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「みなさまのNHK」の野望 ネットへの放送番組24時間同時配信&ネット受信料徴収案

8/11(金) 9:30配信

産経新聞

 NHKがぶち上げたテレビ放送をインターネット経由でスマートフォンに24時間配信する「常時同時配信」構想の先行きが怪しくなってきた。これまで歩調を合わせてきた総務省が明確にNHKと距離を置き始めたからだ。一方的に推し進めようとするNHKに対し、首相官邸が待ったをかけたという背景がある。

 「昨日まで新聞記事を見るだけだった。総務省の仕事の中で勉強し、いろいろな人の話を聞いて方向性を報告したい」

 3日夜、第3次安倍第3次改造内閣の発足に伴って新たに就任した野田聖子総務相(56)は同時配信について、経緯をよく調べたうえで方向性を導き出すとの考えを示した。

 ただ、同時配信をめぐっては前のめりなNHKに対して、野田氏の前任者の高市早苗氏(56)がすでに厳しい注文をつけている。

 ■「現時点で放送法の改正は必要はない」

 「現時点で速やかに(放送法を)改正すべきだとは思わない」「印象としては『残念だな』と思った」「現段階では議論が十分に煮詰まっていない」

 内閣改造を間近に控えた7月28日、高市氏は記者会見で、同時配信を行うための放送法改正に慎重な考えを示した。また、構想実現にあたっての受信料徴収のあり方などをまとめたNHK諮問委員会の答申案についてもあからさまな不満を表明した。

 NHKは2020年に開かれる東京オリンピック・パラリンピックをにらみ、2019年から同時配信を実施する構想を打ち出している。放送事業を所管する総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」で議論が続いている。

 総務省は民放各社にも同時配信への積極的な参入を促したい方針だったが、検討会でのNHKと民放各社の議論は平行線をたどったままだ。NHKは昨年のリオデジャネイロ五輪などで同時配信を行うなど、限られた時間の枠内で試みてきたが、現在の放送法の下では24時間の同時配信はできない。NHKが“宿願”を達成するには放送法の改正が必要になる。

 タイムスケジュールとしては、2019年から同時配信を実現するためには2018年の通常国会で放送法を改正する必要がある。NHKは2016年12月13日の検討会で2019年には本格的なサービスを開始し、段階的に拡充したいとする計画案を示した。

 ■民放からは反対論が続出

 この約2週間後に開かれた12月26日の検討会には在京民放各社の幹部が顔をそろえたが、「事業性は見いだし難い。コスト、ニーズ、権利処理など課題の解決が先であり、段階的に行うべきだ」(日本テレビ)、「クリアすべき課題が多い。コストの回収モデルを見通すのは困難だ。視聴率の低下などローカル局への影響も懸念している」(テレビ朝日)、「同時配信のビジネスモデルを作成できる状況ではなく、将来に向けた先行投資を行う確証が持てない」(テレビ東京)などと反対論が大勢を占めた。民放各社が拒否するのは、圧倒的な資金と技術力を持つNHKが本格的に踏み切れば、あっという間に独走態勢を敷いてしまうという懸念があるからだ。

 民放各局の態度が硬いなか、高市氏は昨年暮れ、検討会の開催と並行する形で民放各社の幹部と面会を重ねるなど環境整備にも動いたとされる。

 ところが、NHKは一方的にボルテージを上げる。今年7月4日の検討会に出席した坂本忠宣専務理事は同時配信について「将来的に(放送と並ぶ)本来業務としたい」との方針を表明した。また、NHKは同時配信のコスト負担に関して受信料型を打ち出した。すでに契約を結んでいる世帯には追加負担を求めないとする一方、スマートフォンやパソコンでアプリをダウンロードした段階での課金を想定していることも公にした。これはNHKが「テレビなし世帯」からも受信料を徴収しようというもので、ネットでは反対の声が相次いだ。

 ■放送法改正案の提出を嫌った官邸

 NHKの動きに押される形で、総務省は2017年の通常国会に放送法の改正案を提出する方向に一時は傾いた。各省庁は12月中に翌年の通常国会に提出を予定する法案について官邸に“お伺い”をたてる。総務省は放送法改正をリストに載せて、官邸の意向を探ったが、“瞬殺”されてしまったという。結局、通常国会への改正案提出は見送りとなった。

 政府関係者の一人は「NHKの同時配信については民放各社の反対論が強く、官邸が『改正案を出す状況にはない』と判断した」と語る。日本国内の放送はこれまでNHKと民放の二元体制でやってきた。改正案の提出に踏み切れば混乱が起き、二元体制にヒビが入りかねないという懸念があったようだ。

 では、なぜNHKは24時間の同時配信にこだわるのか。NHKは「若者のテレビ離れ」などを挙げているが、ヒントは昨年8月にさいたま地裁で出たワンセグ放送を視聴できる携帯電話を持つ人がNHK受信料の契約義務があるかどうかが争われた裁判にある。

 さいたま地裁は、放送法が示す受信設備について「設置」と「携帯」は別の概念だとして、ワンセグ機能がある電話を携帯する人に契約義務はないとした。一方、同じような訴訟で水戸地裁は今年5月、契約義務はあるとの判決を出しており、一審段階で司法の判断は分かれている。

 ■課題となるネット時代の受信料徴収のあり方

 放送法64条は「(NHKの)放送を受信できる受信設備を設置した者は、契約をしなければならない」と規定しているが、さいたま地裁の判決は「(関係条文が定められた)当時、ワンセグ携帯のような移動しながら受信できる機器が想定されていたとは考えられない」としている。ネットでの動画視聴が当たり前となった現在、放送法の条文は時代に合わなくなったとの認識が示された。

 ワンセグが受信できる携帯電話は受信設備の「設置」なのか、それとも「携帯」にあたるのか。上級審の判断を待つことになるが、放送法の条文を改定し、争いの余地がないようにした方がいいとの考えも当然のように出てくる。

 事実、6年前の2011年7月にNHKの受信料制度に関する調査会がまとめた報告書には「現在の放送法の規定にいう『受信設備』『設置』という文言は、多様な端末で放送が受信されるという将来の状況にそぐわなくなる」という記述がある。

 ■NHKは「公共放送」から「公共メディア」になります!

 これまでNHKは自らを「公共放送」と位置づけてきたが、上田良一会長は7月27日の産経新聞などとのインタビューで、ネットも使った「公共メディア」への転換が「最大の課題」だとの見解を示した。

 こうしたなか、高市氏は7月24日、(1)同時配信は放送の補完的な位置づけとして実現すること(2)既存の業務全体を公共放送として適当か見直すこと(3)子会社のあり方をゼロベースで見直し、一般競争入札を取り入れるなど関連団体の業務委託の透明性を高めること-の3点を上田氏に文書で伝えた。

 政府は7月20日に2018年度予算編成で各省庁が予算要求する際のルールとなる概算要求基準の閣議了解をするなど、来年度をにらんだ動きが出ている。同時配信構想の取り扱いをどうするかに関しても、そんなにノンビリとは構えていられない。

 「『2019年から』というのを、『年明け早々から』とこだわることはない。『2019年度から』ととらえることもできる」

 「今の放送法では丸一日中、24時間の同時配信はできない。しかし、極端な話、23時間59分59秒ならば同時配信は可能だと解釈することもできる」

 総務省内からはこんな声も漏れ始めた。総務省のトップとなった野田氏のもとで同時配信構想はどう着地するのか。 (政治部編集委員 笠原健)

最終更新:8/11(金) 9:30
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