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【インタビュー】“リアル”の追求者C・ノーランが初めて挑む実話…「やりがいのある挑戦だった」

8/9(水) 10:00配信

cinemacafe.net

フランス北部にある海辺の町、ダンケルク。

『ダークナイト』シリーズ、『インセプション』『インターステラー』などで知られる唯一無二の映像作家クリストファー・ノーランが、新たに選んだテーマは、いまから77年前の第2次世界大戦のさなか、この町の海岸や上空で、民間人も巻き込みながら繰り広げられた史上最大の救出作戦、いわゆる“ダンケルクの戦い”だった。キャリア史上初めて史実に挑んだノーラン監督に、映画『ダンケルク』について話を聞いた。

【画像】インタビューに応じたクリストファー・ノーラン監督

1940年5月、フランスに侵攻したドイツ軍の猛追に、40万人もの英仏連合軍の兵士たちはダンケルクに追い詰められていく。目の前のドーバー海峡の先には、故郷イギリスがあるにも関わらず、背後にはドイツ軍が迫り、地上では空爆によって火花が散り、砂塵が舞う砂浜は年端もいかない兵士たちが身動きもとれない状態、海上でも駆逐艦が次々に撃墜されていく。そのとき、ダンケルクはまさに絶体絶命の地だった。

「イギリスでは、ダンケルクの戦いを知っている人は多く、“ダンケルク精神”という言葉も文化的に普及しています」と、ノーラン監督は言う。「“ダンケルク精神”とは、ダンケルクの戦いから由来し、“困難に直面した際に周りと力を合わせてやり抜く”という意味で、イギリス人にとっては親しみのある表現。そのため“ダンケルク”という土地の名前こそが、長年イギリス人の国民性と共鳴した大切な言葉なんです」と、このタイトルに込めた意義を語る。


「私は常にダンケルクの物語に魅了されてきました」と話す監督は、「イギリス人はその話とともに成長し、骨まで染み込んでいる、神話のように文化の一部になっているんです。我々は逆境にあるグループや公共のヒロイズムや敵の優勢について語るとき、“ダンケルク・スピリット”のことを話します。それに、この物語は近代映画で語られたことがなく、そこがとても面白かったんです」と、制作のきっかけにも言及する。

さらに監督は、「ダンケルクの物語は人類史上最高の物語の1つ」と言葉に力を込める。「海を背に身動きがとれない40万の兵士に敵が迫る。彼らの故郷は目で確認できるほど近いけれど、そこに行けない。そして彼らは降伏か、全滅かの選択を迫られる。この物語は、降伏でも、全滅でもない終わり方をしたことで、人類史上最高の物語の1つとなったんです」。

ノーラン監督はこれまでも、ゴッサムシティや、何層にも重なる夢の中の世界、そして宇宙の果てなどに観る者を誘い、さまざまな物語をつくり上げてきた。本作でも、極力CGは使わない徹底した“本物”志向を貫き、切羽詰まったダンケルクの地へと観客を連れていく。実際に、この奇跡的な救出作戦が行われたのと同じ時期に、ダンケルクの砂浜に当時と同じように防波堤をつくり、爆破を起こし、5月下旬といっても冷たく荒れた海に船を用意し、戦闘機をその上空に飛ばした。そして、若き兵士たちをこの場所に集結させた。


そのうちの1人、主人公のトミー役を演じたのが、本作が映画デビューとなる新星フィオン・ホワイトヘッドだ。ほんの1年半前まで皿洗いのバイトをしながらオーディションに通っていたというこの若者が、ダンケルクへの案内人に大抜擢された。そして、トミーと同様、ダンケルクから命からがらの脱出に挑む兵士アレックスを演じたのは、元「ワン・ダイレクション」のメンバー、ハリー・スタイルズ。監督も後からその人気ぶりに驚くほど“世界で最も有名な新人俳優”のハリーもまた、オーディションでこの役をゲットした。

「この物語で心を打つのは、若い青年たちが当時、本当に、この壮絶な悲運と向き合ったという事実なんです」と監督は言う。「映画でも本物の18歳、19歳を出演させたかった。そのためオープン・キャスティングを開き、本物の“未熟さ”をもつ新しい俳優を配役することにしました。“ハリウッド流”のように、35歳の俳優を18歳の役に配役したくなかったんです」と話す監督は、オーディションで若き兵士たちを募集しながら、演劇学校にも赴き、そこで学ぶ新人俳優たちとも会ったという。

「若い俳優たちの中には演技経験が少ない人もいましたが、身体的に厳しい環境に身を置くことで、演技という束縛から解放され、リアルに振る舞う様子が撮影できたと思います。(彼らの演技は)素晴らしいものでしたよ、撮影は身体的にも厳しいものでしたから」と、彼ら渾身の演技に称賛を贈った。


「でも、本当に重要だったのは、新鮮な顔ぶれのアンサンブルキャストをまとめることでした」とノーラン監督。本作には、ノーラン作品常連組といえるトム・ハーディやキリアン・マーフィに加え、ケネス・ブラナー、マーク・ライランスといった初参戦のベテランキャストも顔を揃えている。陸上(砂浜)には、ホワイトヘッド演じる若き陸軍兵士トミーたち、海上には、ライランス演じる民間人のミスター・ドーソン、空には、ハーディ演じる戦闘機パイロットのファリアという陸海空、3者の視点で描かれることが本作の特徴だ。

