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“黄金の組み合わせ”が生み出す中国チップセットの新たな芽生え

8/9(水) 19:25配信

EE Times Japan

■中国で続々と発売されている全天球カメラ

 2015年辺りから、アクションカメラ、ドライブレコーダーに続くカメラとして全天球カメラ、360°カメラが多くのメーカーから発売されている。有名な全天球カメラとしてはリコーの「RICOH THETA(シータ)」やコダックの「SP360」などがある。ドライブレコーダーでは前後カメラや4方向カメラなども多く発売されている。

【「図2;中国製ないし台湾製のチップで構成されている全天球カメラの内部写真」などその他の画像はこちらから】

 全天球カメラの方式は大きく2つに分かれている。1つは魚眼レンズを用いて単眼カメラで広角の映像を捉える方式(コダックのSP360はこの方式だ)、2つ目は複数のレンズを用いて全方向の映像を合成でつなぎ合わせて全天画像を実現するものだ(RICOH THETAはこちらである)。こうした全天球カメラは、従来の映像とは大きく異なり、広角で臨場感のある画像を得られることからも、続々と新商品が発売されている。

 今回扱うのは中国製の「XDV360」だ。XDV360の梱包箱、製品本体の外観、分解の様子を図1に掲載する。梱包箱にも内部の取り扱い説明書にも、社名はおろか、使い方のマニュアルも入っていない。マニュアルが必要な商品ではなく電源スイッチを押せば電源ON/OFFができ、録画ボタンを押せば録画のオン/オフができるという、ただそれだけの商品であるからだ。本体には0.96型ディスプレイとWi-Fiボタンも備わっている。

 仕様は360°撮影ではなく、広角220°で1080@60fps(フレーム/秒)の動画、最大8Mピクセルの静止画を撮影でき、10カ国語の表示が備わっている(日本語は非対応)。スペイン語圏やロシアなどが主要なマーケットのようだ。本体の取り外し可能な側面カバーの下にはSDカードスロット、充電のためのUSB端子、画像出力のためのHDMI端子がある。電池の容量は1200mAhと大き目で、数時間の連続撮影が可能なようだ。

 大きさは6cm程度。片手にすっぽり収まり、実際の商品には自転車のハンドルやクルマのダッシュボードに装着するためのスタンドキットも備わっている。いうなれば、一世を風靡(ふうび)したアクションカメラ「GoPro」の全天球カメラ版のような製品だ。

 内部は、画像信号処理を行う基板にマイクロフォン、スピーカー、ディスプレイ、カメラユニットがつながっている。

■中国製、台湾製のチップを採用

 図2は基板の主要チップの様子である。表面、裏面にチップが実装されており、表面にはプロセッサと電源IC、インタフェースチップ、メモリが搭載されている。裏面には(掲載していないが)台湾Realtek製のWi-Fiチップ、SDカードスロット、台湾製のシリアル・フラッシュメモリが搭載されている。

 プロセッサは中国Allwinner製の「V3」、電源ICは中国X-POWER製、HDMIインタフェースは台湾EXPLORE MICROELECTRONICS製である。

 AllwinnerのV3は、本製品以外にも数多くのアクションカメラ、ドライブレコーダーに活用されるビデオ・プロセッサである。CPUコアにはARMの「Cortex-A7」を採用し、機能IP(Intellectual Property)としてビデオエンジン、カメラ用ISP(Image Signal Processor)、オーディオコーデック、ディスプレイ出力、カメラ用CMOSイメージセンサーと接続するためのMIPIインタフェースなどを1チップ化したSoC(System on Chip)だ。中国のSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)の工場で製造される“ALL CHINA”チップ、つまり設計から開発、製造、最終製品までを全て中国メーカーが行っているチップの1つである。

