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たこ焼き器はたくさんあるのに、なぜイワタニの「炎たこ」が売れているのか

8/9(水) 8:20配信

ITmedia ビジネスオンライン

 外はカリッとしているのに、中はトロトロ――。

 たこ焼きは熱々を食べることができ、みんなで楽しむことができるので、「ついついたくさん食べてしまう」といった人も多いのでは。「でも、家でつくるのはダメ。プレートに生地がこびりついて、うまくひっくり返すことができない」といった不満を感じている人もいるだろう。

【炎たこが売れている理由は?】

 関西人にそのようなことを言うと、「たこ焼き器を十分に熱した?」「油引きに油を多くつけた?」「生地を流す前に、塗りつけるように油をひいた?」といった感じで、たたみかけるように質問が飛んできそうだが、そんな声を聞かなくてもよくなるようなアイテムが存在している。岩谷産業(以下、イワタニ)が発売している、たこ焼き器「スーパー炎たこ(えんたこ)」だ。

 使ったことがない人にとっては、にわかに信じがたい話かもしれないが、同社のWebサイトを見ると、「誰にでも失敗なく、キレイでおいしい、プロ顔負けのたこ焼きがつくれる」とうたっているのだ。理由を調べてみると、3つを挙げている。(1)プレートに切れ溝が付いているので(2)フッ素加工プレートを採用しているので(3)専用のU字バーナーを搭載しているので――と書かれているのだが、本当にこれだけの理由で“失敗しない”のか。

 記者は大阪生まれ、大阪育ちなので、幼いころから家にたこ焼き器が存在していた。週末のたびに、家でたこ焼きを食べていた記憶があるので、「たこ焼きをつくるのが難しい」といった気持ちを理解するのは難しい。しかし、たこ焼きをつくるのが苦手という人に、この炎たこを使ってつくってもらったところ、「あれ? 簡単にできる。これまでできなかったのに……」といった答えが返ってきたのだ。

 たこ焼きをつくったことがない人でも“失敗せずに”つくれるのであれば、このたこ焼き器は売れているのではないか。そんな疑問をイワタニの商品開発担当者、福士拡憲さんに投げかけたところ「2012年から15年にかけて、1.6倍も売れました」という。家電量販店などに足を運べば、多くのたこ焼きが並んでいるのに、なぜイワタニの炎たこは売れているのか。その理由について聞いた。

●新モデルで「切り溝」を付ける

土肥: たこ焼き器の売り上げが伸びていますよね。販売台数をみると、2012年は3万2000台だったのに、15年は5万8000台に。イワタニは1999年に、炎たこの前身モデルである「ジュニアたこ焼き器」を発売しました。その後、「炎たこ」を発売して、さらに改良したモノを16年に発売したところ、そちらも好調のようで。数年ほど前から「中食需要が盛り上がっている」「たこ焼きパーティーを楽しむ人が増えている」といった傾向がありますが、そうした中で炎たこが売れている理由はどこにあるのでしょうか。

福士: 昔のたこ焼き器といえば、取り扱いが難しいモノが多かったですよね。ガスボンベがむき出しになっていたり、火をつけるのもちょっと手間がかかったり。ガスが先に出て、そのあとに火を近づけて点火しなければいけませんでした。また、プレートは鉄でできていたので、生地がこびりついてうまくひっくり返すことができなかった人が多かったのではないでしょうか。当社ではそうした問題を認識していたので、ガスボンベを見えないようにしたり、プレートをフッ素加工にしたりして、少しずつ改良してきました。

 ちょっとずつ工夫はしていたのですが、それでも「うまくひっくり返すことができない」といった声はたくさんいただいていました。誰でも簡単にたこ焼きをつくることができないのか。生地をうまくひっくり返すことはできないのか。そうした課題をクリアするために、プレートに「切り溝」を付けたらうまくひっくり返すことができるのではと考え、実験でつくってみたところ、失敗しにくいことが分かってきました。

土肥: 「か、画期的」と言いたいところですが、完成品をみると「なんだ、それだけ?」といった感じも受けます(失礼)。イワタニはたこ焼き器を販売してきたので、以前から「溝を付けたらうまくひっくり返すことができるのではないか」といった話はなかったのでしょうか。

福士: いえ、ありませんでした、気付きませんでした。今回のモデルは、ただ単にプレートに切り溝を付けただけではありません。よーく、見てください。1つ1つの面積を均一にすることによって、キレイなたこ焼きができるようになりました。

土肥: あれ、そー言われてみると、確かに。以前のモノはプレートが長方形の形をしているのに、今回のモデルはより正方形に近づいていますよね。

福士: はい。以前のモデルは、当社が発売している「炉端焼き器」で使っている筐体(コンロの部分)と同じモノを使っていました。ということもあって、どうしても場所によって焼きムラができていました。でも、いまは炎たこ専用の筐体をつくったことによって、より焼きムラができないようになりました。

●バーナーの穴に注目

土肥: 昔のたこ焼き器って、焼きムラがひどかったですよね。特に、四隅。この部分に生地を流し込んでも、なかなか焼けなかった。その昔、ドイ家で使っていたたこ焼き器も四隅での焼きムラがひどくて、20個焼ける器械でも、実際に焼けるのは16個といった感じでした。あまりにもイライラするので、電気式を使ったことがあるのですが、それでも“焼きムラ地獄”から逃れることはできませんでした。

福士: ガスと電気を比べると、ガスのほうが温度の立ち上がりスピードが速い。具材を入れるとプレートの温度はどうしても下がってしまうのですが、ガスはもとの温度に戻るスピードも速いんですよね。というわけでガスでつくると、外はカリッと焼けて、中はトロトロとしている。一方、電気の場合はじわじわ焼けるので、外も中も同じような感じで焼けます。

