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樹木葬 じわり浸透 墓荒れさせるより 自然回帰 子孫不在や独身増、土地不足・・・

8/11(金) 11:30配信

日本農業新聞

 墓石でなく樹木を墓標にして遺骨を土に埋葬する樹木葬がじわじわと広がっている。自然回帰や未婚者の増加、都市の墓地不足が背景にある。農村でも高齢化や子孫の不在で墓を守ることが困難になり、墓じまいをして森に返す動きが出ている。農山村の荒廃地を樹木葬の墓園として里山に再生する取り組みもあり、新しい墓のかたちとして注目を集めている。

放棄地再生兼ね 千葉県長南町「森の墓苑」

 東京都心から車で1時間半、千葉県長南町の山間地に整備された丘陵地が広がる。日本生態系協会が2016年に開いた「森の墓苑」だ。墓地といっても墓石はない。放棄され荒廃した土砂採掘場を里山に再生する計画で、遺骨を納める区画に墓標として樹木を植え、50年かけて“森に返す”構想だ。

 大阪府から同墓苑を見学に来た服部文子さん(68)は、チョウが飛び交う情景を眺めながら「森に返るなんてすてき。自然が好きだった父も喜ぶ」と目を輝かせた。娘はいるが「遠方に嫁いだので面倒を見てもらうつもりはない」と、いずれは両親の遺骨と一緒に樹木葬を思案する。

 同行した兄の五箇哲さん(71)は「子どもがいないので、両親の墓を継続して管理できない」と、現実的な課題から樹木葬に関心を持つ。妻の眞美子さん(64)も「誰かに墓を託すより、自然の中で永遠にまつられるのがいい」と魅力を感じている。

 周辺の住民も、新たな墓地に注目する。自営業の渡辺一雄さん(66)は「地元でも、高齢化や離村で墓を荒らしてしまう家が増えている」と話す。周囲は自宅に墓のある家も多く、空き家になって放置される墓もあり、遺骨を森の墓苑に移した家もあるという。

住民の同意取りやすい

 同協会は12年から、墓地の開設について周辺の住民を訪問して理解を進めた。住民から「石の墓が周囲に広がるのは嫌だ」といった声もあったが、樹木葬で里山を保全する目的に住民の同意を得て、15年3月に地元の長南町から墓地の運営許可を受けた。

 契約条件に応じてコナラ、ヤマツツジなど地元由来の樹木を選べる。昨年2月の開設以来、契約数は28件、申し込み済みは10件で、既に納骨も始まっている。担当する服部仁美主任は「代々の墓は維持できない、という人が関心を持っている。森になるということに共感する人も多い」と話す。

 森林活用の方策として樹木葬の普及に取り組むNPO法人・北海道に森を創る会の片山尚正監事は「近隣に墓地ができることを嫌がる住民は多く、行政の許可を得にくいのも事実」と課題を挙げる。墓地から農地への水の流入などを心配する声もあるという。一方で「子どもがいない世帯や未婚者など、墓を守れない人が増えており、今後も増える」と指摘する。

農村部でも今後ニーズ

 農村部では、都市部に比べて樹木葬は浸透していないのが現状だ。長野県JAみなみ信州の子会社で、飯田市などで葬祭業を運営するジェイエイサービスの奥村充由社長は「田舎では墓を守るという考えが主流」と考える。ただ、高齢化や都会への移住などで墓の管理が困難な家が出ているのも事実で、「今後、ニーズは出てくる」(同)とみる。(福井達之)

<メモ> 樹木葬

 墓地埋葬法に基づき、墓と認められた場所に遺骨を埋める埋葬法。墓地の運営と管理主体は、地方公共団体を原則に宗教法人、公益法人に限るとされている。

日本農業新聞

最終更新:8/11(金) 11:30
日本農業新聞

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