ここから本文です

「使われ続ける社内システム」ってなに? 四苦八苦アプリ改善の先にあるものとは

8/10(木) 8:10配信

@IT

 あらゆる業種において、ITがビジネスを支えることが当たり前となっている現在、顧客管理やパートナー企業との受発注などの社内業務をいかに迅速に行うかが、ビジネスの成否を分けるといっても過言ではない。このような意識を持つ企業は、「社内システムの“使いやすさ”をいかに改善していくか」を継続的に考え、自ら主導してシステム改善を進めている。

非常に横に長い画面構成

 kintoneは、開発の知識がなくても、自社の業務に合わせたビジネスアプリを容易に作成できるクラウドサービスだ。ユーザー企業も多く、kintoneの業務活用ノウハウやアイデアをユーザー企業同士が発表し、情報交換するイベント「kintone hive」が何度か開催されている。

 本稿では、サイボウズが2017年5月19日に東京・六本木アカデミーヒルズタワーホールで開催した「kintone hive tokyo vol.5」の講演から、ジーベックテクノロジーとリノべる、リクルートライフスタイルの3社をピックアップ。業務改善プロジェクト成功の秘訣(ひけつ)やアプリ開発の苦労、活用のコツなどを探る。

●入力動線とデータ活用法を改善してシンプルで使いやすいアプリへ:ジーベックテクノロジー

 ジーベックテクノロジーは、工具用研磨や切断、微細バリ取り用工具などの開発、製造、販売を手掛けている。長年手作業で行われていた金属加工時にできる“バリ”を取り除く作業の自動化も推進している。

 ジーベックテクノロジーは、営業部が顧客の部品情報や加工条件などを記録、管理するための顧客・案件管理システムをWebベースで自社開発し、2003年に導入。顧客数とデータ量の増大に伴い、2012年にクラウド型CRMツールへシステムを移行した。

 しかし、入力の動線や画面設計にツール特有の制限があったこと、システム会社に開発を依頼したものの費用面で妥協しなければいけなかった点が多かったことから、ツールのカスタマイズ開発が思い通りにいかなかった。移行当初は使っていたものの「次第にシステム自体が使われなくなってしまった」と、ジーベックテクノロジー 管理部マネージャーの本堂円氏は当時を振り返る。営業部からは、「入力の動線が営業の流れにそぐわない」「画面デザインが見づらい」「検索が使いづらい」などの不満が続出していたという。

 クラウド型CRMツールを2年間利用していたが、これ以上継続して使うのは難しいと判断。新たなシステムのプラットフォームとして、同社が注目したのがkintoneだった。「kintoneは、画面設計の柔軟性が高い、コストパフォーマンスが良い、社内にシステムエンジニアがいなくてもメンテナンスできることから、既存システムの課題を解決できると考え、2014年秋から導入を開始した」

 顧客・案件管理システムのリプレースに当たって、営業が入力する動線と見た目を精査し、データの入力画面を開発した。以前よりは使われるようになったものの、1つ大きな課題に直面したという。「ユーザーの入力漏れを防ぐために、1つの画面内で全ての入力を完結できるkintoneの『テーブル行』でシステムを開発した。しかし、入力項目数が多かったので、非常に横長の画面構成になってしまった」

 横長の画面のため、データを入力するときに横スクロールする必要があり、データの閲覧にも手間がかかる。また検索のしづらさも改善されていなかった。「ユーザーの入力の導線を重視したが、かえって不満の声が挙がってしまった」

 この課題を抱えたまま約1年が経過したころ、kintoneのカスタマイズ開発を手掛けるM-SOLUTIONSのセミナーに参加した。このことをきっかけに、同社を開発パートナーに迎え、顧客・案件管理システムの改修に乗り出す。

 最大の課題だったのは、横スクロール問題だ。まずは、横長になっている入力画面を再構築。顧客・案件管理システムにボタンを設置し、ポップアップウィンドウを表示するようにした。そのポップアップウィンドウに入力用のアプリを組み入れて、1つの画面に収まるように項目を集約。ポップアップウィンドウ内の保存ボタンを押すと、データが登録される。「入力の動線を改めて整理し、ユーザーにとって使いやすいシステムを実現した」

