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羽田空港国際線ターミナル、スマホをかざすだけの多言語情報サービスや自律走行するロボット車椅子などの公開実証実験

8/9(水) 20:51配信

Impress Watch

 羽田空港国際線ターミナルを運営する東京国際空港ターミナルと、同 第1/第2ターミナルを運営する日本空港ビルデング、NTT(日本電信電話)、パナソニックの4社は8月8日、訪日外国人や障害者などに向けた情報ユニバーサルデザインの公開実証実験を開始した。実証実験では5つのサービスが羽田空港国際線ターミナルビルの各所で行なわれ、期間は8月8日から2018年3月31日。その初日に実証実験の様子を報道公開した。

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 5つのサービスはNTTとパナソニックがそれぞれ開発を担当しており、空港内のさまざまな案内表示にスマートフォンのカメラをかざすだけで、現在地や目的地までの経路などを多言語で表示する「かざして案内」、保安検査場の混雑度合いを出発ロビー壁面にピクトグラムで表示する「人流誘導高度化」、騒音下でも明瞭な音声で視覚障害者を案内する「インテリジェント音サイン」の3件はNTTによるもの。

 パナソニックが担当したのは、自動停止や自律走行、隊列走行機能などを搭載したロボット電動車椅子「WHILL NEXT」と、スマートフォンのカメラをかざすだけで案内表示やサイネージから多言語で情報を取得できる「LinkRay 多言語案内サイン」の2件。

■アプリを使わずスマホのブラウザで起動する「かざして案内」

 訪日外国人が空港に到着してホテルなど次の目的地を目指すとき、まず直面する問題は「交通手段を調べる方法が思い付かないこと」だという。そこで、スマートフォンのカメラを空港内の誘導表示や案内表示にかざすだけで、地図で現在地や(空港内の)目的地までの経路、交通情報などを取得できるようにしたのが「かざして案内」だ。

 インストールが必要なアプリではなく、羽田空港のポータルサイトに掲載されているバナーからWebブラウザ上で起動できるため、空港でフリーWi-Fiに接続した流れで「かざして案内」の存在に気付く、という動線を想定している。

 実際の使い方は、スマートフォンのブラウザで「かざして案内」をタップすると、カメラが起動する。その状態で頭上などにある「京急線」「モノレール」「国内線行き無料連絡バス」といった案内表示をとらえて認識させると、その画像からどこでカメラをかざしたかを判別し、ユーザーの現在地と向いている方向を特定。さらに案内表示の内容に応じて「京急線改札までのルート」「モノレール改札までのルート」「連絡バス停車場までのルート」などをユーザーの母国語で案内する。

 つまり、ユーザーのカメラが“空港内の何階のどの案内表示をとらえたか”を認識することがこのサービスのキモといえるが、NTTの開発した「アングルフリー物体検索技術」によって、データベースとなる参照画像の点数を抑えつつ、斜めからとらえたり遮蔽物があったりしても認識できるという。従来技術では1つの参照画像(この場合は案内表示)をさまざまな角度から30点近く撮影しておかなければならなかったところ、「アングルフリー物体検索技術」を使うことでわずか3カット(正面、左右45度ずつ)で済んでおり、案内表示の入れ替えなどがあっても容易に対応できる。

 なお、すでに200近くある国際線ターミナルの案内表示すべてをデータベース化してあるそうで、表示内容が同じものがあっても、背景を識別して位置と向きの特定ができるとのこと。

■監視カメラ映像とフライトスケジュールから混雑度を可視化する「人流誘導高度化」

 国際線ターミナル3階の出発ロビーには保安検査場への入り口が2つ用意されているが、しばしば混雑に偏りが発生するという。このとき、他方が空いていることが明示されていれば人の流れが分散し、混雑を平準化できる。

 NTTの「人流誘導高度化」サービスは、保安検査場入り口の監視カメラ映像を画像認識して行列の多寡を検出し、混雑状況をピクトグラムによって3段階で表わす。その度合いはプロジェクタを使ってロビー壁面上部4カ所に投射しており、チェックインカウンターで並んでいるときにちょうど目に入るようになっている。画像は1~2分前の情報を随時更新しているそうで、比較的追従性が高く、極端な偏りは生まれにくくなるという。

 現在は3段階の“混雑度合い”の表示だが、実証実験では行列の人数あたりの所要時間なども調べている。今後はフライトスケジュールなどの外部情報を組み合わせることで混雑予測を立てて、具体的な待ち時間を「~分」と表示したり、「これから混雑します」と案内したりできるようにしていくとのこと。

■騒音の特性に応じて案内音声を明瞭化する「インテリジェント音サイン」

 空港ではトイレやエスカレーターなど、さまざまな箇所で視覚障害者向けの音声誘導を行なっているが、混雑しやすい場所では聞き取りにくくなる場合があり、かといって単純に音量を上げると空港内の快適さが損なわれるため、聞き取りやすさを改善する工夫が必要とされていた。

