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旧ウォークマンのものづくりを受け継いだDJオーディオ機器「GODJ Plus」秘話

8/11(金) 7:00配信

アスキー

世界初となる自立型のDJシステム「GODJ」が発売されてから4年、後継機種がお目見えしたとのことで、株式会社JDSoundの宮崎晃一郎代表に話を伺った。
 2012年末、世界初のバッテリー駆動によるオールインワンDJシステム「GODJ」が発売された。それまでDJシステムと言ったら高価で大きな機器を指していたが、「GODJ」は重さ286gと持ち運べるコンパクトボディーが人気でブレイク。そしてそこから4年。後継機種がお目見えしたとのことで、「GODJ」を手がける株式会社JDSoundの宮崎晃一郎代表に話を伺った。
 

「GODJ」から4年、後継機種「GODJ Plus」がお目見えした
 「GODJ」発売から4年。これまで旧GODJにおいてソフトウェアで解決できる部分に関してはアップデートで解決してきたが、ハードウェア的な部分への要望も多かったことが新機種開発のきっかけにあったという。
 
 「そろそろ一新したいと考えていたが、まだまだ小さいベンチャーなので何千万単位の資金を準備して新製品を作るのは難しい。それでクラウンドファンディングに挑戦となった。2011年に宮城県仙台市で被災をして震災後に起ち上がった我々の会社が、さらに実際に津波をかぶった石巻市でものづくりをする、というストーリーに共感していただけたのも大きかったのではないか」(宮崎氏)
 
 「GODJ」の後継機種の名前は「GODJ Plus」。クラウドファンディング「Makuake」を利用し、目標金額は2000万円とした。予約価格は3万7800円と、この手の製品としては格安。モノだけではないストーリーは大きな反響を生む。結果は1292人がサポーターとなり、約5300万円、日本では当時の最高獲得金額が集まった。購入ユーザーの地域を見ると人数の多い東京、神奈川に続いて、宮城県、福島県が入っているという。
 
 だがその後1年間は、期待に応える製品を作らねばというプレッシャーで宮崎氏としては精神的にきつい日々が続く。当初予定では2016年10月末の予定だったが、結果的には約5ヵ月の遅延となり、2017年3月にリリースされ、一般販売は2017年4月28日のスタートとなった。しかし、サポーターの期待をいい意味で裏切る製品に仕上げられたと宮崎氏は胸を張る。
 
 Makuakeで募集をかけたのと前後し、2016年3月28日にアスキーの主催のIoT/ハードウェアスタートアップのビジネスイベント「IoTH/W BIZ DAY」にも展示している。
 
 「あの時は、まだようやく動いた1台を持ってきたが、かなり厳しいスケジュール。これまでも経験はしていたが、量産まで持っていくのはやはり難しい。ノーミスでは進まず、つまづくところは大体つまづくもの。クラウドファンディングでサポートしていただいた皆さまには進捗報告を忘れずに行うことで、どうにか走り抜けられた」
 
 日本のハードウェアスタートアップが5000万円以上を集めるというのはまさに快挙。統計データによると、9割のサポーターが30~40歳代の男性だった。ガジェット好きで、音楽好きで、古いラジカセのような香りがするところに惹かれる人のツボにはまったのだろう。かくして、2台のプレイヤーとミキサーが合体していて、なおかつバッテリー駆動、という世界初のオーディオDJハードが生まれた。
 
コンパクトながらスピーカーの実力は本物
 「GODJ」をヘビーに使い続けてくれていたユーザーの多くは、「GODJ Plus」を購入してくれたようだ。宮崎氏は一部のユーザーとはTwitterなどで定期的に連絡を取っているそうだが、クラウドファンディングの話をすると即飛びついてくれたという。
 
 そのため、「GODJ」と「GODJ Plus」の2台持ちユーザーのための機能も搭載した。たとえば、データベースの移行機能。DJなら楽曲は所有しているはずなので、それはまた取り込めばいいだけだが、曲ごとに再生する頭の位置を決めたデータの再設定には手間がかかる。これをデータベースとしてコピーできるようになっているのだ。
 
GODJ Plus
本体サイズ282×210×40mm
重さ1125g
オーディオ端子RCA出力、ヘッドフォン出力、ステレオ入力、マイク入力
インターフェースmicroUSB(充電およびPC接続用)、USB-A(USB機器用)、SDカードスロット
容量16GB(音楽データ領域14GB、録音領域1GB、システム領域1GB)
連続再生時間LCD点灯時12時間、LCD消灯時24時間
付属品USBケーブル、簡単マニュアル兼保証書
価格5万3784円
 筐体はA4サイズで、ノブの数は「GODJ」の6個から16個に大幅増加。充電はmicroUSBで、連続再生時間はLCD点灯時で12時間、消灯時なら24時間だ。
 
