ここから本文です

羽生結弦「パリの散歩道」研究、陸上スケーターの夢

8/9(水) 8:30配信

日刊スポーツ

 浅田真央さんの引退後初のアイスショー「ザ・アイス」の大阪、名古屋公演の初日をそれぞれ取材した。既に多くの記事が書かれているためご存じの方も多いと思うが、浅田さんの歴代プログラムを高橋大輔さんら、ゆかりのスケーターが滑るメドレーは圧巻だった。中でも目を引いたのが、小塚崇彦さんによるバンクーバー五輪シーズンのフリー「鐘」の完全コピーだ。小塚さんは、過去の動画を繰り返し見て研究するだけでなく、浅田さん本人からも直接指導を受け「鐘」の難しいステップを見事に再現。フィニッシュのガッツポーズまで似せる凝りようだった。聞けば、自分の現役時代にもこれほど動画を見たことはなかったとか…。とにかく、愛にあふれた素晴らしい演技だった。

【写真】浅田真央さんアイスショーでファン魅了/写真特集

 同じようにコピーすることでフィギュアスケートへの愛を表現する人がいる。「陸上スケーター」こと川崎孝之さん(26)だ。安藤美姫さんのファンだった彼は、10年ごろからテレビの前でジャンプのまねをする遊びをし始め、11年からは陸上でさまざまなスケーターの演技を再現し、動画を発表してきた。

 まずは、9日現在「youtube」で39万回超の再生回数を誇る羽生結弦「パリの散歩道」の陸上版を見ていただきたい。羽生の衣装に似せた青のトップスと黒いパンツ。さすがに4回転ジャンプやスピンを再現することはできないが、跳び方、振り付け、髪をかきあげるしぐさまで研究し、陸上での最大限のコピーに成功している。川崎さんによれば、この「パリの散歩道」を再現するにあたり、ソチ五輪の演技だけでなく「いろんなアングルから研究したい」とすべての試合の動画を見尽くしたという。大変な手間だ。

 しかし、背景には思わずつっこみを入れたくなる。右手には漫画「ドラえもん」に出てきそうな民家が並び、左手奥の木の根もとでは、鳥がのんびりと歩いており、演技とのギャップに笑ってしまう。狙っているのかと川崎さんに聞くと、「違いますよ!」と笑って否定された。人目に付きにくく、跳んで回るのに十分なスペースがたまたまこの空き地だった。スマートフォンを設置し、そこから写る範囲に棒で線を引き、画面からはみ出さないように注意して、撮っていると明かしてくれた。

 昨年、川崎さんは仕事を辞め、故郷の愛知県から大阪へと出てきた。陸上フィギュアスケーターとしての活動を極め、さらには夢であるフィギュアスケート記者への道を開くためだ。しかし、生活は厳しい。地下鉄の乗車料金さえ切り詰めながら、日々フィギュアスケートの練習を続ける。「僕にとっても、勝負のシーズンなんです」。実際に体を動かしながら競技を見つめ続ける川崎さんの目は鋭い。平昌五輪に向けてフィギュアスケート熱が高まるとともに、彼の活躍する場がさらに増えることを願っている。

 ◆高場泉穂(たかば・みずほ)1983年(昭58)6月8日、福島県生まれ。東京芸術大を卒業後、08年入社。整理部、東北総局を経て、15年11月から五輪競技を担当。

最終更新:8/9(水) 8:52
日刊スポーツ