「インテリジェント音サイン」は、騒音をマイクで収集してその度合いに応じて音声案内データを加工し、より聞き取りやすい状態にしてスピーカーから流すというもの。NTTの音声明瞭化技術によって、騒音が増えると案内音声の特定の周波数帯を大きく引き上げて聞き取りやすく、騒音が減るとその制御を小さくして話者性を維持する。

 とはいえ、リアルタイムで騒音を拾って案内音声を明瞭化するにはマイクの追加など既存の設備をハードウェア的に置き換える必要があるため、今回の実証実験では「オフライン型」が採用されている。騒音のデータは収集する箇所によって一定の傾向がみられることが分かったため、設置箇所ごとの音声明瞭化を施すことで、既設の音声案内装置はそのままに、音声データだけを入れ替えて対応したという。

 現在は4階「TIAT SKY HALL」横のトイレのみが対応しているが、実際に聞いてみるとボソボソとこもった印象がなくなり、聞き取りやすくなっている。それでいて聴感上の不自然さはなく、うるさくも感じない。ただし、あくまで一般的に発生する騒音に対する明瞭化のため、空港全体に流れる航空会社のアナウンスのような非常に大きな音に対しては効果がない。NTTとしても、そうした特大ボリュームの音声(騒音)に対抗するつもりはないという。

■車椅子サポートの負担軽減と安全走行を実現するロボット電動車椅子「WHILL NEXT」

 2020年には6000人を超える車椅子利用者が東京を訪れると試算されており、空港での車椅子サポートは今後急速に負担の増大が懸念されている。すでに空港職員が1時間半近く付き添った例があったり、体重の重い利用者の車椅子を押すのに苦労したりといった報告もあるという。また、使い終わった車椅子を所定の場所へ戻すのにも人の手が必要だ。パナソニックはこの課題に取り組んでいる。

 2012年に設立したスタートアップのWHILLが生産・販売する電動車椅子をベースに、パナソニックがセンサーによる自動停止、スマートフォンによる自律走行、隊列走行機能を組み込んだのが、ロボット電動車椅子「WHILL NEXT」だ。

 ロボット化に際してまず着手したのは衝突防止と自動停止だったそうで、本体前方左右にレーザー光センサー(LiDAR:Light Detection and Ranging、ライダー)、本体前後に超音波センサーを搭載し、空港内の構造物はもちろん横から人が飛び出してきても停止できる。超音波センサーによって大きなガラスなどの存在も認識できるようにしている。

 自律走行はパナソニックの自律搬送ロボット「HOSPI」に搭載されている技術を転用しており、スマートフォンで目的地を入力すると、自動で経路を選択して走行する。隊列を組んで走行することも可能で、グループでの利用時にはぐれないように行動したり、使用後に職員が片付けるときに負担を軽減できたりするという。

 パナソニックの担当者によれば、すでに車椅子を使っている人向けというよりは、長いターミナルの通路を歩くのがつらい、疲れてしまうというときに気軽に利用してほしいそうで、障害者に限らず歩行が困難な人(PRM:Passengers with Reduced Mobility)に広く利用してもらいたいとのこと。

■情報を集約したサイネージからアプリに取り込む「LinkRay 多言語案内サイン」

 前述したとおり、訪日外国人が空港で困るのは「目的地までの公共交通の経路情報の入手」だという。京急や東京モノレール、リムジンバスなどの乗り場案内は掲示されているが、目的地までどう乗り継げばよいのかは個別に調べる必要があるため、きっぷ売り場で職員が対応するなど負担の増大が起こり、その対応待ちで列ができてしまう。

 パナソニックが用意したサービス「LinkRay 多言語案内サイン」は、LED光源の高速明滅パターンにデジタル信号(光ID)を埋め込む「LinkRay」技術を利用し、スマートフォンアプリで光を読み取ることで多言語情報を表示するというもの。

 渋谷、新宿、池袋など特に宿泊先として多く選ばれる10の地域への公共交通手段(京急、東京モノレール、バス、タクシー)の乗り換え案内や料金を、2階到着ロビーに大きなサイネージとして設置しており、「Shibuya」などと書かれた目的地名にアプリのカメラをかざすと、サイネージに表示している情報が手元のアプリに取り込まれる仕組み。サイネージは日本語と英語のみの表示だが、アプリ内では中国語(簡体字・繁体字)と韓国語にも対応しており、取り込んだ履歴をあとから参照することもできる(要インターネット接続)。これにより、電車に乗ったあとで乗り継ぎ先が分からなくなっても、自分の手元ですぐに確認できる。

 このサイネージではShibuyaなど目的地名の光源に光IDが使われているが、同じ2階にある京急のきっぷ売り場でも、券売機上部の路線図を照らす照明に光IDが使われており、アプリをかざすと路線図を取得できる。光IDを送信するための設備は比較的容易に設置できるそうで、案内表示のバックライトのようなものに限らず、スポット照明などの後付けでも簡単に実装できるとしている。

トラベル Watch,編集部:松本俊哉

最終更新:8/9(水) 20:51
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