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パワーユーザー待望の16コア/32スレッド環境を実現する「Ryzen Threadripper 1950X」をテスト

8/10(木) 22:00配信

Impress Watch

 8月10日、AMDはハイエンドCPU「Ryzen Threadripper」を発売した。今回、発売に先立って、16コア32スレッドの「Ryzen Threadripper 1950X」と、12コア24スレッドの「Ryzen Threadripper 1920X」をテストする機会が得られたので、AMDの最新鋭ハイエンドCPUの実力をベンチマークで確認してみた。

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■Socket TR4プラットフォームで展開されるRyzen Threadripper

 Ryzen Threadripperは、ZenマイクロアーキテクチャをベースにしたハイエンドCPUで、CPUソケットには既存のSocket AM4ではなく「Socket TR4」を採用する。

 今回テストするCPUのうち、Ryzen Threadripper 1950Xは、現時点でRyzen Threadripperシリーズの最上位に位置する16コア32スレッドCPUで、DDR4-2666のクアッドチャネルに対応するメモリコントローラや、64レーンのPCI Express 3.0レーンを備える。TDPは180W。

 Ryzen Threadripper 1920Xは、上位モデルから4コアが削減された12コア24スレッドCPU。CPUコアは減ったが、メモリコントローラやPCI Express レーン数は上位モデルと同等で、TDPも同じく180Wとなっている。

 Socket TR4に対応するRyzen Threadripperのパッケージはかなり大型で、その内部ではMCMで実装された2つのCPUダイが有効化されている。

 Zenでは4つのCPUコアと8MBのL3キャッシュを備えるCCXモジュールを基本としており、Ryzen ThreadripperのCPUダイはそれぞれ2基のCCXモジュールを備えている。2つのCPUダイが備えるCCXモジュールの全CPUコアを有効にしているのが、16コア32スレッドCPUのRyzen Threadripper 1950X。Ryzen Threadripper 1920Xでは、各CCXモジュールのコアを1基ずつ無効化することで、12コア24スレッドを実現している。

 Ryzen Threadripperが備えるメモリコントローラは、最大でDDR4-2666のクアッドチャネル動作をサポートしているが、Socket AM4向けRyzen シリーズ同様、搭載するメモリモジュールのランクや枚数によってメモリクロックの上限は制限される。

 また、Ryzen Threadripperには、「Distributed」と「Local」という2つのメモリアクセスモードが用意されている。標準の動作モードはDistributedモードで、これは全てのメモリチャネルを束ねて帯域幅を稼ぐモードだ。対するLocalモードは、各CPUコアが物理的に最も近いメモリに優先してアクセスするモードで、低レイテンシでのアクセスが可能となる。

 AMDによれば、Distributedモードはメモリ帯域幅を必要とするクリエイター向けアプリケーションに適し、Localモードはゲームに適しているという。両モードの切り替えはユーティリティツール「Ryzen Master」から切り替え可能(要再起動)となる予定だが、今回はまだRyzen Masterでメモリアクセスモードの切り替えができなかった。この機能については、また別の機会があれば検証することとしたい。

■テスト機材

 今回はRyzen Threadripperのレビュアー向けキットとしてCPU 2モデルのほかに、Socket TR4対応マザーボード「ASUS ROG ZenITH EXTREME」、DDR4-3200メモリ「G.Skill F4-3200C14Q-32GTZR」、オールインワン水冷クーラー「Thermaltake Floe Riing RGB 360 TT Premium Edition」、電源ユニット「Thermaltake Toughpower iRGB PLUS 1250W Titanium」を借用した。

 なお、レビュアーズガイドの記載にもとづき、Ryzen Threadripper検証時はWindowsの電源プロファイルを「AMD Ryzen Balanced」に設定したほか、メモリについてはG.Skill F4-3200C14Q-32GTZRのXMPにもとづきDDR4-3200動作で利用している。なお、このメモリ設定についてはCPUの動作保証範囲外であるため、すべてのロットで動作する保証はない。

 Ryzen Threadripperの比較対象として、Socket AM4向けRyzenの最上位モデル「Ryzen 7 1800X」と、Intelの10コア20スレッドCPU「Core i9-7900X」を用意した。ただ、今回は機材を借用できる期間が短かったため、Ryzen Threadripperと比較製品間で、電源ユニットやCPUクーラーなどを統一できなかった。性能への影響は大してないはずだが、消費電力には多少影響がでることをあらかじめご了承いただきたい。

■ベンチマーク結果

 今回実行したベンチマークテストは、「CINEBENCH R15 (グラフ1)」、「x264 FHD Benchmark (グラフ2)」、「HandBrake 1.0.7 (グラフ3)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 6 (グラフ4)」、「PCMark 10 (グラフ5)」、「SiSoftware Sandra Platinum (グラフ6~12)」、「3DMark (グラフ13~15)」、「VRMark (グラフ16~17)」「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク (グラフ18)」、「Ashes of the Singularity: Escalation (グラフ19)」、「オーバーウォッチ (グラフ20)」、「The Witcher 3 (グラフ21)」、「Ghost Recon Wildlands (グラフ22)」、「Watch Dogs 2 (グラフ23)」。

