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失敗しない社内カフェへ 実体験から生まれた提案

8/14(月) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「毎日、決まった人としか話さない」「同僚の顔と名前が一致しない」「コミュニケーションの場所を作っても使われない」。そんなオフィスの悩みに対応する提案に注力しているのが、オフィス家具・文具メーカーのプラスだ。オフィス改善を提案するだけでなく、その活用方法も紹介する“コト提案”を強化している。その背景には、失敗を重ねながらオフィス改革に取り組んだ自社の経験があった。

【サークルタイプの「5 TSUBO CAFE」】

●カフェに人が集まらない

 プラスのオフィス家具事業を担う社内カンパニーのファニチャーカンパニーは、2013年にオフィスを移転し、東京都千代田区に「東京オフィス」を開設。移転を機に、コミュニケーションスペースを設置し、社内交流を活性化しようと考えた。

 移転前のオフィスは2フロアで面積は約1150平方メートル。移転後は1フロアになるものの、広さはほぼ同じ。そのまま移動してしまうと、新たなスペースは生まれない。

 そこで、紙の資料を中心に、モノを半分に減らすことに取り組んだ。部署ごとに必要な資料などを見直し、複数の社員が同じものを持っていた分厚いサンプル資料を1冊に減らしたり、たくさん置かれていた家具サンプルを減らしたりすることでスペースを確保。「モノを減らすことで、約130平方メートルの空きスペースが生まれました」と、市場開発本部企画推進部課長の岡本裕介氏は振り返る。

 空いた空間を活用して、カフェスペースや多目的スペース、作業に集中するブースなどを設けた。しかし、それで職場が活性化した……というわけではなく、実は、オフィスを変えてもうまくいかなかった。カフェスペースにはコーヒーを取りに来るだけ。「会話が生まれない状況は何も変わりませんでした」(岡本氏)。

 その状況を変えようと立ち上がったのが、入社3年目までの若手社員。人と人のつながりを深めて社内を明るくするアイデアを自発的に提案した。それが「ワクワクプロジェクト」だ。

●若手のアイデアで交流が生まれた

 プロジェクトチームは、話し合いを重ねてさまざまなイベントの企画を練り上げた。その1つが、写真展。「夏休みの思い出」などのテーマでプライベート写真を募り、コミュニケーションスペースに貼り出す。趣味や家族など、仕事以外のオフの姿をきっかけにして、お互いを知る仕掛けだ。コミュニケーションスペースに自然に集まって、会話が生まれるようにする狙いもある。

 プロジェクトが始動した当初は、社内で理解が得られず、上司から白い目で見られるメンバーもいたという。そこで、プロジェクトを会社公認とし、業務の一環に。作業時間を週1回、2時間と限定した上で、プロジェクトの活動も個人評価の対象にした。マーケティング統括部担当部長の田中延尚氏は「このプロジェクトは私たちのビジネスと親和性がある。その理解を社内に求めた」と語る。

 写真展のほか、交流イベントの開催、あいさつ強化の取り組み、感謝を示す「ありがとうカード」の掲示など、試行錯誤を重ねながら社内を盛り上げてきた。社内では「仕事について相談しやすくなった」「みんなの顔と名前と声が一致するようになった」という声も聞こえてくるように。オフィスの設備というハードの部分だけ整えても効果は出ない。どう使うか、というソフトの部分の重要性をより強く実感できるようになった。

●経験から生まれた「5 TSUBO CAFE」

 その学びを盛り込んだのが、「5 TSUBO CAFE」の提案だ。カウンターや備品などをセットにしたカフェスペースで、1坪(約3.3平方メートル)以上のスペースがあれば導入できる。サークルタイプ、屋台タイプ、やぐらタイプの3パターンから、スペースや使い勝手に応じて選ぶ。現在、約40カ所に導入されている。

 自社の経験を踏まえ、モノを減らしてスペースを作る「オフィスダイエット」も併せて提案している。移転や改装など、大掛かりなことをしなくても、書類を減らしたり、レイアウトを見直したりすることでスペースができる。それを有効に使うという小さな取り組みも、立派な改善になる。

 もちろん、おしゃれなカフェスペースを設置するだけでは成功しないということも経験済みだ。人を集める仕掛けも充実させている。

●活用ノウハウも提供

 5 TSUBO CAFEを人が集まる場所にするには何が必要か。明らかにするため、自社のカフェスペースにビデオカメラを設置し、人が集まるタイミングを定点観測した。その結果、コーヒー豆をひいたり、雑誌を読んだりして、カフェスペースに滞在する理由があれば、会話が生まれやすいことが分かった。そこで、5 TSUBO CAFEには、思わず足を止めるような情報を表示するデジタルサイネージをセットにした。

 情報を表示するアプリは2種類。1つは「今日は何の日」という情報をランダムに表示していき、世代間の会話のきっかけを作る。もう1つは、電子掲示板のように社員が情報を流すことができるアプリ。「おすすめの旅行先」など、気軽な情報交換を促す。

 それでも、継続的に活用していくには、各企業の工夫が必要だ。初めは珍しくても、慣れてくると新鮮味がなくなる。そこで、運用をサポートするため、導入企業向けの季刊誌を発行。5 TSUBO CAFEの活用事例を詳しく紹介するほか、季節に合わせた雑談ネタを掲載している。

 総務担当者の「他社の事例を知りたい」「使い方のアイデアがほしい」というニーズに応えるだけでなく、プラスにとっては、5 TSUBO CAFEの新規営業にも活用できる情報となっている。岡本氏は「設備だけなら、他社との差別化は難しい。ソフトの部分を提案することで、プラスらしいビジネスにしている」と狙いを話す。

●通いたくなるオフィスに

 5 TSUBO CAFE導入後の活用方法だけでなく、導入する前にコミュニケーションの“下地”を作ることを勧める提案も始めた。まずは交流を促すイベントなどを実施して、お互いに会話をする雰囲気を作っておくことが、カフェのコミュニケーション活性化効果を高めるからだ。

 しかし、そうすると、社内コミュニケーションに課題がある企業が改革に取り組み始めてから、プラスの商材である5 TSUBO CAFEを導入するまでには時間がかかる。なぜこのような提案をしているのか。

 「5 TSUBO CAFEだけでなく、オフィス市場全体として考えているからです」と田中氏は説明する。会社に行かないと仕事ができなかった時代とは違い、通信技術が発達している今、オフィスに行かなくてもできる仕事は多い。オフィス用品の市場として見ると、危機感は強い。

 働き方の多様化に対応しながらも、オフィスをさらに快適にして、通いたくなる場所にすることがプラスの役割の1つ。通いたくなるオフィスとは何か。居心地が良いオフィス、仕事がうまくいくオフィス、行かないと得られないものがあるオフィス。そんな場所にしていくためには、ソフトの部分の提案が欠かせない。

 「オフィスの中心は人。人がいて初めて成立するのです。“ワーカーファースト”で考えることが大切です」(田中氏)。