 図3は、任天堂が2016年11月に発売したゲーム機「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ(以下、クラシックミニ)」の内部主要チップと、今回のXDV360の主要チップの比較である。実際に使われているチップは内部が若干異なっている。なお、クラシックミニのチップ解剖については、EE Times Japanで弊社が執筆している別の連載「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」の第11回「初代ファミコンとクラシックミニのチップ解剖で見えた“半導体の1/3世紀”」で報告しているので、そちらをぜひ参照してほしい。

 クラシックミニで採用されている「R16」はARMのCortex-A7が4コア、GPU、ビデオエンジンが備わっている。一方のV3は、CPUコアはCortex-A7のシングルコア、ビデオエンジンを搭載し、V3固有の機能としてカメラ用ISPが備わったものになっている。つまり、R16からCortex-A7コアを3個抜き、GPUを抜き、カメラ用ISPを加えた仕様がV3というわけだ(R16-Cortex-A7x3-GPU+Camera ISP=V3)。電源ICはレギュレーターの数が若干異なっているが、プロセッサの動作や処理内容に応じて電圧を変動させたり、機能を止めたりするという点でほぼ同じ仕様になっている。

■スマートフォンを生み出す原動力となったチップセット

 チップセットという製品の作り方がある。スマートフォンや各種ガジェットを作るためには、プロセッサ、電源IC、インタフェース、通信チップ、メモリなどを組み合わせる。それを1社でセット化できているメーカーもある。スマートフォンではQualcommや台湾MediaTek、中国HiSilicon、韓国Samsung Electronicsらだ。これらのメーカーがチップセットを販売し、多くのスマートフォンメーカーを生み出してきた。

 メモリチップまでセット化できるという点で、Samsungのチップセットが最も効率が良い可能性が高い。SamsungはWi-Fiなどの通信を手掛けるスウェーデンのNanoradioを2012年に買収していて、いずれWi-Fiチップなども自前で開発する可能性が高いと思われる。

 表1は、2017年8月における最新スマートフォン5機種に搭載されている最上位機種のチップセットについてまとめたものである。5機種とは、Samsungの「Galaxy S8」、中国Xiaomiの「Xiaomi Mi6」、中国UMIの「UMi Z」、中国Huaweiの「P10 Plus」、Appleの「iPhone 7」である。Apple以外は、チップセットによってスマートフォンの主要機能の大半を実現している。QualcommとMediaTekはメモリ以外のほぼ全てをセット化しているが、HiSiliconやSamsungは、Wi-Fi/Bluetooth/GNSS(GPSなど)チップは別メーカー(Broadcom、一部はCypress Semiconductor)となっている。

■新たな“黄金の組み合わせ”

 図3に戻ろう。1社でチップセットを形成できる力のあるメーカーは上記のようにスマートフォンで支配的構造を作ることができた。しかしカメラ(アクションカメラ、ドライブレコーダー、全天球カメラ、一般的なデジカメ)ではチップセットはほぼ用いられていない。

 しかしAllwinner+X-Powersはほとんどの製品にその組み合わせのまま使われている。これもチップセットの1つの姿だろう。そして今、「中国プロセッサ+中国電源IC」という新たな“黄金の組み合わせ”が多くの製品に使われ始めている。

 この新たな組み合わせのチップセットが、ゲーム機や全天球カメラ、シングルボードコンピュータ、IoT(モノのインターネット)のエッジデバイスに無数に使われている現実があるのだ。

 NVIDIAやIntelのようなコンピューティングメーカーも同様に電源ICでは黄金の組み合わせを持っている。例えばNVIDIAは、電源ICに常時、米Texas Instruments(TI)あるいは米Maxim Integratedのチップを組み合わせている。メーカーを組み合わせたチップセットでも十分なセット機能を果たし、電力効率を最大化できている。

 では日本はどうだろうか……と見てみると、1社でチップセットを形成できているメーカーもなければ、メーカー間をまたぐ“黄金の組み合わせ”というチップセットも存在していないのが実情だ。

執筆:株式会社テカナリエ

最終更新:8/9(水) 19:25
EE Times Japan