ここから本文です

トヨタとマツダが模索する新時代

8/7(月) 6:16配信

ITmedia ビジネスオンライン

 思い起こせば2015年5月、トヨタ自動車とマツダは突然、両社の協力関係構築をスタートするという記者会見を開いた。以来約2年、提携の内容は厳重に秘匿(ひとく)され、ごく限られた情報が漏れ伝わるだけだった。両社の役員級のメンバーが頻繁に往き来して、協議を重ねていることは聞き及んでいたが、詳細が語られることは無かった。

【その他の画像】

 17年8月4日、再び緊急合同記者会見が開かれた。通知メールが届いたのが15時10分。明らかに東京証券取引所の後場が閉まる15時を見越して送られたメールだ。しかも金曜日。土日は取引所が動かないため、相場の混乱を回避できる。月曜朝には既に世間の知るところとなって、誰も抜け駆けができない。逆に言えば、金曜15時過ぎの緊急会見のお知らせは、それだけ重要な内容が発表されることを意味している。

 会見の内容は、トヨタとマツダが極めて深い領域での業務提携を行うもので、正直なところ筆者の予想を上回るものだった。同日発行されたリリースから、簡単に概略を抜き出して見よう。

 まずは株式の相互取得だ。総額500億円の株式を取得し合う。トヨタはダイハツに対してもスバルに対しても、提携先の株式を一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。極めて異例の事態だと言える。これは今回の提携の深さを象徴的に表すものだと言える。後述するマツダの小飼雅道社長の言葉を借りれば「胸襟を開いてお互いを知り、頻繁な交流により多くを学び、お互いが刺激しあえる状態であることを確信」したことの現れである。

 以下、大きく4つの分類で提携の内容を整理しよう。

(1)米国での完成車の生産合弁会社の設立

(2)電気自動車の共同開発

(3)コネクティッド・先進安全技術を含む次世代の領域での協業

(4)商品補完の拡充

 (1)に関して言えば、自動車メーカーの生産工場は企業秘密の塊である。特にコモンアーキテクチャーによる混流生産の細かいノウハウなど、他メーカーには見せられない。トヨタ側にもマツダ側にも伏せておきたい独自技術がある。それを全部見せてしまうことになる。

 (2)に関しては、基礎的な部分ではトヨタがリードすることになるだろう。MIRAIやプリウス系各車に採用されているモーターやバッテリーの技術は世界の最先端であり、トヨタが開発した基本コンポーネンツはマツダだけでなく、提携各社が共用するはずである。ただし、それらを組み合わせて同じクルマのエンブレム違いができるという意味ではない。

 マツダの小飼社長が記者会見で「走る歓びを先鋭化させたクルマ作りと、マツダらしいブランド価値経営により、小さくともより際立つ独自のブランドを築き上げていきます」と述べた通り、トヨタが開発した基礎コンポーネンツを使って、マツダらしい走りを構築するはずである。スバルやダイハツも同様のことを求められるはずで、今後のトヨタアライアンスにおけるクルマ作りのあり方を示唆するものになっている。独自のエンジン、独自のシャシーでなくてはブランドに即したクルマが作れないということでは立ちゆかない。アライアンスの中で共用できるものを共用しつつ、ブランドの独自性を際立たせていくことこそ求められる。

 (3)についてもトヨタが主導権を握ることになる。コネクティッドと先進領域に関しては、バグ出しという意味でも、リアルタイム情報共有という意味でもビッグデータがその完成度を左右する可能性が高い。当然最大の販売台数を持つトヨタが強味を持つことになる。しかしトヨタにとっても、アライアンス各社の販売台数を合計してビッグデータに積み上げられる価値は当然大きい。

 (4)は、(2)とも関連してくるが、相互のラインアップを補完するいわゆるOEM供給(相手先ブランド供給)から、コンポーネンツの共用までさまざまな深度の協力がスタートするだろう。既にトヨタは北米でデミオを「ヤリスiA」として販売しているが、日本で小型商用2ボックスバンをトヨタからマツダに供給することが決まっている。はっきりと車種名が挙げられているわけではないが、常識的に考えてそれは営業バンの覇者であるプロボックスだろう。

