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「このくらいの雨なら大丈夫」避難渋る高齢者救う共助 九州豪雨

8/10(木) 10:40配信

西日本新聞

 福岡県東峰村の室井保子さん(86)は村役場から徒歩5分ほどの自宅に1人暮らし。あの日、猛烈に降り続いた雨は午後2時すぎ、小康状態になった。そこに民生委員を務める近所の男性が訪れる。

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 男性は「おばちゃん逃げないけんよ」とせかした。ミシンで縫い物をしていた室井さんは「行かなくちゃいけませんかねえ」と渋った。それでも「高齢の1人暮らしだから」と強く説得され、自宅を後にした。

 2日後の7月7日。避難所から歩いて帰った室井さんは自宅周辺の光景に目を疑った。路肩は崩れ、そばのJR大行司駅は駅舎に土砂が流れ込み、ぺしゃんこに。「あの時、避難しなかったら…」。恐ろしさがこみ上げてきた。

 「このくらいの雨なら大丈夫」「もう年だし」「避難所では眠れん」-。危険が迫っても避難しようとしない人の存在は、災害のたびに指摘されてきた。

 今回の犠牲者にも、逃げるよう促されたが動かず、自宅とともに土砂にのみ込まれた人がいる。結果的に助けられず、痛恨の思いを抱える人も少なくない。

「周囲の声掛け」有効

 「人には物事をいいように解釈する性質がある。人間ドックで引っ掛かっても再検査しない人が多いのと同じです」。地域防災に詳しい滝本浩一・山口大大学院准教授はこう指摘する。人が危険を認めようとしないのは、精神の安定を保つため。心理学で「正常化の偏見」と呼ばれる。

 この克服には「周囲の声掛け」が有効だ。「人間ドックの再検査も家族や周囲に説得されると行く。防災も共助が自助を促す」と滝本准教授は説く。

 東峰村の室井さんを救ったのも「共助」だった。村は一昨年、避難が困難な要援護者をリストアップし、一緒に逃げる人を決めていた。男性が室井さん宅を訪ねたのもそのためだった。

地域防災力の維持は「風化」との闘い

 実践例はほかにもある。氾濫した花月川沿いの大分県日田市吹上町は、定年退職者や個人事業主などを支援員とし、高齢者や障害者などに割り振っていた。今回、約60人の要援護者全員を避難させ、人的被害を出さなかった。

 同県中津市耶馬渓町の宮園集落では、自治委員らが低地や水路近くに暮らす人から順に連絡し、公民館長が車で高齢者を移送した。いずれも2012年の九州北部豪雨を教訓に、きめ細かな備えをしていた。

 ただ、地域防災力の維持は「風化」との闘いだ。

 14年に77人の犠牲者を出した広島土砂災害。広島市の八木ケ丘町は災害後、集会所に設置した雨量計の数値に基づき、避難を促す仕組みを整えた。だが避難者は徐々に減り、最近は3人のことも。町内会の宮上清澄会長は言う。「人は数年で忘れるし、慣れる」

 「異次元豪雨」から1カ月がたち、九州は本格的な台風シーズンを迎えた。個人の弱さを克服し、自分たちの命を守るため、地域ぐるみで手だてを講じる時だ。

西日本新聞社

最終更新:8/10(木) 10:40
西日本新聞