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<小林武史さん>apバンクが3億円出資 人気音楽プロデューサーが被災地で芸術祭を企画した理由  

8/11(金) 9:00配信

毎日新聞

 東日本大震災で被災した宮城県石巻市を舞台に、アートと音楽と食の総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル2017」(RAF)が開催中だ(9月10日まで)。仕掛け人の小林武史さん(58)はMr.Children(ミスチル)やサザンオールスターズなどの人気バンドを手掛け、数多くのヒット曲を世に送り出してきた日本屈指の音楽プロデューサー。亀山紘・石巻市長と共に実行委員長を務める小林さんに開催する目的などを聞いた。【聞き手・永田晶子】

 --音楽のプロである小林さんがアートを中核とする芸術祭を提唱したのはなぜでしょうか。

 ◆さかのぼると2011年、東日本大震災の被災地で僕が代表理事を務める「apバンク」(坂本龍一、ミスチルの桜井和寿の両氏と共に03年に設立した一般社団法人)がボランティアをしたのが始まりですね。apバンクは環境保全活動や自然エネルギーの活用に取り組む団体・個人に融資する活動を中心にやってきて、その中で地域の問題にも目が向くようになった。今、経済の物差しで全てが測られ、価値観まで均質化するグローバリズムが世界を席巻する中で、取りこぼされたり、ひずんだり、壊れていく地域がたくさんあって、被災地もそうなんじゃないかと思う。自分たちに何かできないかと考えていた時に、地域おこしに芸術祭が有効だと知った。これまで「apバンク・フェス」を継続的に行ってきたけれど、音楽イベントは“瞬間風速”なんですよ。開催が数日だから。でも、芸術祭ならより長い期間、地域で活動できるし、もっと多くの人に参加してもらえる。

 アートディレクターの北川フラムさん(70)の影響も大きいですね。北川さんは芸術の力で地域から社会を変えようと考え、実践している人。震災後、北川さんが手掛ける「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟県十日町市など)を初めて見に行きました。地元の人と外から来たボランティアが混ざり合って生き生きと活動し、すばらしいと思った。やはり北川さんが手掛ける瀬戸内海の島々を舞台にした「瀬戸内国際芸術祭」や、ベネチア・ビエンナーレ(イタリア)といった国際美術展にも行きました。気付いたのはグローバリズムによるゆがみや矛盾をテーマにする作家が多いこと。普遍的な生と死やapバンクが目指す「サステナブル(持続可能)な未来」を考えさせる作品も多かった。多様な問題を照射する現代アートは被災地の現状を知り、考えるために役立つと考えるようになりました。

 具体的に動き始めたのは12年秋ごろ。人類学者の中沢新一さんや、美術部門のディレクターを依頼したワタリウム美術館の和多利恵津子館長と和多利浩一・最高経営責任者(CEO)と共にアイデアを練り、宮城県や石巻市に開催を働きかけました。北川さんにも顧問に入ってもらっています。

 --開催地に石巻市を選んだのは。

 ◆震災後の3月19日、炊き出しのためにapバンクのスタッフと宮城県沿岸部に向かい、南三陸、気仙沼、石巻と回りました。石巻はありとあらゆる人工物が巨大なミキサーにかけられて空から振り落とされたみたいで、言葉を失った。その後、apバンクとして仮設トイレを持って行ったり、ボランティアの送迎バスを東京から出したりといった支援活動を始め、石巻専修大学のグラウンドにボランティア用テントを張らせてもらいました。僕も石巻に100回以上、通ったかな。

 石巻に縁ができて分かったのは、この地は牡鹿半島や金華山など、本当に雄大で美しい自然が残されている。でも、そのすばらしさはあまり知られていないんです。地域芸術祭は“旅情”というか、観光の要素も大事ですから、石巻ならそうしたニーズにも応えられると思った。

 --リボーンは「再生」を意味し、テーマに「これからの自分に出会う旅」を掲げました。

 ◆被災地の「再生」を願って名付けたのは無論、RAFを訪れる人も石巻で新たな価値観に出合ってほしいという思いを込めました。震災で石巻は多くを失った。ここに来ると死や生きる意味を含めて本当にいろいろなことを感じ考えさせられるし、その分、多様な「出会い」が可能だと思います。

 都会にいるといや応なく、経済効率や合理化の渦に巻き込まれてしまう。音楽をやっていて最近感じるのは、全体的に“分かりやすいもの”へどんどん向かっている。経済力学で言えば、大勢の人に食べて(聞いて)もらえることが重要で、そのためにどうすればいいかという発想になる。その結果、微妙な感情のあやや複雑さが含まれた作品は排除される傾向が強まっていると感じる。かつて東京は刺激的で多様なものが集まり、異質なもの同士が出合える場だったけれど、今はそういう気がしなくて。むしろ石巻のように、経済的繁栄と距離がある地方の方がクリエーティブなものが生まれる可能性があると思う。

 --美術部門は国際的に活躍する独のカールステン・ニコライさんや草間弥生さん、名和晃平さんら、国内外から約40組の作家が参加しています。

 ◆市街地と牡鹿半島中部、同半島先端部の3地区で作品を展示しています。市街地は空き店舗や廃業した映画館など屋内展示が多く、それ以外は野外がメイン。作品を回ることで被災地の現状と向き合い、豊かな自然にも触れることができる。アートだけでなく、音楽プログラムや地元産食材を使った「食」の紹介にも力を入れています。老若男女、みんなが楽しめるイメージで組み立てました。

 --お勧めのアート作品はありますか。

 ◆個人的に好きなのは岩井優さんの野外オブジェ。ドーム状の構造物に廃棄された日用品や動物の骨をくくりつけ、風化していく過程を見せる趣向です。RAF開催直前、「What is Art?」というコンセプトソングをリリースしたんだけど、「アートって何?」という歌詞に呼応している気がして気に入っています。

 僕もビジュアルデザインスタジオ「WOW」などと組んで光と音楽のインスタレーションを制作、出品しています。「出会い」を象徴的に表現した作品なので、ぜひ見てください。

 --RAFと他の地域芸術祭の組織的に大きな違いは、事業費の半分(約3億円)を民間の非営利組織であるapバンクが出資していることだと思います。その理由は。

 ◆「生きたお金を使いたい」ことに尽きると思う。apバンクの資金は公的なものですから、透明性を確保しつつ、有意義な形で社会に還元したいと考え、活動を展開してきました。芸術祭は地域の魅力を広く発信することができ、アートが持つ「つなげる」力が地域や人材育成に果たせる役割は大きい。10年後、20年後の実りに向けて、種をまくためには継続開催が必要だと実感しているので、最大限努力をしていきたい。ぜひ石巻を訪れ、RAFを応援してください。

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<略歴>

 こばやし・たけし 山形県生まれ。Mr.Childrenやサザンオールスターズ、レミオロメンなど人気バンドのプロデュースを手掛け、編作曲家やミュージシャンとしても活動。1991年、日本レコード大賞編曲賞を受賞。「apバンク」代表理事。

<開催概要>

リボーンアート・フェスティバル2017

 宮城県石巻市で9月10日まで(同実行委員会・apバンク主催)。観賞パスポート(2日間有効)一般3000円、学生・シニア2000円、中学生以下無料。詳細はhttp://www.reborn-art-fes.jp/

最終更新:8/11(金) 18:38
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