 併せて検索機能の充実も図り、データの一覧画面上に検索パーツを埋め込んだ。ユーザーがよく使う検索項目を画面上に一覧表示することで、探したいデータを素早く検索できるようにした。これにより、シンプルで誰もが使いやすい検索機能を実現したという。

 こうして、入力の導線と検索の使いづらさの両方を解決した本堂氏は、システムを開発する際の要件定義の問題について「入力に対する改善要望と検索に対する改善要望を集めたとき、入力の改善要望が多いと、それに偏ったシステムができてしまう」と述べる。

 しかも、時間がたつと、情報を検索する人が増えたり、ユーザーの使い方が変わったりする可能性がある。そのとき、最初に作ったシステムがユーザーのニーズに合わなくなってくる。「アプリの管理者としては、その時々の利用状況に応じて最適な利用環境を提供することが重要ではないか。業務アプリは開発したら終わりではなく、さまざまなビジネス変化に合わせて成長させていく必要がある」

●情報の統合でマーケティングを加速:リノべる

 リノべるは、不動産会社と施工会社、設計会社との連携体制によって、中古住宅のリノベーションプラットフォーム事業を展開している。現在、全国に21店舗を構え、2015年度は年間で400件のリノベーションマッチングを達成。そして、将来に向けた大きな目標として、2025年度に「年間1万件のマッチング」を掲げている。

 「これは、非常に高い目標であり、実現するためには、ITを駆使した業務改革が不可欠だ。またテレビでCMを大々的に打つことも難しいので、データを活用して、いかに効率的に市場を開拓していくかが求められる」と語るのは、リノべる 取締役CMO(最高マーケティング責任者)の渡会雄一氏。

 この取り組みの重要なキーポイントに位置付けられたのが、顧客管理システムの刷新だった。リノべるのサービスフローは、Web訪問から来場予約、物件探し、設計、施工、引き渡し、サポートまで約6カ月間のリードタイムで展開している。このプロセスの中で、さまざまな顧客情報が取得される。「だが従来の顧客管理システムでは、部門間での情報のやりとりが多い上に、それぞれで別システムが使われていたため、正確な情報が伝達されないケースも少なくなかった」

 そこで新たな顧客管理システムを自社開発とkintoneの2つで検討した結果、kintoneが最も条件にマッチすると判断し、導入を決定。「自社開発の場合、完成するまでに約7カ月必要だった。それに比べてkintoneは、開発期間が短くて済むことが分かり採用した」

 顧客管理システムの開発ポイントは、「営業案件データベース(DB)」を中心に、Web訪問から引き渡しまでの間、一気通貫でのデータ管理を実現したことだ。「今まで、マーケティング部門はGoogleスプレッドシート、営業部門は既存のCRMツール、設計部門はExcelと、それぞれ別々のシステムで顧客情報を入力していた。それが顧客システムへの入力1回で全ての情報を共有できるようになった」

 また業務の効率化を図るために、顧客管理システムとさまざまなアプリを連携したという。「顧客管理システムとMA(Marketing Automation)ツールをAPI連携することで、顧客情報とWebアクセス情報を合わせたセグメントを、3分程度で作れるようになり広告施策を打ちやすくなった」

 さらに顧客管理システムとBIツールを連携することで、リアルタイムのレポートを見られるようになったという。「以前は、情報をcsv形式で吐き出して、足りないところを電話で確認しながらレポートを作成していた。そのため、レポートの作成がマーケティング部門の仕事になっていた。現在は、BIツールでリアルタイムな状況を見られるようになって、レポート作成も容易になり、施策のPDCAサイクルも回しやすくなった」

 顧客管理システムの活用だけではなく、入力にも工夫を凝らした。システムへの入力方法を変更すると、ユーザーになかなか新しい入力方法が浸透しない。その問題を解決するため、部署ごとに慣れているインタフェースで入力用のアプリを作成したという。「設計部門は、使い慣れているExcelの入力形式を使い続けたいと強い要望があった。そのため、Excelライクなインタフェースの入力用アプリを作成した。現在は問題なく使ってもらっている」