 インタビュー中、実際に端末を動作させているところを見せてもらったが、スゴイ音だった。コンパクトなボディなのに、クリアで迫力のあるサウンド。7割くらいのボリュームで、さすがに会議室ではこれ以上は無理というところまでになった。指向性は高くなく、全方位でキレイに聞こえる。コンパクトなスピーカーにありがちな低音強調もなく、「GODJ Plus」は低音も出るが、高音も出ているのがいい感じ。
 
 飲食店でのDJイベントにはもちろんぴったりだろうが、ホームパーティや屋外でのバーベキューや花見など、これまでDJ機器を持ち込めなかった場所でこそ本領を発揮できそうだ。電源がなくても動作するので、手軽に持ち運べる。
 
 「狙った効果ではないが、そこまで遠くまで音が飛ばなかった。機体の周囲にはしっかり音が通るものの、お隣さんにはあまり迷惑をかけずにすむ」(宮崎氏)
 
 さらにものづくりの点でも、国内工場を起点に大きな改善が図られている。
 
組み立て工場でのミスはほとんどゼロ 日本のすごいものづくり
 前機種に比べて、日本でのものづくりの比重が高くなっているのもGODJ Plusの特徴だ。
 
 宮崎氏は構想を練っている際、地元仙台市の職員と話し、被災後に受注が減っているが、すごくいい工場があると紹介してもらう。かつてソニーのウォークマンを何万台も出荷した実績がある工場で、そこの役員と話すうちに、被災地でのものづくりというストーリーを描き始めた。そして、「GODJ」は韓国と中国で製造されたのだが、「GODJ Plus」は日本で製造することになる。
 
 さすがに複雑な製品なので、個々の部品は全世界から調達しているが、今後は「基板制作から部品調達、塗装まで、すべて我々が1時間以内でいけるところでやりたい。後は、ディスプレーとか、プラスチックの部分も宮城で考えている。コストは若干高くなるが、1.5倍から2倍くらいの価格までなら許容したい」と宮崎氏。
 
 海外から輸入する部品は価格が安いもののそれなりのクオリティー。不良が発生したときには輸出しなおして修正をかけることになる。「実際見に行って問題を説明しても、絶対自分のせいとは言わないので、そこはまあなんとか折半するとか、こういったコミュニケーションコストを考えると、日本でやれるならやった方がいいと考えた。もちろん、日本でも不良ゼロにはならないが、何か起きた時には工場と直接相談ができる。組み立てに関しても、石巻なら中国と比較しても高くない」
 
 組み立ての技術、というところだけ見れば中国でも同様のことができるという。しかし、宮崎氏は効率化への努力は日本ならではだと太鼓判を押す。たとえば、「GODJ Plus」は当初1日50台の生産を目標にした。初日は20台しか作れなかったのだが、どんどん台数が上がってきて、最終日には104台も作れるようになった。工場長が、組み立ての流れを見て、効率化を進めたおかげだという。ボトルネックになっている箇所があると、その人はさらに頑張り、横の人が助けたりして川が流れるように進んだ。組み立てのミスはほとんどなく、発送ミスもゼロ。日本のものづくりはまだまだ生きていた。
 
そのおかげで反応速度は10ミリ秒以下に
 量産に入る前には、もちろん試作する。部品ごとに回数は異なるが、たとえばシリコンパッドは7回も作り直しを行なった。一番大変だったのは事前の想像通り基板製作。ここでミスがあると、ソフトのアップデートでは解決できなくなってしまうので、慎重を期する必要がある。基板のテストが最もスケジュールを圧迫したそうだ。
 
 実は宮崎氏の最初の経歴は、半導体メーカーのモトローラ。その時の経験で半導体の設計とその半導体の上で動くプログラムの作成が得意だった。なかでも、特にオーディオ機器のプログラムに詳しいという。PCではないので、非常に限られたリソースでいい音を出さなければいけない。とにかくレスポンスと安定性は重要視したそうだ。
 
 「DJプレイでは、安定性と高速応答性をすごく求められるが、iOSやAndroidアプリだと到底実現できない。たとえば、スマホの画面をタッチしてから音を出すまでに100ミリ秒とか数百ミリ秒かかってしまう。しかし、GODJ Plusであればサンプラーを叩いて音を出すまでに、10ミリ秒を切っている。我々のシステムにはOSがないので、電卓クラスの安定感となっている」(宮崎氏)
 
 いろいろと独自技術を搭載しているとのことだが、特許はほとんど出していないという。人には思いつかないだろうという技術がいくつもあるのだが、特許を取ろうとするとそれを開示しなければいけない。だったら、逆に謎のまま出そうという判断をしたのだ。製品を買ってばらしてしまえばわかるのではと聞いたところ、「解析できないと思う」と宮崎氏。
 