 CINEBENCH R15では、Ryzen Threadripper 1950Xが3,000を超えるスコアでトップに立っており、これはCore i9-7900Xを約37%上回るものだ。Ryzen Threadripper 1920XもCore i9-7900Xを約9%上回っており、コア数でCore i9を上回るRyzen Threadripperのマルチスレッド性能の高さが示されている。

 一方「Single Core」では、Core i9-7900XがRyzen Threadripperより約18~21%高いスコアを記録しており、シングルスレッド性能に関しては、高クロックで動作するSkylakeベースCPUに分があることがわかる。

 動画エンコード系のテストでは、実行したアプリケーションや動画形式によってCore i9との優劣が分かれる結果となった。

 H.264形式への変換を行なう「x264 FHD Benchmark」では、1950Xが約10%、1920Xでも約4%、それぞれCore i9-7900Xを上回った。「Handbrake 1.07」でH.264形式への変換を行なった場合、この差はそれぞれ約25%と約8%へと拡大したが、「TMPGEnc Video Mastering Works 6」では1950Xで約7%差に縮み、1920Xは僅差ながら逆転されるという結果となった。

 H.265形式への変換ではCore i9-7900Xが強さを見せており、Ryzen ThreadripperがH.265形式へのエンコードでCore i9を上回ったのはHandbrake 1.07における1950Xのみで、TMPGEnc Video Mastering Works 6ではCore i9-7900Xに約14~27%の差をつけられている。

 ただ、Handbrake 1.07やTMPGEnc Video Mastering Works 6では、Ryzen ThreadripperのCPU使用率は7割前後となっており、すべてのCPUコアをフルに使いきれていない。今後最適化が進めば性能が改善する可能性はありそうだ。

 PCの総合的な性能を測るPCMark 10では、シングルスレッド性能に優れるCore i9-7900Xが優勢だが、Gamingに関してはRyzen Threadripper 1950Xが最高スコアを記録している。これは、Gamingのテストの1つである3DMark Fire Strikeの「Combined Score」のスコアが強く反映された結果のようだ。

 CPUの演算性能を測定するProcessor Arithmeticでは、Ryzen Threadripper 1950XがCore i9-7900Xを整数演算で約24%、浮動小数点演算で約37~41%上回りトップスコアを記録した。1920Xは整数演算でi9-7900Xに約2~4%の差をつけられたものの、浮動小数点演算では約8~11%上回った。

 一方、マルチメディア処理の性能を測るProcessor Multi-Mediaでは、AVX-512をサポートするCore i9-7900Xが傑出したスコアを記録している。今後、動画のエンコードなどでAVX-512の恩恵を得られるようになれば、現在よりもCore i9の性能は高いものとなるだろう。

 暗号化性能を測るProcessor Cryptographyでは、「Encryption/Decryption Bandwidth」で1920Xが1950Xを上回るというRyzen Threadripper間での逆転現象が発生している。これはメモリ帯域がスコアに大きく影響するテストであり、後述する1950Xと1920Xのメモリ帯域の差が反映された結果と考えられる。

 メインメモリの帯域幅を測定するMemory Bandwidthでは、OCメモリを用いてDDR4-3200のクアッドチャネル動作を実現したRyzen Threadripperが約62~68GB/sを記録している。

 Ryzen ThreadripperとそのほかのCPUの差は、使用しているメモリの差を考えれば妥当な結果といったところだが、1950Xと1920Xで約5GB/sの帯域差がついている点は気になるところだ。この帯域差は先述した暗号化テストの結果にも反映されており測定誤差というわけでもないのだが、機材や動作設定などから適当な理由をみつけることはできない。OCメモリを使用しているため、あるいはプラットフォームとしての熟成不足によって生じている差なのかもしれない。

 キャッシュの帯域幅を測定するCache Bandwidthでは、コア数の差がベンチマーク結果に反映されており、Socket AM4向けのRyzen 7 1800XとRyzen Threadripperのグラフはよく似た形状となっている。レイテンシを測定するCache & Memory Latencyでも、Ryzen系CPUの結果は近似しており、キャッシュの特性がSocket AM4向けのRyzenから大きく変更されていないことが見て取れる。

 3Dベンチマークの定番である3DMarkからは、「Time Spy」、「Fire Strike Ultra」、「Fire Strike」の3テストを実行した。

 それぞれのCPUスコアやPhysicsスコアではRyzen Threadripperのマルチスレッド性能の高さがスコアに反映されているが、GPU負荷が高いTime SpyやFire Strike Ultraでは総合スコアに大した影響を与えていない。