 以下、両社長の会見に筆者が必要に応じて注釈を付ける形でお届けする。

豊田章男社長: 皆さまこんばんは。豊田でございます。本日は遅い時間に、また急なご案内にもかかわらず共同記者会見にご出席を賜り誠にありがとうございます。

 本日、トヨタ自動車株式会社とマツダ株式会社は業務資本提携に関する合意書を締結いたしました。

小飼社長: 皆さまこんばんは、小飼でございます。本日両社が調印した合意書は、クルマの新しい価値創造と持続的成長を可能とする体制を整えるべくお互いに協力するためのものでございます。概略としましては米国での完成車の生産合弁会社の設立。電気自動車の共同技術開発。コネクティッド、先進安全技術を含む次世代の領域での協業。商品補完の拡充。これらの各分野において、両社の業務提携を具現化させていくことに加え、両者の資本提携について合意したものにございます。

豊田社長: ちょうど2年前の5月、両者が協力関係の構築に向けて検討を開始することを、皆さまの前で発表させていただきました。その時に私はこう申し上げました。「Be a driver 自分が行く道は自分で決めた方が楽しいに決まっている。走らせて退屈なクルマなんて、絶対に作らない。マツダさんのこうした考え方に私自身大いに共感をしています」。

 マツダさんはまさに私どもが目指す「もっといいクルマづくり」を実践されている会社であり、今回の提携によって私たちは多くのことを学ぶ良い機会をいただいたと感謝しております。それから2年が経ったわけですが、私自身、この思いをさらに強くして本日この場に臨んでおります。

※筆者注 クルマが白物家電化すると言われている中で、自動車メーカー自身が、ビークルダイナミクスの重要性に再注目していることがよく分かる。特に電気自動車に関してはコモディティ化が進行すると言われているが、走らせて退屈なクルマは絶対に作らないというマツダとそれに強く共感したトヨタの「もっといいクルマづくり」が未来のクルマ作りにおける自動車メーカーの価値を再定義すると考えていることが分かる。

小飼社長: トヨタさんは自動車業界が抱える将来の課題に対して、さまざまな領域で果敢に挑戦し、イノベーションを進め、リーダーシップを発揮し続けられてきた会社です。そのようなリーダー企業でありながらも、もっといいクルマを作ろうと、自ら先頭に立ち、課題に挑戦し続けておられる姿勢に私は強く胸を打たれております。このようなトヨタさんの志と、マツダのDNAである「あくなき挑戦」が合致し、この2年間多くのことを学ぶ機会をいただいたことをとてもありがたく感じております。胸襟を開いてお互いを知り、頻繁な交流により多くを学び、お互いが刺激しあえる状態であることを確信し、自信を深めて今この場に立っております。

豊田社長: かつての自動車メーカーの競争とは、1000万台を誰が最初に達成するか、といったことに代表されるように、販売台数を巡る競争だったのではないかと思います。そして自動車各社の提携もまた、資本の論理で規模を拡大するための提携が中心であったように感じております。

 皆さまご承知の通り、今私たちの前には、GoogleやApple、Amazonといった新しいプレイヤーが登場しております。全く新しい業態のプレイヤーが、「未来のモビリティ社会を良くしたい」という情熱を持って私たちの目の前に現れているのです。未来は決して私たち自動車会社だけで作れるものではありません。物事を対立軸で捉えるのでは無く、新しい仲間を広く求め、競争し、協力し合っていくことが大切になってきていると思います。

 しかし、これまでのモビリティ社会の主役は、間違い無くクルマであったと思います。私たち自動車会社にはこれまで、モビリティ社会を支えてきたという自負があります。新しいプレイヤーと競い合い、協力し合いながら、未来のモビリティ社会を作っていくからこそ、私たち自動車会社は、「とことんクルマに拘らなくてはならない」と思います。

 今の私たちに求められているものは、全ての自動車会社の原点とも言える「もっといいクルマを作りたい」という情熱だと思います。皆さま、マツダさんのコーポレートビジョンの最初の一文をご存じでしょうか? 「私たちはクルマを愛しています」という言葉から始まります。私たちトヨタもクルマを愛しています。どんなに時代が変わっても「愛」の付く工業製品としてのクルマを作ることにこだわり続けるつもりです。

