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髭男爵・山田ルイ53世が一発屋芸人を“取材”する訳 独特の文体に高評価の声続々

8/18(金) 7:00配信

オリコン

 一発屋という言葉を聞くと、さまざまな顔ぶれがパッと浮かぶが、正確な意味をつかもうと辞書を引くと「俗に、一度だけ、またはある一時期だけ活躍した歌手やタレント」(デジタル大辞泉)とある。そんな一発屋芸人たちを対象にしたルポルタージュ形式の連載『一発屋芸人列伝』が、昨年12月から月刊誌『新潮45』(新潮社)でスタートした。取材・執筆は、かつて「ルネッサーンス!」で同じく“一発”当てた芸人・髭男爵のヒゲの方こと山田ルイ53世。これまで散々掘り下げられてきた“一発屋”をテーマに、なぜ今書こうと思ったのか。その真意を尋ねると、山田が「悲喜こもごも、全部の味があるから、一発屋って取材対象としては優秀だと思うんです」とおなじみのいい声で語り始めた。

【写真】最新号を手に笑顔を浮かべる髭男爵・山田

■一発屋芸人の今をつづる訳 取材の時は“脱・芸人”で「ズケズケと聞く」

 もちろん、当事者として感じてきた思いもある。「レイザーラモンHGさんとかムーディ勝山とか小島よしおくんとか、ポジティブ系な一発屋の人たちが音頭を取って、一発屋会っていうのをやっているんですけど、最近はネタ番組に出てもレッテルを貼られてしまったり、そういう根本的な悔しさみたいな部分を共有していて…。だから、一発屋と十把一絡にされがちな人たちにもこういう歴史があって、その人たちのネタがなぜここまで跳ねたのかみたいなところも含めて書きたい、話を聞いてみたいという気持ちがありました」。静かなトーンながらも、心の底でふつふつと沸き上がる気持ちを言葉にした。

 「僕らの仕事柄、あんまり言いすぎてもなんですが、視聴者はもう全部消費したつもりになっているかもしれないけど、一発屋の本当の姿や価値は全然違うということは残しておきたかった。一発屋の芸は、瞬時につかむキャッチーなところがあるっていうだけに、一気に跳ねるところがある反面、若干おもちゃ感もある。一度クリアすれば消費されるゲームのような一面があって、作品感を持たれにくいんですよね。だから売れたっていうのもあると思うですけど、改めて見ると、どの人のネタ・作品も本当はとてもよくできているんです」。

 だからこそ、毎回の取材では相手との“距離感”に最も気を使う。「ほめすぎると傷のなめあいになって、僕も取材対象も怪しく感じられるなというのはすごく考えていて。それは嫌なので、皆さんの素晴らしいところを褒めたい気持ちを程よいところで抑えて、芸人でも一発屋でもない状態で書こうと心がけています。気持ちとしての距離感は非常に難しいですが『褒めすぎぬよう、こき下ろしすぎぬよう』を意識します。特に相手がお笑い芸人さんだったら、全編ヨイショ記事書いたら逆に失礼やと思うんですよ。だから、僕は皆さんに適度にズケズケ聞くようにしています」。

■一発屋芸人の「生き方はしなやか」 文筆業での活躍に意欲?「腹案はあります」

 これまでの5回で取り上げてきたのは、レイザーラモンHG、コウメ太夫、テツandトモ、ジョイマン、ムーディ勝山&天津木村といった面々で、きょう発売の9月号ではアンケートネタで注目されたハローケイスケの数奇な芸人人生を追う。比喩表現もクドくなく、テンポの良い文章で、それぞれの芸人たちの新たな一面が浮かび上がってくる。「僕自身が感じたことで言えば、けっこうみんなまだ諦めてないなっていうのはありましたね。今年すぐっていう訳ではないんですけど、常に何か新しいことを仕掛けてやっていこうっていう、みんな前向きにやっているなっていう印象を受けました。同じ一発屋というくくりの自分でも、知らなかったことがありました」。

 山田は「一発屋になるには、自分の負けを飲み込む段階が必要」とキッパリと言う。「だから、この連載に出てくる人たちも、一度負けをちゃんと認めていると思うんですよ。僕は、その生き方はしなやかだし、人間として上等やなと。美談にはならないけど、生きているよっていうことは言いたかった。別に世間は『価値がない』と思ってくれていいんですけど、そんなことないよって言う人がいてもいいんじゃないかなと思って、書いた部分はあります」。そんな一発屋芸人界のルネサンス(文芸復興)が、現在進行中であるという。

 「10~20年前と違って、先輩方の頑張りによって一発屋というものをポジティブに取り扱うマニュアルっていうのが、完全にできていると感じます。本当に除夜の鐘が鳴ったら、仕事がゼロになるっていうのをくぐってきた、うちの事務所でいえばダンディ坂野さんみたいな先輩がいらっしゃった。その頃は、ネガティブな見られ方をしていた部分もありましたけど、ここ何年かはライトな感じで、一発屋がファッションになっている(笑)。一辺倒にネガティブなことじゃないという流れができつつありますね」。

 放送作家界の大御所・高田文夫、お笑いコンビ・浅草キッドの水道橋博士など、文の世界でも活躍する先輩たちからも絶賛されている同連載。新潮社では、芥川賞作家のピース・又吉直樹が『劇場』を5月に発売したが、小説の世界には興味はないのだろうか。「腹案はあります(笑)。だから、この連載が終わったら編集さんが『小説を書きませんか』って言ってくれるのを待っているんですけど…。この間、新潮社さんに行かせてもらった時に又吉くんの等身大ポスターがあったんですけど、その横をコソコソと通らせてもらいました」。

 トレードマークのワイングラスをペンに持ち替え、一発屋芸人たちの今をつづる山田ルイ53世。「ペンは剣よりも強し」との格言通り、相方のひぐち君の「ひぐちカッター」よりはるかに重い筆圧で、これからも文筆業で大きく羽ばたいてくれそうだ。

最終更新:8/20(日) 13:11
オリコン