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<金融機関>事業評価力を劣化させた「マル保」の罪

8/14(月) 9:30配信

毎日新聞

 中小企業や零細企業が金融機関から融資を受ける際に、公的な保証をつけて融資を受けやすくする制度が「信用保証制度」です。ただ融資のノウハウが劣化するとの指摘もあります。この問題を、金融ジャーナリストの浪川攻さんが解説します。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇経済対策の目玉だった「マル保」

 信用保証制度は、信用保証協会法に基づいて全都道府県に設置された信用保証協会が保証実務を行っているもの。金融業界では、信用保証協会から保証を受けることを「マル保」と呼ぶ。

 「マル保」がついた融資は、融資先企業の経営がおかしくなって焦げ付いても、信用保証協会が大半を肩代わりしてくれる。銀行にとっては「安全パイ」の融資である。信用保証協会が肩代わりする損失は、「税金」で穴埋めされる。

 どんな条件でどれだけの信用保証枠を設定するかは国の予算で決まっている。過去、不況や経済危機が発生するたびに中小企業向け金融の円滑化の観点から枠の拡大や、制度の拡充が行われてきた。中小企業向けの経済対策の目玉の一つとして活用されてきた。

 2008年にリーマン・ショックが起き、中小企業の資金繰り不安が一気に高まった際には、政府は補正予算で「緊急保証」と呼ばれる特例措置を実施した。信用保証制度は通常、信用保証協会が融資の8割を保証し、民間金融機関が残る2割のリスクを負っていたが、信用保証協会の保証範囲を100%にするものだった。

 こうした信用保証制度の活用が、不況や危機から脱却する端緒になった一面は否定できないだろう。しかし、その一方で、本来、金融機関に求められる「企業を見る目」の育成や継承の阻害要因になったのは間違いない。融資のノウハウが劣化したのだ。

 ◇「マル保をつければ心配ない」という発想

 中小企業、零細企業向け融資を巡って、金融機関の融資担当者に、「マル保を付けさえすれば何も心配することはない」という発想がまん延するようになったのだ。担当者に対して、上司が「この企業をどう判断したのか」を問うべきところを「マル保はつけただろうな」と念押しするというものだ。

 実際、金融機関の中には、「マル保」付きの融資件数を支店の営業目標に設定し、評価体系に組み入れてきたところが少なくない。ある地銀の審査部門の幹部は「まったく問題がない取引先への融資にまでマル保をつけ続けた」と苦笑いする。

 金融庁が金融機関を厳しく指導する「金融検査マニュアル」が、担保や保証を重視してきたことも、銀行の「マル保依存体質」を助長させた。金融マニュアルに基づいた金融行政のなかで、営業担当者の事業性への評価能力が軽視され、資産の保全度が重視されたのだ。結果として銀行は「マル保依存」に走った。

 ◇「マル保拡大」ようやく転換

 こうしたなか、ここ数年、金融庁が金融業界に対し、「担保・保証」に頼らない融資の実行を要請するようになった。金融検査マニュアルも、事業性をみて融資判断をすることを重要視する方向に変わった。だが、金融機関の融資姿勢はなかなか変わらない。その背景のひとつとして指摘されてきたのが、拡大に次ぐ拡大が行われた信用保証制度だった。

 その是正の動きがここに来て本格的に始まろうとしている。今年の通常国会で信用保証協会法が一部改正された。改正で「信用保証協会の業務運営にあたって同協会と金融機関が連携する」「保証付き融資(マル保融資)と非保証融資を適切に組み合わせるリスク分担を同協会と金融機関の間で行うこと」が盛り込まれたのである。

 これは、信用保証制度を巡る過去になかった方針転換である。これまでは、保証枠や保証範囲拡大の一本やりと言っても過言ではなかったからだ。これをきっかけに、金融機関の「マル保依存体質」からの脱却が進むか、注目される。

最終更新:8/14(月) 9:30
毎日新聞