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西成ジャズ、酔いしれ10年 飾らない街に根付く

8/10(木) 14:49配信

産経新聞

 日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区のあいりん地区「釜ケ崎」に根付いた音楽がある。立ち飲み屋で始まったジャズの生演奏「西成ジャズ」。プロの演奏家が日替わりでステージに立ち、観客は労働者から外国人旅行者までさまざま。飾らない街で愛されるジャズは今夏、誕生から10年を迎えた。

 ◆普段着で

 8日夜、西成区のバー「ドナ・リー」。ガラス張りの店内に、女性シンガーの迫力ある歌声が響いた。その背後で演奏するのは、ピアノとベース、ドラムの3人。リハーサルはほぼなしで即興で繰り広げられる演奏に、集まった酔客らが盛大な拍手を送った。

 入場料はとらず、好きな金額を払う「投げ銭」制。50分間のステージが終わると、客は財布から抜いた紙幣や小銭を次々とバケツに入れていく。週2回は聴きに来るという大阪府高石市の会社員、河俣裕幸さん(52)は「ジャズは堅苦しいイメージがあるけど、ここはそういう雰囲気がなくていい」。大阪市阿倍野区の無職、釜池節夫さん(66)は約8年前から通う大ファン。「普段着で来られるのが魅力」と笑みを見せる。

 ◆労働者前に

 西成ジャズ誕生のきっかけは、平成19年春にさかのぼる。ジャズドラマーの松田順司さん(55)=大阪市西成区=が、釜ケ崎の立ち飲み屋で友人のライブを手伝ったときのこと。客の多くは、ジャズを聴いたことがない地元の労働者。ステージに立つと、他では感じたことのない気迫があったという。「食らいつくような姿勢で聴いていて、裸にされるような気分だった」。半端な演奏は通用しない、と気が引き締まった。

 「釜ケ崎でジャズをやったら、おもしろいんじゃないか」。松田さんはスピーカーなどの機材をそろえ、同年夏から立ち飲み屋でライブを始めた。月1回の開催が週1回となり、いつの間にか「西成ジャズ」と呼ばれるようになった。現在は西成区内のバーなど3カ所で、週5~6日のペースで演奏を行う。

 ◆訪日客も

 西成で生まれ育った松田さんは「この10年で西成は急激に変わった」と振り返る。かつて客の半数は日雇い労働者だった。ニッカーボッカー姿でジャズを聴き、「今日は仕事なかったから、こんだけしかないねん」と僅かばかりの小銭を入れてくれた客もいた。最近は労働者の姿が少なくなり、区内外から多くのジャズファンが集うようになった。低価格の簡易宿泊所に泊まる外国人旅行客が来ることも増えた。

 10年前は「自分のやりたい演奏をしていた」という松田さん。今では「お客さんが喜んでくれることが第一。元気を届けられたら」と思うようになったという。松田さんは「ハードルを下げて、気軽に聴けるスタイルを続けていきたい」とほほ笑んだ。

 13日には、10周年記念ライブが「ドナ・リー」で開かれる。事前予約ですでに満席だが、当日は立ち見も受け付ける。問い合わせはメール(asagasuki@ezweb.ne.jp)。

最終更新:8/10(木) 15:12
産経新聞