 現在、宮崎氏は「GODJ Plus」のことをDJ機器とは言っていない。DJ機器という商品分類では、現状はパイオニアのひとり勝ちの状況。そこは、ベンチャーならではの勝算を考えてのことだ。
 
 たとえば、「GODJ Plus」を購入している人の用途がみなDJプレイをするわけではないという。個人のユーザーが、自分で楽しむために曲をつないで音楽を楽しむ軽いユースケースも多い。「GODJ Plus」ならダブルカセットなので、普通に選曲してつなぐなど、かつてのラジカセっぽく使い、家族や友人達などが集まる際に楽しんでいるそう。数としてはそんな一般ユーザーが多いので、その市場を開拓したいと宮崎氏は語る。
 
 かつてCDラジカセやMDコンポを使って、お気に入りの曲を編曲したりしていた経験がある読者も多いのではないだろうか。ちょっと形は違うが、「GODJ Plus」で似たような体験ができるというわけだ。
 
 「ラジカセという以上は、ラジオの機能もなければいけない。そこで、今後は『Spotify』のようなストリーミング機能を新たに付けることを考えている。すでに開発は進んでいて、Wi-Fiのドングルを付けてネットから楽曲を取れるようになる」(宮崎氏)
 
儲からないがロマンがあるハードウェアベンチャー
 ヒットにつながった「GODJ Plus」のものづくりから学ぶべき点は多い。
 
 まずは既存のスマホにつなぐようなガジェットとは異なり、単体での価値を徹底的に追求している点。ドングルでのネット接続が後からできるようになる点など、IoTブームには逆行するような形だが、ハード単体での魅力を高めることは、商品の価値につながってくる。
 
 だが商品価値に結びつく技術がきちんと評価されるためには、ことコンシューマー向けハードウェアの場合、ストーリーも必要だということもわかる。ただのDJ用機器ではなく、音楽の楽しみ方を再発見できる新しいオーディオ機器という点と、かつてウォークマンを製造していた石巻でのものづくりは、訴えかけるに十分なストーリーがある。
 
 とはいえ宮崎氏は、これまでハードウェアベンチャーをやってきた結論として、「やっぱり儲からない」と笑う。トータルで考えて、それほど大きな利益が出ない。特に、クラウドファンディングの値付けは赤字のようなものだそう。
 
 「でもロマンはある。ソフトウェアを書くだけでは得られない達成感がそこにはある。そのため、今はハードに関しては赤字にならなければいいという感じで作っている。とにかく多くの人に使ってほしい」(宮崎氏)
 
 ユーザーが増えれば、DJ機器としてのプラットフォームの可能性が出てくる。そうすれば、音楽配信サービスと連携してロイヤリティーを得たり、製品に機能追加するソフトウェアアップデートを有償化することも考えられる。会社を維持発展させて行くには当然必要なことだ。現在の所は赤字だが、設計そのものや高く付く金型が手元にあるので、次のロットは利益が見込めてくる。今はそこを狙っているステージだ。
 
 クラウドファンディングの実施に関しても、手数料なども考えると、お金を集めるためという目的ではなくなってくる。「こんなモノを作れる会社があるんだ」という評判を広めたかったのだ。「GODJ」を出すことで、受託の案件も増えた。実力があるハードウェアスタートアップではよくあることで、今は技術を出し惜しみせずいろいろとチャレンジしているとのこと。
 
 ちなみに、「GODJ Plus」の1stロットは2000台で、Makuakeの発送分で一千数百台が発送済み。残りもすでに量販店や楽器店に出してしまい、在庫はない。9月上旬を予定している2ndロットの完成がいまから楽しみだ。
 
●株式会社JDSound
2012年2月2日設立。各種デジタルオーディオ製品の受託開発、全世界で大ヒットを果たしたDJシステムハードウェア「GODJ」、その次世代機「GODJ Plus」を展開。
資金は政策金融公庫からの借り入れ。
スタッフ数は2017年8月時点で7名。
 
JDSoundの宮崎晃一郎代表取締役が登壇!IoT/ハードウェアのスタートアップ・キーマンが集う体験展示+カンファレンスイベントの第4回
IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP
 
 2017年8月28日(月)にベルサール飯田橋ファーストにて、ハードウェアやIoTプロダクト関連のスタートアップ関連事業者から大手企業まで、toB・toCを問わない、ビジネスカンファレンス&ブース展示の交流イベントを行ないます。カンファレンスセッションと無料の展示ブース入場チケットはお申し込み絶賛受付中です!
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文● 柳谷智宣 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

最終更新:8/21(月) 16:53
アスキー