまざまな経験が、成長への着実な一歩になっている。

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