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<東芝>監査法人と玉虫色決着 決算「限定適正」

8/11(金) 9:30配信

毎日新聞

 会計処理を巡る東芝とPwCあらた監査法人との対立は「限定付き適正」という玉虫色の表現で決着した。舞台裏では、国際社会の視線を意識して厳格な姿勢で臨むPwCと、上場廃止に直結する「不適正意見」を避けたい東芝側との激しい綱引きがあった。

【坂井隆之、岡大介、古屋敷尚子】

 ◇直前まで綱引き続く

 「『限定付き』で調整しています」。取引銀行の担当者は7月中旬、東芝側から説明を受けて胸をなでおろした。

 関係者によると、PwCは一時、監査が十分にできず意見を表明できない「意見不表明」に傾いた。しかし、2016年4~12月期決算に続き意見不表明とすることに、監査法人を監督する金融庁や日本公認会計士協会が「何度も不表明を出すのは責任放棄にあたる」とけん制。妥協策として浮上したのが「一部に不適切な事項はあるが、決算全体に対して重要ではない」場合に出される限定付き適正意見だった。

 しかしその後も状況はめまぐるしく変わる。「PwCからいい返事が得られない。不適正ではなく、せめて不表明にしてくれないかと交渉している」。7月下旬、取引銀行幹部は東芝幹部から説明を受け、耳を疑った。

 一度は「限定付き」に決まりかけたが、米原子力子会社ウェスチングハウス(WH)の監査を担当する米PwCが「納得しなかった」(関係者)とみられる。業界関係者は「米国でも不正会計の多発で監査法人に対する当局の目が厳しくなっている。不正を見逃したと見られるのが嫌なのだろう」と分析した。PwC内の首脳の一人が、グループの本拠地がある米国に飛び、慌ただしく意見調整を行った。

 争点となったのは、米原発事業をめぐる損失の認識時期だった。東芝は16年10~12月期にWHから報告を受けて初めて認識したとして、17年3月期で損失を計上しようとした。PwCは「15年度中に認識していた可能性がある」と疑問を呈し、16年3月期決算にさかのぼって損失を計上するかどうかの徹底した調査を求めた。

 これに対し、東芝は指摘を受けた17年初頭から、外部弁護士を起用し240万件に及ぶ電子メールを確認するなどの内部調査を実施。15年度中に損失を認識していた確証を得られなかったことを伝えた。それでもPwCの理解は得られず、16年4~12月期決算は「意見不表明」のまま発表。さらに6月末の有価証券報告書(有報)提出期限も延期に追い込まれた。

 本決算である有報が「意見不表明」や「不適正」となれば、東京証券取引所が実施している上場廃止審査に悪影響が及ぶのは確実で、東芝は崖っ縁に追い込まれた。

 期限まで10日を切り、東芝は弁護士を動員してPwC側に「不適正を出すなら、『適正』とされる数字を示せ」と訴訟も辞さない姿勢で迫った。問題となった16年3月期決算は新日本監査法人が担当していたが、新日本は「当時の決算に問題はなかった」との立場だ。PwCが新日本の協力を得るのは困難だった。

 8月9日、PwCは東芝に決算を「限定付き適正」とする意向を伝えた。米原発事業をめぐる損失について「16年3月期決算にさかのぼって計上すべきだ」とする主張は最後まで譲らなかったが、原発損失の計上時期をのぞき「財務諸表は適正」との判断だ。ただし、内部統制については「不適正」とし、決算にも「一般に公正と認められる基準に準拠しない」との意見を書き込んだ。

 東芝の平田政善最高財務責任者は10日の決算記者会見で、「我々としては違う見解を持っている」と割り切れない表情をのぞかせた。

 固唾(かたず)をのんで見守っていた主力行首脳は「ぎりぎり受け入れられる結果」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 ◇上場維持へ残る関門

 東芝は有報提出により経営課題の一つをクリアしたが、上場維持にはなお二つのハードルが残っている。

 一つ目が、2015年に発覚した不正会計を受け、東京証券取引所が進める「内部管理体制」の審査だ。東芝は10日、有報とともに、不正会計を防ぐ仕組みが整っているかを評価する「内部統制報告書」を提出したが、監査法人から「不適正」と判断された。

 監査法人が「不適正」としたのは、決算と同様、東芝が海外原発事業に絡んだ損失を計上した時期に対する疑問が解消できなかったからだ。綱川智社長はこの日の記者会見で、既に海外原発事業から撤退したことを強調し「不備を指摘されたところは(現在の東芝からは)なくなった。その他では不備はない」と、最新の内部管理体制には問題がないと主張。上場維持に向け「誠心誠意取り組む」と意気込んだ。ただ、決算発表の延期や監査法人の意見が「限定付き適正」にとどまるなど会計について投資家に適切な情報開示をしたとは言いづらく、東証の審査に影響する可能性も残る。

 二つ目が、来年3月末までの債務超過解消だ。2年連続で債務超過になると東証の規定により上場廃止になる。半導体メモリー子会社を売却して資金を集める方針で、東芝は6月21日、官民ファンドの産業革新機構が主導する日米韓連合を優先交渉先に選んだ。

 しかし協業先の米ウエスタン・デジタル(WD)が他陣営への売却に反発し、手続きは遅れている。WDや台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とも交渉を続けているのが現状だ。綱川社長は最終契約のデッドラインについて「特に期限は設けないが、可及的速やかに」と述べるにとどめた。

 売却前にクリアする必要がある各国の独占禁止法審査には半年以上かかるとされる。来年3月末まで7カ月余り。上場廃止の回避は時間との闘いになっている。

最終更新:8/11(金) 9:30
毎日新聞