ここから本文です

<上尾男性放置死>事故1カ月、あの日何があった 無責任さが命奪う…男性の両親「本気で考えて」

8/12(土) 10:30配信

埼玉新聞

 埼玉県上尾市戸崎の障害者施設「コスモス・アース」で知的障害がある男性利用者(19)が車内に放置され死亡した事故から13日で1カ月を迎える。母親(48)と父親(55)の頭に浮かぶのは、いつも笑顔だった息子の姿。「帰ってきておいで。かなわないと分かっていても諦められない」。両親はそんな思いを去来させながら、「あの日、何があったのか真実を知りたい。二度と同じ過ちを繰り返さないでほしい」と重い口を開いた。

■抱き締める日課

 学校の運動会で赤い帽子をかぶりカメラに向かって微笑む息子。両親の手元にある男性の写真はどれも笑顔だった。男の子を授かったのは、結婚して5年目。子宝に恵まれず、諦めかけていた矢先だった。「ちょっとした変化も見逃さないように」。他の子どもたちより成長が遅く、障害の程度は最重度。一つ一つが手探りだったが、両親と次男の4人家族で幸せに満ちた日常を過ごしてきた。

 「普通の子に比べると大変なことも多いけど、どんな小さなことでも覚えている。親ばかだけど、本当にかわいい子だった」。小学3年生の時、通学路で初めて「お母さん」と口にした息子の表情が母親の目に焼き付いている。

 言葉でうまく伝えられない息子の体調を確認するため、母親は息子を毎日抱き締めた。そんな二人の日課は19歳になっても続いた。いつの間にか、体が大きくなった息子に抱え込まれるようになっていた。自分が落ち込んだ日に息子を抱きしめると、自然と心が落ち着いた。

■愛され支えられ

 「コスモス・アース」に息子が通所し始めたのは今年4月。「ここなら伸び伸び過ごせるかもしれない」。のどかな立地が決め手だった。施設から帰宅すると、息子は「がんばった」と両親に一日を報告する。そして、決まって翌日に出る昼食の献立を確認した。それが日常の風景だった。だが、最後は昼食さえ食べられなかった。

 あの日、施設からの連絡で息子が「心肺停止」と知らされた。駆け付けた病院で両親が目にしたのは、すでに息をしていない息子だった。抱きしめるとまだ温かく、現実を受け入れることはできなかった。

 息子がいなくなり、改めて気付かされたことが両親にはある。「たくさんの人に愛され、支えられて、ここまで大きくなった。幸せな19年間だったと思う」。葬儀に訪れた恩師や同級生は300人以上。予想をはるかに超える数だった。ひつぎには息子が安心できるように、大好きだった茶色のミニカーを入れた。位牌(いはい)の戒名には「天国に行っても笑顔でいられるように」と「笑」の文字を入れた。

1/2ページ

最終更新:8/12(土) 17:55
埼玉新聞