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「塊が池から襲ってきた」異様な光景 流木『凶器』防ぐ決め手なく 九州豪雨

8/9(水) 10:13配信

西日本新聞

 「異次元豪雨」は流木がその被害を拡大させた。推計総量21万立方メートル。福岡ヤフオクドーム(福岡市)のグラウンドに敷き詰めれば18メートルもの高さになる大量の樹木が斜面ごと崩れ、土砂とともに流れ下った。

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 福岡県朝倉市杷木寒水(そうず)。7月5日夜、寒水川近くの女性は窓越しに、橋に流木が積み上がっている異様な光景を目にした。別の男性は「流木は複数の橋で建物の1階くらいの高さになっていた」という。

 せき止められた川は一気にあふれ、流木は「凶器」と化して集落を襲った。

 夫と自宅の庭に出ていた塚本潔子さん(69)は突然の濁流にのまれた。とっさに庭木にしがみついたが、夫は流された。救助された潔子さんは自宅脇の小屋に避難した。

 翌朝。長さ10メートルもの流木が何本も小屋の土台ブロックを突き破っていた。「思い出すのも恐ろしい。夫が助かったのがせめてもの救い」と振り返る。

ダムの限界超えた異常な雨量

被災地には、濁流で樹皮と枝がそぎ落とされ丸太のようになった流木が今も横たわる。ほとんどはスギなどの人工林だ。

 大分県日田市森林組合は市内約30カ所の土砂崩れ現場を調べた。倒木は6割が推定樹齢40年以上。被害箇所の3割は最近5年以内に間伐もされ、保水力は高かったという。

 同組合参事の和田正明さん(57)は豪雨の翌日、現地で大量に立ち上る白い蒸気を目撃した。「雨はしっかりと吸収されていた。緑のダムの限界をはるかに超えた異常な雨量だった」とみる。だとすれば-。

 国策で進められた植林により、人工林に覆われた急斜面は日本中にある。流木被害はどこで起きてもおかしくない。

「民家は一瞬で跡形もなくなった」

 治山・治水対策で被害を防ぐことはできないのか。

 朝倉市の寺内ダムは今回、流木1万立方メートルを食い止める機能を果たした。ただ、水資源機構の担当者は「流木がさらに多ければ放流口に引っかり、放流に影響を及ぼす恐れもあった」と明かす。

 水をため込んで下流域を守るダムは同時に、巨大なリスクもため込む。もし決壊すれは、膨大なダム湖の水が大洪水を引き起こす。

 それを想起させたのが、流量に耐えきれず決壊した同市山田の「山の神ため池」。そばに住む久保山正清さん(60)は「流木の塊が池から襲ってきた。民家は一瞬で跡形もなくなったらしい」。集落では3人が犠牲になった。

 砂防ダムが流木を防いだケースも一部にあった。だが福岡県内の整備率は4月現在で18%にとどまる。整備費は1カ所当たり2億~5億円で、県砂防課は「全集落を守るには100年以上かかるかもしれない」。

 九州大の小松利光名誉教授(防災工学)は「今回の豪雨は流木の脅威を見せつけた。これを防ぐのは困難だということを前提に、避難のあり方などソフト面の減災に防災施策の重点を移すべきだ」と訴える。

西日本新聞社

最終更新:8/9(水) 11:38
西日本新聞