 今のトヨタの課題は1000万台を越える企業規模をアドバンテージにするべく、自分たちの仕事の進め方を大きく変革することです。私たちが昨年4月に導入したカンパニー制も、マツダさんと一緒に仕事を進める中で、自分たちの課題が明確になり、「このままではいけない」と踏み出したものだと言えます。マツダさんとの提携で得た一番大きな果実は、クルマを愛する仲間を得たことです。そして「マツダさんに負けたくない」という、トヨタの「負け嫌い」に火を付けていただいたことだと思っております。本日私が皆さまにお伝えしたいことは、両社の提携は「クルマを愛する者同士」のもっと良いクルマを作るための提携であり、「未来のクルマを決してコモディティにはしたくない」という思いを形にしたものだと言えることでございます。皆さまの暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

※筆者注 元々この提携のスタートラインは、マツダがアクセラ・ハイブリッドのためにトヨタのハイブリッドシステムの供与を受けたところに端を発している。ハイブリッドの大きな欠点である回生ブレーキと物理ブレーキの協調制御の不自然さを消すため、マツダのエンジニアはブレーキのばねを作り直した。完成車のお披露目試乗会を行ったとき、トヨタのエンジニアはその出来に驚き、豊田社長に伝家の宝刀ハイブリッドでマツダに一敗地にまみれたことを報告し、豊田社長自らが広島に赴いてその違いを確認した。「もっといいクルマづくり」が念頭にあった豊田社長は、名古屋に戻るとすぐさまマツダとの提携模索の指示を出したのである。

小飼社長: 私たちマツダは、2020年に創立100周年を迎えます。その先の将来を考えると、豊田社長のおっしゃるように、私たち自動車会社だけで将来を作れるものではなく、新しいプレイヤーと競い合い、協力し合いながら、その先のモビリティ社会を作っていくとの視点はまったくその通りであると考えております。一方、自動車会社はとことんクルマにこだわり続けるべきとの思いは、将来の自動車業界におけるいかなる変化があろうとも取り組まねばならないことであると、自動車会社だからこそ実現できるこだわりと確信しています。

 そしてそのクルマ作りにこだわる情熱はマツダは誰にも負けないと自負しております。トヨタさんのグローバルビジョンや豊田社長のメッセージから、規模や領域の幅広さは違えども、私たちには多くの共通点があると感じています。例えば、それぞれのビジョンの中には、「モビリティを通じて人々に感動を与え、社会や地球に貢献していく。そのために自らが挑戦し、改善改革を続けていく趣旨」が含まれています。

 われわれマツダは自動車業界を取り巻く新たなプレイヤーとも競争、協調しながら、常に技術とプロセスの学習に取り組み、挑戦し続ける企業でありたいと思っています。2030年、2050年に向け、走る歓びを先鋭化させたクルマ作りと、マツダらしいブランド価値経営により、小さくともより際立つ独自のブランドを築き上げていきます。そしてこの実行こそが長期にわたる両社の協業に貢献できると考えています。

 負け嫌い同士が集まり、相互に刺激を与えながら、人材やリーダーを育て、イノベーションをリードしていきたいと思います。そして2年前の会見で豊田社長がお話をされた、「次の100年もクルマは楽しい」とのメッセージを世界に発信することによって、自動車業界の活性化やクルマファンの増加に寄与することができれば、こんなに素晴らしいことは無いと思っています。今後とも皆さまからのご理解、ご支援をいただければと思います。本日は遅い時間、また、急なご案内にも関わらず、多くの方々に共同記者会見にご出席を賜り、誠にありがとうございました。

 トヨタもマツダも「負け嫌い」は徹底している。同化して依存し合う関係ではなく、自社ブランドに相応しい未来のモビリティを生み出していくための同志として歩もうとする姿勢がよく分かる。豊田社長が質疑応答で行った発言「今回の提携は自主独立性を尊重し、お互いに切磋琢磨しながら、両社が持続性を持って協力関係を構築することを目指したものであります」という言葉でもそれは明らかである。

 これまで群雄割拠でしのぎを削ってきた自動車メーカー同士が、これからは可能な部分では手を携えることになる。そしてそれは自動車メーカー間だけでなく、モビリティ社会の実現に参画するあらゆるプレイヤーと協力しながら、かつそれぞれのブランドの独自性を磨いていくことになるはずだ。少々大げさに言えば、それは資本主義における企業のあり方の新しい形と言えるのかもしれない。

(池田直渡)