ここから本文です

銀行がヘタリ始めたワケ

8/9(水) 13:00配信

ニュースソクラ

物言う株主に転換も

 日本では銀行の収益が悪化を続けている。全国銀行協会に加盟する116行の(一般企業の営業利益に該当する)業務純益は、2016年度に3.7兆円と、世界的な金融危機が発生した2008年以来の低水準に低下。同年度の当期純利益は2.9兆円と5年ぶりに3兆円を下回った。

 日本の銀行の収益悪化は、景気後退や不良債権処理によるものではない。日本のGDP成長率は、2016年第1四半期から今年第1四半期までの5四半期連続でプラス成長を記録。第2四半期以降もプラスを続けるとみられている。

 日本の銀行の不良債権比率は、2002年度に8.7%を記録したが、その後は不良債権処理が進み、2014年度には1.0%に低下。翌2015年度も1.0%を維持している。もはや、不良債権は収益圧迫の原因ではない。

 銀行の収益悪化の主因として考えられるのは、日本企業の資金需要の低下と日銀による金融緩和の2点である。日本企業(除く金融・保険)の自己資本比率は、2017年第1四半期に42.4%に上昇。日本企業が保有する現預金は189兆円(総資産の12%)に積み上がり、いずれも1954年第2四半期の統計開始以来の最高を更新している。

 一方で日本企業は、景気の先行き不透明感の高まりを背景に設備投資や賃上げに慎重なまま。設備投資や賃上げに必要な資金は、保有する現預金を取り崩すことで用意できるため、低金利とはいえ、日本企業は銀行融資を増やす必要がない。

 日本銀行は2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入。これにより、日本国債の利回りは5年債まですべてマイナス水準に低下し、当座預金の一部にもマイナス金利が適用されることになった。日本の銀行は、国債利回りの低下で保有国債の値上がり益を得ることができたものの、保有国債や当座預金から得られる金利収入が大きく低下した。

 日本の銀行は、金利収入の減少を補うべく、住宅ローンやカードローンの拡大に注力し、融資残高を増やし続けたが、日銀の金融緩和によって貸出金利は低下基調で推移。2016年度の貸出金利は1.10%と過去最低を更新した。

 こうした状況に直面した日本の銀行は、保有する有価証券の運用益を増やす努力を続けている。しかし日本の金融行政を担当する金融庁は、規模の小さい銀行の多くが、有価証券の運用体制が未熟で、運用ノウハウを有していないと考えており、有価証券運用の検査を厳しくする方針を示している。

 融資の収益性が悪化し、有価証券運用による収益拡大策を金融当局によって否定されている環境下で、日本の銀行が取りうる数少ない収益拡大策の一つは、株式を保有する企業に対し配当増や自社株買いの要求を強めることである。

 上述したように日本企業は、余剰ともいえる現金を保有しているが、日本企業の株主還元策は、欧米企業と比べれば依然として不十分である。たとえば代表的な株価指数から算出される配当性向は、米国やドイツが50%台だが、日本は30%台にとどまる。また純資産配当率(DOE)は、米国が7%台、ドイツが4%台であるのに対し、日本は2%台でしかない。

 最近では、ものを言う株主として知名度が高い村上ファンドの流れを汲むレノが、電子部品商社・黒田電気に対し、他社との経営統合や自社株買いによる株主への利益還元の拡充を訴え、その推進役として一橋大学大学院客員教授を社外取締役とする提案をし、賛成多数で可決された。

 物言う株主の提案が可決されたのは、2009年にアデランスホールディングス(現アデランス)の総会で米スティール・パートナーズが推す取締役選任案が可決されて以来、8年ぶりとなる。

 興味深いのは、レノが提出した株主提案が他株主からの賛同を得た点である。黒田電気が総会後に開示した臨時報告書によると、レノの株主提案の賛成率は58.64%だったが、レノ側が保有する黒田電気株は議決権ベースで37%に過ぎない。つまり他株主もレノ側が要求する利益還元の拡充策を支持したことになる。

 銀行が株式を保有する企業に対し利益還元を要求する姿は、日本の従来のビジネス慣行からすれば奇異に映るかもしれない。しかし日本の銀行が、収益悪化に苦しみ、選択肢が少なくなっている以上、彼らがものを言う株主に変身しても不思議ではない。

■村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。

最終更新:8/9(水) 13:00
ニュースソクラ