 最後に渡会氏は、顧客管理システムの統合が「『社員全員が同じ数字を基に議論できる』『入力工数を削減し、本業に集中できる』『顧客データを武器としてマーケティングに活用できる』という3つの業務改革に結び付いた」と強調した。

●ユーザーフレンドリーなインタフェースをどのように実現するのか:リクルートライフスタイル/サインウェーブ

 リクルートライフスタイルは、2013年に新事業として、無料で簡単に使えるPOSレジアプリ「Airレジ」の提供を開始。ユーザーは順調に増えており、2017年3月時点で27万9000アカウントに達しているという。

 この「Airレジ」の普及促進を図るべく、2016年4月には、家電量販店との協業によるAirレジサービスカウンターを店舗内にオープン。現在は、家電量販店のパートナーを拡充し、全国にAirレジサービスカウンターを展開している。

 Airレジサービスカウンターのスタート当初は、販売パートナーとの業務環境をExcelで構築。しかし入力データの不備や業務負荷の増大などのさまざまな課題を抱えるようになっていた。「そこで、これらの課題を解消するツールとしてkintoneを採用。日々のデータを活用し、販売パートナーとのシームレスな情報連携と接客のPDCA実施によって、顧客に最高の利用体験を提供することを目指した」と話すのは、リクルートライフスタイルの奥山晃次氏。

 Excelベースの環境では申し込みデータの不備確認と修正を手作業で行っていたが、新システムでは入力チェック機能を組み込むことで、申し込みデータの3社間連携におけるリードタイムを最短化した。

 また、受発注データの管理では、閲覧権限を細かく設定するとともに、受注データの処理を自動化した。「発注業務を約10分の1に効率化し、発注処理効率を大幅に改善。接客情報の入力項目を拡充し、データの品質を高めたことで、1接客ごとの成約率が約4倍にまで向上した」(奥山氏)

 システム構築を手掛けたサインウェーブの鈴木佑介氏は、高いユーザビリティ実現への取り組みを紹介。「ドラック&ドロップで操作できる画面設計、ラベルやけい線などによるセクション表示によって、直感的なユーザーインタフェースを実現した。また、組織やユーザーごとに必要項目のみを表示するようにした」(鈴木氏)

 この他、スペース、アプリ、レコード、フィールドそれぞれにおいて、細かく権限を設定。その中で閲覧や編集などの最小限の機能と権限を解放し、できるだけ使いやすいようにシンプル化した。さらに、コミュニケーションにはメールではなく、アプリに付随しているコメント機能を利用。レコードに対してコメントを行うことで、部門間の認識の食い違いを起こりにくくした。

 「今回は、業務要件定義の段階から伴走をしたことで、業務上最適なシステム要件をユーザーと共に設計していくことができた。このことも、ユーザーフレンドリーなインタフェースの実現につながった」(鈴木氏)

 最後に、奥山氏が再び登壇し、「私たちは実現したいこととして、『顧客に最高の利用体験を提供する』を掲げた。ビジネスのゴールを認識し、システムの設計を始めたのが今回の取り組みにおける成功の一番のポイントだった」と講演を締めた。

 エンドユーザーが使い慣れているシステムを変えようとすると、なかなか浸透しなかったり、反発が起きてしまったりすることも少なくない。しかし、業務プロセスは時代によって変わるものであり、「使われ続ける社内システム」を開発するには、業務部門のニーズに合わせて、UIを改善したり、機能を追加したりすることが必要となる。時にはシステム自体を入れ替えて、業務を効率化しなければビジネスで勝ち残るのは難しくなるだろう。

 今回紹介した3社とも、エンドユーザーにシステムを使ってもらうために、四苦八苦しながら工夫を凝らしている。今後、「使われ続ける社内システム」を開発するときの参考にしてもらえればと思う。

最終更新:8/10(木) 8:10
@IT