しかも3者の視点は、地上で待つ兵士たちにとっての1週間、ドーバー海峡を渡る民間船にとっての1日、空中戦を繰り広げるパイロットにとっての1時間という異なる時間軸でそれぞれが描かれ、巧みに交錯していく。監督にとって、“時間”という大きな概念は、以前から関心の対象だったそうで、タイムリミットとの戦いや異なる時系列のトリックは、『メメント』をはじめ『インセプション』『インターステラー』など過去作でも描かれてきた。本作の予告編でも、「カチカチ」と時計の針が時を刻む音が特に印象的だ。

「同じ時間でも、とらえる意識によって体感できる長さ、短さがさまざまであるということは、本作でも描いています。人が感覚として認識する時間の柔軟性、多様性を説得するのに、実は映画はとても有効なんですよ」。例えば本作では、「海岸で待機する兵士たちは、この出来事を1週間という時間を通して経験します。一方で、船でやってくる人々にとっては1日、空中で戦闘するパイロットたちにとってはたったの1時間。時間は、激しく攻撃されているときはまるで一瞬のように感じられ、ひたすら助けを待つ兵士たちにとっては不動のように感じられる。本作では、複数のストーリーが1つの映画の中で、それぞれの時間軸上で進行するように描いているんです」。


ノーラン監督はさらに続けて、「(陸海空)3つのタイムラインで、それぞれ異なる視点で対比させながら見せる、というこの映画の構成は、実際に起こった史実を私自身リサーチをして、インスピレーションを得たんです」と明かす。「当事者たちの個人的な記録を読んで、砂浜にいる者たちがそこから起きていることを見て感じたことと、一方、その上空を飛ぶ者たちが見て感じたこと、そして救助のためボートでやってくる者たちが見て感じたことが、それぞれ非常に違っていることに多大な衝撃を受けたんです」。

「3人は皆、出来事の中の非常に限られた、不十分で不完全な光景しか見ていませんが、観客は、それぞれをすべて目にし、組み合わせて、結合させた光景をつくりあげます。それは、難しくも、やりがいのある挑戦だと思ったし、よくある戦争映画で使われるテクニックとは非常に異なったやり方だと気づいたんです。よく将官たちが室内で地図を囲んで何が起こっているか話し合いをするシーンがありますが、それでは、当事者たち(=兵士たち)が実体験していることは見えてこない。我々が興味を感じたのは、観客に当事者たちがその現場で感じているのと同じ主観的な経験をさせることでした」。


「だから、戦闘機スピットファイアの中のパイロットたちのシーンでは、事実、観客はパイロットたちが見るもの以外、何も見ていないんです」と言う。「カメラは、大概の場合、コックピット内にボルトで固定されていて動かないようにしてありました。それで観客は、パイロットたちが見ている光景そのものを目にして、彼らが把握していることだけを、観客も同様に把握する。同じように、ボートの上でも、カメラとともに観客の視点もボートの上にあって、そこから出ることはない。まさしく兵士たちとともに船の上にいて、交戦地帯に近づいていく気分になるんですよ」。

さらに、こうした大胆な手法の構成は、大部分がIMAXフィルムによって撮影されている。「特にこの映画では、言葉より映像から伝えるストーリーを重視したので、映画のほとんどのシーンをIMAXフィルムで撮影しました」とノーラン監督は言う。

「IMAXフィルムを使った理由は、現代の映画鑑賞という体験の可能性を最大限に引き出したいという思いから。観客が行ったことのない場所へ連れて行き、劇場にいる人全員で体感できる映画鑑賞こそが、私の考える“シネマ・エクスペリエンス(映画体験)”なんです。特にフィルムを用いたIMAX形式は、最も高い解像度を映し出すことができるので、3Dメガネを使わなくとも観客に“没入体験”を提供できます。IMAXフィルムは、映画の題材そのものを全面に引き出すことができる一種の方法だと、私は考えています」。


とはいえ、IMAX フィルム・カメラは撮影時に轟音がするため、IMAXフィルムで撮影できない部分は65mmフィルムで撮影した。「これは(クエンティン・)タランティーノ監督が『ヘイトフル・エイト』を、そしてデヴィッド・リーン監督が『アラビアのロレンス』を撮影した形式と同じ。つまり、この映画の全てのシーンが大型フォーマットで撮影されているといえますね」。

なぜ、このデジタル全盛期にあって、それほどまでにフィルムにこだわるのか、その理由は「今日存在するものの中で、人間の目が見ているものに最も似ている」からだという。「リアルで主観的な体験を作りたいなら、フィルムで撮影することで目で見ている世界を最も正確に表せる。フィルムの映像によって、観客は家のTVでは経験できないものを体感することになるんです」。

こうした、かつてない壮大なフォーマットで描かれる陸海空のダンケルク。その圧倒的臨場感、リアルな没入感は、まさにスクリーンでこそ体験すべき1本だ。

最終更新:8/9(水) 10:00
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