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ポーランド、ハンガリーにもポピュリズム

8/9(水) 10:01配信

ニュースソクラ

反EU政策 しかし、EUの旨味は手放さず

 世界中でポピュリズムの動きが強まっている。とりわけ、英国の国民投票におけるEU離脱の決定、米国のトランプ大統領の誕生、トルコにおけるエルドアン大統領の強権独裁は三大ポピュリズムといえよう。

 これらに加えて無視できないのはポーランド、ハンガリーといった東欧諸国でのポピュリズムの台頭と民主主義崩壊の危機である。

 ポーランド、ハンガリーは「ベルリンの壁」崩壊後、直ちにソ連、ロシアの影響を逃れて北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。さらに、2004年にはEUにも加わった。

 EUはヒト、モノ、カネの自由な移動という経済的なメリットも重要であるが、元々「欧州に二度と戦乱を起こしてはならない」という平和の実現が究極的なテーマである。そのために、どんどんと東欧諸国を取り込んできた。その場合、東欧において共産主義、人権抑圧を脱して法の支配による民主化を図ることは最重要課題であった。

 しかし、東欧を代表するポーランド(EUで6番目の経済大国)、ハンガリーでは、ポピュリズム政党が台頭した。多くの国民が経済成長に取り残されて閉塞感を強め、かつ彼らがアフリカやシリアからの難民問題に反感を募らせる機会をうまく捉えて、民主主義の形骸化を図ってきた。

 もっとも有名なのはEUの難民割り当てをポーランド、ハンガリーともに強く拒否していることである。

 ポーランドでは2015年の大統領選、総選挙で福祉充実、大幅減税を公約に掲げた「法と正義」(PiS)が勝利を収めた。ちなみにポーランド出身のEUのトゥスク大統領は前与党の出身であり、PiSとは鋭く対立している。

 PiSのシドゥウォ首相は退職年齢の引き下げ、個人所得税の非課税枠を大幅に引き上げ、子供手当ての支給など国民受けする政策を次々に打ち出し支持を固めた。もちろん財政事情の悪化が懸念されている。その一方で同政権は憲法裁判所の無力化を図り、政権が決定した法案の違憲判断を事実上困難にした。

 同裁判所における違憲判断を裁判員の過半数から2/3に引き上げ、前政権が任命した判事選出を全て無効にする等の強硬策を講じた。EUではこうした憲法裁判所に対する相次ぐ介入がEUの基本理念である「法と支配」を軽視するものとして強く勧告を続けており、場合によってはEU条約第7条に基づく制裁発動(後述)も辞さないスタンスを示している。

 ハンガリーも2010年の総選挙で国民議会の2/3を占める圧勝によりオルバン首相が再選された。オルバン首相は基本的人権を無視し、言論の自由を制限して、難民を敵視する政策を取ってきた。

 オルバン首相は連立政権に有利な国会運営を期した憲法改正などを通じて基盤を固める一方で、難民問題ではポーランド同様にEUへの非協力的姿勢を示して国民の支持を広げている。ちなみに2016年10月に行われた国民投票では98%が難民割り当てに反対の意を示した(有効投票率に達せず投票自体は不成立になった)。

 最近話題となったのはハンガリー出身の著名投資家ジョージ・ソロス氏が1991年に創設した「中央ヨーロッパ大学」を閉鎖に追い込もうとしていることだ。社会のオープン化ひいてはハンガリーの民主化を標榜する同大を閉鎖してソロス氏の影響力を殺ぐのが狙いである。

 EUは5月17日、ハンガリーにおいて法の支配とデモクラシーの後退があるとして、ポーランドと同じくEU条約第7条(EUの価値観維持に向けて必要とあらば、欧州議会における投票権剥奪などの制裁を加える内容)の適用を検討する旨決議した。

 ポーランド、ハンガリーとも元々通貨ユーロへの加盟に消極的であったうえ、移民問題やCO2削減といった環境問題を中心に反EU的な行動に出ている。ただ、制裁措置であるEU条約第7条の適用はEUメンバーの全会一致が原則であり、ポーランド、ハンガリー、チェコが賛同しないため成立することはないとみられる。

 ポーランドはEU基金の最大の受益者であり、2014~2020年のEU予算では825億ユーロ(約10兆円)が配分されている。ハンガリーもインフラ投資の95%が政府とEU基金のジョイント融資であり、事情はポーランドと同じである。

 「EUの法の支配の理念や難民政策には賛同しないが、一方でEUを離れたくはない」というのが両国のスタンスである。

 EUにとって、このままポーランド、ハンガリーのデモクラシー後退を見過ごすようであれば英国の離脱に次ぐ打撃となる。しかし、NATOのリーダーたるべき米国のトランプ大統領が指導力を発揮して問題解決に向かうとも思えない。

 このままでは、ロシアのプーチン大統領が狙うNATOの弱体化、EUの分裂にも格好の材料となりかねない。とはいえ、EUの対抗策は決め手を欠き、ポーランド、ハンガリー国民のデモクラシーを取り戻すという覚醒を待つ以外に有効な手はなさそうだ。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:8/9(水) 10:01
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