 ご指摘の通り、ガスのたこ焼き器でも初期のころは、四隅はなかなかうまく焼くことができませんでした。こうした課題を解決するために、当社はどのような工夫を施してきたのか。バーナーはUの字の形をしていますが、まんべんなく炎が当たるようにプレートはより正方形の形に近づけてきました。あと、プレートの裏を見ていただけますか。ところどころに壁がありますが、そうすることによって熱伝導がうまくいくようにしたんですよね。そうした相乗効果によって、いまでは四隅もうまく焼けるようになりました。

土肥: 実際に焼いたところ、確かに四隅でもうまく焼けるようになっている。先ほどバーナーの形は「Uの字」と言っていましたが、以前は丸の形をしていたのでしょうか。

福士: いえ、Uの字ですね。

土肥: バーナーをよーく見ると、四隅は遠いですよね。遠いということは、熱が伝わりにくいと思うのですが、なぜ焼きムラが生じにくいのでしょうか。

福士: バーナーの穴を見ていただけますか。長年、たこ焼き器を開発してきて、その歴史の中で、穴の位置を変えたり、向きを変えたり、角度を変えたり、大きさを変えたり、数を変えたりしてきました。焼きムラをなくするためにはどうしたらいいのか。そのために何度も何度も実験を繰り返して、いまの形になっているんですよね。

 ちょっと細かい話になりますが、ガスボンベの近いところには穴がないですよね。手前の部分はガス圧が高いので、火は出ているものの、炎が見えないことがあるんです。昔のタイプはこの部分に穴を開けていたのですが、お客さまから「穴があるのに、炎が出ていないじゃないか」といった指摘をいただきました。そうした不安を払拭(ふっしょく)するために、あえて穴をあけないことにしました。

●なぜ「真似たこ」が出てこないのか

土肥: ぼけーっと見ていると、バーナーの穴のスゴさを見落としてしまいますが、この部分にも特許がたくさん詰まっているわけですね。

福士: いえ、特許は取得していません。というわけで、他のメーカーさんも炎たこを参考にして、たこ焼き器をつくろうと思えばつくれるかもしれません。

土肥: なんと、特許を取得していない。自動車やスマートフォンなどと比べると、たこ焼き器は複雑ではなくて、とてもシンプルですよね。それなのに特許を取得していないとなれば、他社が「イワタニはもうけているらしいな。ウチでも同じようなモノをつくろうぜ。名付けて『真似たこ』だ」となってもおかしくないはず。でも、たこ焼き器売り場に行っても、カセットコンロタイプのたこ焼き器は少ないですよね。これはなぜですか。

福士: カセットボンベの存在が大きいのではないでしょうか。

土肥: 「イワタニのボンベを使っているので、たこ焼き器もイワタニで……」ということでしょうか。

福士: はい。

土肥: それは、ちょっと信じられません。イワタニがカセットコンロを発売したのは、1969年のこと。2016年度の出荷台数をみると、約246万3000台で、シェアは65%。ボンベの出荷台数は約1億4366本で、シェアは40%。文句なしの最大手と言えるわけですが、だからと言ってたこ焼き器が売れている理由に「イワタニのボンベを使っているから」というのは、ちょっと無理がありませんか。

福士: 実は、法律的にボンベはカセットコンロの部品扱いなんです。というわけで、カセットコンロは指定されたボンベを使わなければいけません(液化石油ガス器具等の技術上の基準等に関する省令)。ちなみに、カセットコンロは公的機関の検定を受けていまして、検定を受ける際、使用するボンベは自社のモノしか確認されていません。

土肥: 他社製のボンベにも必ず「◯◯専用」と記載されていますが、そーいう意味だったのですね。ちょっと歴史を調べてみると、以前は各メーカーがそれぞれ独自の基準でつくっていたので、ノズルの長さなどが違っていた。違うメーカーのボンベを使うと、ガスが出にくいケースがあったとか。こうした事態を受け、日本工業規格(JIS)が見直され、ボンベの底からノズルの先端までの長さを決めるなど、規格が統一されたわけですね。

 とある行政のWebサイトをみると、「専用ボンベを使用しなかった場合、まれに火がつきにくいなどの不具合が起こる場合がありますので表示に従うことが望ましいでしょう」と書いてある。イワタニのたこ焼き器が売れている背景には機能面のほかに、ボンベのシェアが高い、カセットコンロとボンベは同じ会社のモノを使ったほうがいい、という法律的な側面があるわけですね。

福士: はい。

●たこ焼きは全国区に

土肥: たこ焼きといえば「大阪」。たこ焼き器も関西方面での売り上げが圧倒的に高いのでしょうか。

福士: 以前はそのような傾向があったのですが、いまではありません。全国でまんべんなく売れています。また、以前は夏休みによく売れていました。夏休みになると子どもが自宅にいる時間が長くなるので、「ちょっとたこ焼きでもつくってみるか」といった家庭が多かったのかもしれません。でも最近は、3月、4月の売り上げが伸びているんですよね。

土肥: それはなぜ?

福士: 花見でたこ焼きを楽しむ人が増えてきたのではないでしょうか。あと、新生活が始まるシーズンなので、同僚との親ぼくを図るために、たこ焼きパーティーを楽しむ人が増えてきたのかもしれません。

土肥: かつては大阪の家の中で、ひっそりとたこ焼きを楽しんでいた。そうした食文化が全国に広がりつつあるということですね。大阪に本社を置くイワタニにとってもうれしいことではないでしょうか。

福士: ですね。

(終わり)

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