 一方、GPU負荷が比較的低いFire Strikeでは、CPUとGPUの複合スコアである「Combined Score」において、1950Xが優れた性能を発揮した結果、総合スコアでもCore i9-7900Xを約7%上回っている。

 VRMarkでは、高GPU負荷の「Blue Room」ではGPU側がボトルネックとなることでスコアやフレームレートが横並びになっている一方で、低GPU負荷の「Orange Room」では、Ryzen ThreadripperがRyzen 7 1800Xすら下回るという結果になっている。

 シングルスレッド性能ではRyzen 7 1800Xと同等以上の性能を持つRyzen Threadripperがこれほど低い性能となっているのは、MCMによって2つのダイを実装したRyzen Threadripperの構造がVRMarkと相性が悪いためとも考えられる。今回はテストできなかったが、メモリアクセスモードの変更などで性能の改善が期待されるベンチマークの1つだ。

 ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークでも、GPU負荷の低いフルHD解像度でのテストでRyzen ThreadripperがRyzen 7 1800Xを下回っている。ただ、先のVRMark Orange Roomほど大きな差ではない。

 CPUのマルチスレッド性能が重要なAshes of the Singularity: Escalationでは、Ryzen ThreadripperがRyzen 7 1800Xより優位に立っているが、多くのゲームではRyzen 7 1800XやCore i9-7900Xと、Ryzen Threadripperの間に大きな差はつかなかった。

 VRMarkのように200fpsを超えるような高フレームレート環境になると話が変わってくる可能性はあるが、今回テストしたゲームタイトルと描画設定では、多くの場合他のCPUと同程度にGeForce GTX 1080の性能を引き出せており、Ryzen Threadripperがゲームをとくに苦手としているというわけではないようだ。

 ワットチェッカーで測定した消費電力をまとめたものが以下のグラフだ。なお、Ryzen ThreadripperとそのほかのCPUでは、CPUクーラーや電源ユニットが異なる点に留意してほしい。

 Ryzen Threadripperのアイドル時の消費電力は98Wとなっており、機材の差を考えてもかなり高めの消費電力となっている。ちなみに、Windowsの電源プロファイルを「バランス」に変更すると90W前後まで低下することから、省電力機能がしっかり作動するように設定すれば、もう少しアイドル時消費電力を抑えられる可能性はあるようだ。

 CPUが高負荷になるベンチマークテストでは、Ryzen Threadripperの消費電力は260W前後となっている。ゲーム実行時の消費電力は300W台で、とくにCPU負荷の高くなる状況では350~370W程度まで消費電力が増加しており、GPUとCPUの両方に高負荷を掛ける用途で利用するなら、電源ユニットの出力には十分な余裕を持たせておきたい。

 各ベンチマーク実行中のRyzen ThreadripperのCPU温度をCore Temp v1.9で測定した。

 なお、Ryzen Threadripperの温度センサーは、実測温度より27℃高い温度を報告する仕様となっており、テスト時点で最新版であったCore Temp v1.9はこの値をそのまま表示する。このため、グラフではCore Temp v1.9が表示した数値を「センサー値」、そこから27℃引いた数値を「補正値」としてグラフ化した。

 補正値を反映した場合、Ryzen ThreadripperのCPU温度はピーク時でも60℃台前半と、十分低い温度に抑えられているように見える。だが、Ryzen Threadripperの最大温度は68℃であるため、最大動作温度までの余裕はそこまで大きなものではない。Ryzen Threadripperの性能を十分に発揮させるためには、かなり高性能なCPUクーラーを用意する必要がある。

■強力なマルチスレッド性能と、いくつかの課題を抱えるRyzen Threadripper

 16コアを備えるRyzen Threadripper 1950Xのマルチスレッド性能はたいへん優れたものであり、CINEBENCH R15のようにその性能を十分に発揮できれば、競合となるCore i9-7900Xを圧倒することもできる。

 ただ、その優れたマルチスレッド性能を発揮するには、ソフト側の最適化や、Socket TR4プラットフォーム自体の熟成が必要であろうことが、今回のテストで見えた課題だ。動画エンコードソフトがRyzen Threadripperに最適化され、Socket TR4プラットフォームもメモリアクセスモードなどの全機能を利用できるようになれば、より良い結果が得られるテストもあるだろう。

 また、発売時点ではRyzen Threadripperの価格が高く、Core i9-7900Xの実質的な競合製品が下位モデルである1920Xになっており、期待されていたほどのコストパフォーマンスがないのも惜しいところだ。プラットフォームの成熟にせよ、販売価格の落ち着きにせよ、Ryzen Threadripperは今後の展開にも期待したいCPUだ。

PC Watch,三門 修太

最終更新:8/10(木) 22:00
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